妻から熟年離婚を切り出され、「退職金」も分割されると知りました。妻が「離婚後のために貯めた200万円」も財産分与の対象になるのでしょうか?
ファイナンシャルフィールド / 2024年9月22日 5時0分
Aさん夫婦は熟年離婚します。「妻は以前から離婚後の生活のために個人的に預金していて、200万円貯まったそうです。いま財産分与について話し合っているのですが、妻個人の預金は財産分与できるのでしょうか? 」とAさんが相談にいらっしゃいました。
熟年離婚と財産分与
熟年離婚とは、一般に20年以上結婚生活を送った中高年夫婦の離婚をいいます。離婚の際には婚姻期間中に築いた財産を2人で分けることになりますが、これを財産分与といいます。
原則として、財産は夫婦で2分の1ずつ分けます。対象となるのは、婚姻期間中に築いた財産で、
●現金
●預貯金
●不動産
●株式・投資信託
●債券
●保険(生命保険、年金保険など)
●退職金
●住宅ローンなどの借入金
などが挙げられます。一方、財産分与の対象とならないのは、結婚する前から持っていた財産や、婚姻期間中であっても、それぞれの実家から相続や贈与で受け取った財産です。
Aさん夫婦の事情
Aさん夫婦はともに50代後半で、一人娘は結婚して家を離れました。離婚を切り出したのは妻でしたが、Aさんもコロナ禍で在宅ワークが増えた頃からお互いの価値観の違いを感じていました。ずっと専業主婦だった妻は、数年前から離婚に備えてパートを始め、すでに200万円ほどを新しい生活の資金として貯めているようです。
Aさんはやり直せないかと話し合いましたが、妻の離婚の意思は固く、離婚に応じることにしました。ただ、調べていくと自分名義の預貯金だけでなく退職金も財産分与の対象になるほか、65歳から受け取るはずの公的年金の一部も妻に分割されると知りました。
Aさんは、どうしても納得できなくて、まだ受け取っていない退職金や年金も本当に半分ずつ分けるのか、妻の離婚準備の200万円の預金が財産分与の対象とならないのかと、相談にいらっしゃいました。
妻の預貯金
妻名義の預貯金も、結婚生活の中で貯めた預貯金であれば財産分与の対象となります。パートで働いて得た収入であっても、生活費を切り詰めて貯めたへそくりであっても、その期間の生活費は夫の収入から賄っていたのですから、夫婦共有の財産と考えられるのです。
退職金
退職金は財産分与の対象です。まだ受け取っていなくても、勤務先の会社に退職金の規約があり、受け取ることが確実と考えられる場合には財産分与の対象です。
Aさんは1年後に退職金を受け取る予定で、その金額もほぼ確定しています。従ってAさんの退職金は財産分与の対象です。ただし、退職金の全部が対象となるわけではなく、在職期間のうちの婚姻期間に応じて、ということになります。
例えば、在職期間が23歳から60歳までの38年、婚姻期間が30年で、退職金が2000万円の場合、妻が受け取れる金額は
2000万円÷ 38 × 30 × 1/2 = 789.5万円
です。Aさんはまだ退職金を受け取っていないので、受け取ってから分けるか、離婚の際に退職金の妻の取り分を上乗せして妻に渡すという方法をとることになるでしょう。
老齢厚生年金
年金分割は、離婚する際に、婚姻期間中の厚生年金保険料納付の記録(標準報酬の総額)を多い夫(妻)から少ない妻(夫)に分割する制度です。年金分割には3号分割制度と合意分割制度があります。
3号分割制度では、妻が国民年金の第3号被保険者であった期間の夫の厚生年金の2分の1を分割できます。ただし、この制度が始まったのが平成20年なので、対象となるのは平成20年4月以降の厚生年金記録です。もし夫の合意が得られなくても、離婚から2年以内に妻が請求を行えば分割が行われます。
それより前の厚生年金記録を分割したいときは、合意分割制度を利用します。当事者が話し合って合意するか、合意できなければ裁判手続きによって分割の割合を定め、離婚から2年以内に請求することで分割が行われます。
年金分割によって、専業主婦だった妻にも老齢厚生年金を受け取る権利ができますが、離婚した後は60歳まで自分で国民年金保険料を納めなければなりません。また、夫が亡くなった後に遺族年金を受け取る権利もなくなります。
まとめ
熟年離婚の場合、一緒に暮らした期間が長いが故に、築き上げたさまざまな財産があるため、財産分与で苦労することが多いようです。Aさんは、年金まで分割されることに肩を落としながらも、できるだけ誠意をもって妻と話し合うとおっしゃっていました。
Aさんは定年後も継続雇用されることになっているので、収入は減少するものの、貯蓄も将来の年金も増やすこともできます。思い描いていた老後生活とは異なりますが、自分らしく生きる老後のライフプランを再構築し、実現していってほしいと思います。
執筆者:蟹山淳子
CFP(R)認定者
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