将来的に、会社員の「年末調整」が廃止に!? もしなくなったらどうなるの?“メリット・デメリット”を解説
ファイナンシャルフィールド / 2024年9月27日 2時30分
2024年9月の自民党総裁選で「年末調整の廃止」を掲げた候補者がいました。本記事では、そもそも年末調整とは何なのか、将来的に年末調整が廃止になった場合は会社員にどのように影響するのか、考えられるメリット・デメリットは何かについて解説します。
所得税と住民税、源泉徴収と年末調整
はじめに、所得税と住民税の違い、所得税の源泉徴収と年末調整について説明します。
所得税と住民税
所得税は、個人の1年間(1月から12月まで)の所得(収入から経費などを引いたもの)に対してかかる国税です。「申告納税制度」という仕組みであり、納税者自身が税務署へ申告することで税額が確定し(確定申告)、自ら納税します。
原則は全員確定申告ですが、給与所得者のうち年末調整によって納税や還付が完了する人は、確定申告不要です。
他方、住民税は、道府県民税、市町村民税であり、所得税の確定申告(または年末調整)、住民税の申告などを基に行政機関が税額を決定する「賦課課税制度」という仕組みです。
源泉徴収とは
所得税は申告納税制度が原則ですが、給与所得など一定の所得には「源泉徴収制度」も採用しています。所得税の源泉徴収制度は、給与の支払者(勤務先)が、雇われて働く人(給与所得者)本人の給与から所得税をあらかじめ差し引いておき、本人に代わってまとめて納税することをいいます。
年末調整とは
その年の分の所得税額は、年末にならないと正確に計算できません。12月支給予定の給与や賞与を含めた計算の結果、源泉徴収額が所得税額を超えることになれば、超過分を12月の給与などで還付し、不足となれば12月の給与などで源泉徴収して精算します。この一連の精算手続きのことを、年末調整といいます。
給与収入が2000万円を超えた年などは年末調整の対象外となり、確定申告が必要です。また、年末調整をしても、年末調整で対応できない内容を申告したい場合(医療費控除など)、確定申告が必要です。勤務先から得た給与以外に申告すべき所得がある場合なども、原則として確定申告が必要です。
まとめると、一般的な会社員の場合、所得税の源泉徴収→所得税の年末調整→一部の人は所得税の確定申告→翌年度分の住民税の決定、という流れになります。
年末調整の廃止は会社員にどのように影響するのか
もし年末調整が廃止されたら、給与所得者の全員が自分で確定申告することになります。今までも、何らかの事情で年末調整できなかった人は自分で確定申告しますが、基本的にはこれと同じです。年末調整廃止の影響を、「現行の仕組みのままの場合」と「行政と民間のデータ連携が進む場合」に分けて紹介します。
現行の仕組みのままの場合
所轄の税務署に出向いて書類に手書きして確定申告することもできますが、インターネットの「国税庁 確定申告書等作成コーナー」を利用する方法が便利です。
年末調整で勤務先に提出していた書類(民間保険の控除証明書など)、勤務先が発行した「令和〇年分 給与所得の源泉徴収票」、還付を受ける場合の銀行口座情報、扶養している家族全員の個人番号(マイナンバー)などを手元にそろえ、入力します。
スマートフォンで「国税庁 確定申告書等作成コーナー」を利用する場合、給与所得の源泉徴収票をカメラで読み取ったり、企業・団体が源泉徴収票や控除証明書などを電子化(XMLファイルで発行)している場合、「デジタル庁 マイナポータル」でXMLファイルを取り込み「国税庁 確定申告書等作成コーナー」に反映させたりすることも可能になっています。
20年以上の歴史がある「国税庁 確定申告書等作成コーナー」は改良が蓄積されていますが、「デジタル庁 マイナポータル」は発展途上の段階です。現行の仕組みのままで年末調整が廃止された場合、機器や通信などの環境面、ITリテラシーなどを考えると、給与所得者の中には自力で確定申告できない人もいると思われます(年末調整してもらっているパートタイマーなどを含みます)。
行政と民間のデータ連携が進む場合
勤務先の「給与所得の源泉徴収票」や民間保険の控除証明書などの電子化が進み、必要な書類すべてをXMLファイルで「デジタル庁 マイナポータル」に取り込めるようになると、確定申告作業の手間や誤りは激減するでしょう。
最終的には、マイナポータル経由で確定申告書等作成コーナーにログインした段階で、確定申告に最低限必要な内容が自動登録されていて、大部分の納税者(内容の追加、削除、選択が不要な人)は、これらを確認、承認するだけで作業完了、という形が望まれます。
年末調整廃止のメリット・デメリット
年末調整廃止のメリットとしては、給与所得者が自ら申告することにより税への意識が高まること、企業側にとっては年末調整業務にかかる人員や委託費用を減らせることが挙げられます。
デメリット(課題)としては、給与所得者全員がマイナポータルおよび確定申告書等作成コーナーを利用できる環境の整備、納税者からの質問に対応する国税庁やデジタル庁の体制整備などが考えられます。
まとめ
「確定申告に使用する源泉徴収票、控除証明書などの電子化」「マイナポータルの操作性改善、機能強化」など、行政・民間双方の取り組みが進めば、確定申告の作業そのものはますます簡単になります。
そのうえで、国民目線で納得できる、わかりやすい年末調整廃止メリットを打ち出せれば、会社員やパートタイマーの全員が手軽に正しく確定申告できる時代が来るかもしれません。
出典
国税庁 所得税の確定申告
執筆者:福嶋淳裕
日本証券アナリスト協会認定アナリスト CMA、日本ファイナンシャル・プランナーズ協会認定 CFP(R)、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、日本商工会議所認定 1級DCプランナー(企業年金総合プランナー)
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