親が認知症になる前に利用できる「家族信託」って知っていますか?
ファイナンシャルフィールド / 2024年9月30日 3時0分
高齢化の進展に伴い、認知症患者が増加しています。内閣府の「令和6年度版高齢社会白書」によると、2025年、65歳以上の認知症の数は、MCI(軽度認知障害)を合わせると1000万人を超え、今後増えていくことが予測されています。このような背景から、将来、自分や親が認知症になった場合にどう対処すべきか悩んでいる方も多いでしょう。 今回は、特に財産管理の観点に注目して、認知症になる前に利用できる「家族信託」について解説します。
そもそも「信託」とは何か?
信託とは、大切な財産を信頼できる相手に託すことです。例えば典型的な信託では、財産を持っている人が、特定の目的(信託目的)を実現するために他者に財産を託します。その相手は、信託目的を達成するために、その財産の管理や処分を行います。信託には、主に次の2つの機能があります。
・財産の管理・処分機能
認知症のリスクがある老親の財産管理を、生涯にわたり担う機能
・資産承継先の指定機能
遺言と同様に、財産を自分が希望する方法で円滑に承継できる機能
家族信託とは?
家族信託を理解するには、商事信託と比較して考えることが重要です。商事信託は、信託銀行などに報酬を支払い、資産運用を任せて資産価値の増加を図るものです。信託銀行では、原則として信託できる財産が金銭に限られます。
一方で、家族信託は、信頼できる家族に財産管理を託します。信託できる財産は金銭に限らず、不動産なども含まれ、契約内容を自由に設計できることが特徴です。営利目的で行う商事信託とは異なり、家族信託では家族間での契約が中心となるため、報酬が発生しないケースがほとんどです。
家族信託に関わる主要な関係者
家族信託を検討する際に、主要な関係者を理解しておくことが重要です。
委託者:財産を持っている人(例:父母、祖父母)
受託者:委託者から財産の管理を託される人(例:子、孫、甥、姪)
受益者:管理を任せた財産(信託財産)の受益者(利益を受け取る人、通常の信託においては、委託者=受益者)
加えて、任意で「信託監督人」や「受益者代理人」を置くことができます。これにより、受託者の行為を監督したり、受益者の利益を守ったりすることが可能です。
家族信託の三大メリット
1)資産凍結リスクの回避
親が認知症になると、銀行の定期預金が引き出せなくなったり、不動産の売却ができなくなったりすることがあります。このような資産凍結のリスクを回避するために、家族信託を活用することで、親が認知症を発症しても、親の財産を生活費や介護費用として使えるようにすることができます。
2)多段階の相続に対応可能
高齢の親の財産管理だけでなく、残された配偶者の支援も考慮する必要があります。家族信託では、父親(=委託者兼第一受益者)の生涯だけでなく、母親(=第二受益者)の生涯も支える財産管理の仕組みを構築できます。
3)不動産の共有による「争族」の回避
共同相続した不動産が、将来さらに分散して共有関係が複雑化すると、財産処分が難しくなる可能性があります。しかし、家族信託を利用することで、将来的な相続を見据え、特定の受託者に財産管理を任せることができます。その結果、受益者全員の同意を必要とせず、財産を適切に処分することが可能です。
まとめ
家族信託は、信頼できる家族や親族に財産管理を託せる点や、契約内容を自由に設計できる点で、非常に魅力的です。しかし、家族信託に精通した専門家が少ないことや、導入コストがかかることから、長期的な視野で検討することが重要です。いずれにしても、家族信託を検討することで、家族間の思いを率直に伝える、よい機会になるでしょう。
出典
内閣府 令和6年版高齢社会白書(全体版)(PDF版) 第2節 高齢期の暮らしの動向 2 健康・福祉
執筆者:廣重啓二郎
佐賀FPオフィス 代表、ファイナンシャルプランナー、一般社団法人日本相続支援士会理事、佐賀県金融広報アドバイザー、DCアドバイザー
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