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遺す人も、引き継ぐ人も、知っておきたい「相続時精算課税制度」とは、どのような制度なのでしょうか?

ファイナンシャルフィールド / 2024年10月20日 8時0分

遺す人も、引き継ぐ人も、知っておきたい「相続時精算課税制度」とは、どのような制度なのでしょうか?

「相続税が心配」と相続についての不安をもつのは、多くの場合、相続人となる子世代です。前提として、相続が発生するまでは、親の財産は親のものであり、どう扱おうと、子が口出しできるものではありません。ただし、親がどのように考えているのか話をすることで、その後の相続にまつわる負担や不安を軽減することは可能です。また、対策をすることで、税負担を抑えられるのであれば、制度を活用することも選択肢となります。   本記事では、改正された「相続時精算課税制度」についてお伝えします。

「相続時精算課税制度」とは

「相続時精算課税制度」は、親や祖父母から子や孫などへの財産移転を促進し、世代間の資産移転を図る目的で設けられた税制優遇制度です。この制度を利用すると、通常、贈与時に発生する贈与税が一定額まで課されず、贈与を受けた財産は、相続時に一括で相続税の対象として精算することになります。
 
一定額までの贈与であれば、贈与時には贈与税を支払わずに済みますが、贈与された財産は、相続が発生した際に相続財産に算入されて相続税の対象になるというものです。つまり、納税の先送りであり、免除ではないことに注意が必要です。制度の主旨は、資産を多く保有する親世代から子世代へ財産を移転することで、贈与と相続の公平性を確保しつつ、経済循環を目指すものです。
 
「相続時精算課税制度」は、贈与税と相続税に一体化を見据え、2003年(平成15年)に導入された制度です。ただ、使い勝手の悪さからこれまであまり浸透していませんでした。相続対策としては、年間110万円の非課税枠を利用した暦年課税を選択した方がたやすく、効果的であるとして、多数派でした。
 

2024年1月からの主な改正点「110万円の基礎控除」

2024年の改正により、「相続時精算課税制度」が一部見直されました。主な変更点としては、これまで制度を選択した場合には贈与税の基礎控除である「年間110万円の非課税枠」が適用されない仕組みでしたが、2024年からはこの非課税枠を同時に利用できるようになりました。
 
これにより、相続時精算課税制度を選択しても、毎年110万円までの贈与については、相続が発生した際の相続税の精算を適用しない(相続税が発生しない)範囲として処理することができ、超過分のみが相続時に精算されます。
 

「相続時精算課税制度」のメリット

より柔軟な資産移転が可能という点では、「相続時精算課税制度」は有効な選択肢ですが、それぞれの家族構成や財産の種類、その他の事情にもよるため、有効性については一概にどちらともいえません。まずは、「相続時精算課税制度」を選ぶメリットを考えてみましょう。
 

多額の財産移転ができる

相続時精算課税を選択すると、累計で2500万円までの贈与であれば贈与税が発生しません。贈与者からの贈与は相続発生までの全期間にわたるため、一度に贈与しても、分割しても2500万円までは贈与税は非課税となります。毎年110万円の「暦年贈与」と比較すると、短期間での資産移転が可能となります。
 
なお、2500万円を超えた分については、一律で20%の贈与税が課税されます。贈与税の最大税率が55%であることをふまえると、負担軽減効果はあると考えられます。
 

相続税納税に向けた具体的対策ができる

贈与を行った時点では、受贈者(贈与を受ける人)の税負担が少なく、相続時にまとめて税金を支払うため、相続税を調整することが可能です。特に、将来的に価額が上昇することが予測される財産については、相続が発生した際、贈与時の価額で相続財産額を計算する相続時精算課税制度を利用することで相続税額を減少させる効果も期待できます。
 

生前贈与で「争族」の回避

亡き後のことを「遺言書」で遺すことも大切ですが、「相続時精算課税制度」の利用は生前に特定の人物への財産分与など「遺す人」の意思表示をすることで、確実に実行し見届けることが可能です。他の相続人となるべき人に対しては、きちんと思いを伝えることで、後々のトラブルを回避することにもつながります。
 

「相続時精算課税制度」のデメリットと注意点

改正により、メリットが多く感じられる「相続時精算課税制度」ですが、制度そのものの手間や注意点については、これまで同様に慎重に検討する必要があります。デメリットや注意点は以下の通りです。
 

一度選択すると取り消せない

相続時精算課税制度を利用する場合、税務署に「相続時精算課税選択届出書」と添付資料を提出する必要があります。選択後は、その年以降の贈与すべてが制度の対象となり、最終的には、相続時に税金が課されます。相続時精算課税制度は一度選択すると取り消しができません。「やはり暦年贈与がよかった」と思っても戻すことができないため、慎重に検討する必要があります。
 

小規模宅地等の特例が使えなくなる

小規模宅地等の特例とは、一定の要件を満たすと土地の相続税評価額を最大80%減額できる制度です。相続時精算課税制度を利用して、土地を贈与した場合には、贈与された土地に特例は適用されません。制度を利用するかどうかの選択とともに、何を贈与するかについても検討する必要があります。
 

価額が変動する資産については、慎重な検討が必要

相続時精算課税制度を利用した場合、相続発生時に算出する相続税は、贈与時の価額を基準に相続財産に加算されます。将来的に価額が上昇する資産についてはメリットとなり得ますが、価額が変動する資産については予測できないため、想定外に相続税負担が重くなることも考えられます。
 

贈与の合計が相続税の基礎控除を超える場合の負担

相続財産と贈与財産の合計が基礎控除を超えると、その超過部分に相続税が課税されます。このため、相続財産の全体額をしっかりと把握し、計画的に贈与を行う必要があります。
 

まとめ

2024年1月からの改正により、非課税枠110万円の利用が可能となり、「相続時精算課税制度」の使い勝手が向上しました。親世代(もしくは祖父母世代)からの財産移転、世代間の資産移転がより柔軟に行えるようになっています。教育資金や住宅資金に何かとお金が必要な子世代にとっては、生前贈与はありがたいものです。多額の資産を保有する親世代にとっては、亡き後の財産について、少しずつ準備を進めておきましょう。将来的に親族間の誤解やトラブル回避につながりますし、対策することで、税負担の軽減効果も見込めます。
 
ただし、生前贈与は双方に有意義な場合も多くありますが、親世代の生活やリスク対策を優先すべきであり、子世代が当然に受け取るべき資産ではないことは言うまでもありません。まずは、資産や相続についてどのように考えているのか話をするところから始めてみるとよいでしょう。
 

出典

国税庁 No.4103 相続時精算課税の選択
国税庁 No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)
国税庁 No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)
 
執筆者:大竹麻佐子
CFP🄬認定者・相続診断士

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