介護保険の「高額介護サービス費」をご存じですか? そのサービス内容や、対象になる・ならない事例を紹介
ファイナンシャルフィールド / 2024年11月3日 23時20分
介護保険の利用者数は年々増え、厚生労働省によると、その数は2025年には年間600万人を超える見通しです(※1)。 利用者数が増え続けるなかで、給付額の増加への対応として、保険料の増額改定や利用者の負担額も見直され、利用者の負担額は当初の一律1割から、所得区分別に1~3割になりました。介護にまつわるお金について悩みを持つ人も多いでしょうが、使える制度は活用していきたいものです。 今回は、介護保険の「高額介護サービス費」について、その制度の内容を見てみましょう。
介護保険の高額介護サービス費とは
介護保険の利用者が自己負担する介護サービス費は、所得区分に応じて1ヶ月の負担限度額が決まっています。
限度額を超えると、超えた分は申請により払い戻しを受けることができます。これを「高額介護サービス費」といいます。
同じ世帯に複数のサービス利用者がいる場合は、原則、世帯の自己負担合計額で計算されます。
図表1
高額介護サービス費の所得区分別負担限度額
公益財団法人生命保険文化センター「公的介護保険で自己負担額が高額になった場合の軽減措置とは?」(※2)より引用
介護サービス費には、高額介護サービス費の対象になるものと対象にならないものがあります。
対象となる介護サービス費
以下のサービスは、高額介護サービス費の対象に該当します。
●居宅サービスと施設サービスを利用した際の利用者負担額
●自治体等が行っている「総合事業」の介護予防訪問サービス・介護予防通所サービス等の利用者負担額
対象とならない介護サービス費
以下については、高額介護サービス費の対象には該当しません。
●介護施設での食費・居住費や日常生活費
●要介護度等に応じて定められる、利用上限額を超えた分の利用者負担額
●福祉用具購入、住宅改修、ミドルステイ、緊急ショートステイ、緊急一時保護サービス、住民主体訪問サービス、フレイル改善通所サービス、一般介護予防事業の利用者負担額
給付方法
高額介護サービス費の給付を受けるには、各自治体の担当部門への申請が必要ですが、その受け取り方には「本人償還」と「受領委任払い」の2つの方法があります。
「本人償還」は、利用者負担額を本人が全額支払い、後から利用者負担限度額を超えた部分の償還を受ける方法です。そのため、一時的に立て替え払いが発生します。
「受領委任払い」は、利用している介護保険施設の同意が必要ですが、高額介護サービス費が直接施設に支払われるので、本人は利用者負担限度額を施設に支払えば済みます。
なお、介護の手続きや実際の活動は、遠隔地に住む家族が分担して行うことも多いので、申請もれなどが起きないよう注意が必要です。
また、給付を受ける権利の時効は自己負担額を支払った日の翌日から2年になっているため、申請が遅れないよう注意が必要です。
高額医療・高額介護合算療養費制度
要介護高齢者の場合は、介護費に加えて医療費の支出も相当額になることが多いでしょう。
健康保険(後期高齢者保険を含む)の高額療養費については、介護保険利用以前から給付を受けることがあると思いますが、「高額医療・高額介護合算療養費制度」は、医療保険と介護保険について、年間額で所得区分に応じて合算限度額が設定され、限度額を超えた場合は医療保険と介護保険の比率に応じて、それぞれの制度から払い戻されます。
図表2
高額医療・高額介護合算療養費制度の限度額(年額:8月1日~翌年7月31日)
公益財団法人生命保険文化センター「公的介護保険で自己負担額が高額になった場合の軽減措置とは?」(※2)より引用
・70歳未満の世帯の場合も限度額が少し変わりますが、適用されます。
所得区分による利用者負担額について
「介護保険の高額介護サービス費」と「高額医療・高額介護合算療養費制度」の2つの制度に共通しているのは、所得区分別の利用者負担額に大きな差があることです。
もし、親を扶養家族としている世帯の場合は、子は現役としての収入を得ており、親も相当の年金受給を受けていることが多く、世帯収入が上がって所得区分の上位に入ることになります。
この場合は、高額介護費の負担限度額が上がるため、利用者負担額が多くなります。
このような場合の対策の一つとして、「世帯分離」という手続きがあります。
「世帯分離」とは、同居の扶養高齢者の住民登録を別にして、扶養家族から外すことです。
世帯分離により、利用者負担限度額が小さくなり、結果的に給付額を増やせることになります。
世帯分離にはこのようなメリットもありますが、保険料や手当などの面でデメリットもあるので、総合的に検討して行うのがよいでしょう。
終わりに
介護保険の高額介護サービス費は、介護保険の利用者負担額が増えることを緩和するための制度です。利用にあたっては、高額療養費との合算制度を含めて利用することが大切です。
また、介護保険サービスの利用者が同居外のケースも多く、介護保険と医療保険の利用額全体を見ることが難しい場合もあるかもしれません。適正なサービスを受けられるようにするためにも、家族間(兄弟姉妹等)で連携し、役割を分担することも必要ではないでしょうか。
特に、家族が離れて住んでいる場合は、担当のケアマネジャーに状況に応じて相談をしてアドバイスを受けることなども不可欠となるでしょう。
出典
(※1)厚生労働省 令和2年版 厚生労働白書-令和時代の社会保障と働き方を考える- 図表1-9-6 介護保険利用者数の推移及び見通し
(※2)公益財団法人生命保険文化センター 公的介護保険で自己負担額が高額になった場合の軽減措置とは?
執筆者:植田英三郎
ファイナンシャルプランナー CFP
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