最低賃金が「55円」アップ! 賃上げを期待したけど、会社からは「諸手当を含めば最低賃金はクリアしている」と言われました。最低賃金には“諸手当”も含まれるんですか? 働く人が知っておくべきポイントを解説
ファイナンシャルフィールド / 2024年11月9日 4時30分
最低賃金の対象となる賃金は、毎月支払われる基本的な賃金です。諸手当については、最低賃金に含まれるもの、除外するものが明確に定められていますが、不適切な取り扱いも見受けられるようです。 本記事では、厚生労働省の資料などに基づいた正確な取り扱いと、最低賃金制度の趣旨・概要も含め、働く人が知っておくべきポイントを解説します。
最低賃金制度とは何か
最低賃金制度とは、最低賃金法に基づき国が賃金の最低限度を定め、使用者(会社)は、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならないとする制度です。就業規則や労働契約などで労使の合意があっても、最低賃金以下の賃金を定めることはできません。
最低賃金は、通常は都道府県別に定められる「地域別最低賃金」を指します。都道府県内の事業場で働くすべての労働者とその使用者に適用されます。正社員、パート、アルバイト、派遣社員といった雇用形態は問われません。
2024年10月以降に適用される最低賃金は図表1の通りです。全国の目安は「50円アップ」とされていましたが、27県でこれを上回り、徳島県は84円増の980円と大幅引き上げを決めています。このほか、特定の産業に設定される「特定最低賃金」もありますが、今回は説明を省略します。
図表1
厚生労働省 地域別最低賃金の全国一覧を基に筆者作成
派遣労働者の取り扱い
派遣労働者には、派遣元の事業場の所在地にかかわらず、派遣先の最低賃金が適用されます。例えば千葉県(最低賃金1076円)の派遣会社から東京都(同1163円)の事業所に派遣された場合には、東京都の最低賃金1163円が適用されます。
最低賃金に含まれるもの・含まれないもの
最低賃金の対象となる賃金は、毎月支払われる基本的な賃金です。
臨時に支払われる賃金(結婚手当など)や1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)は対象外です。また、毎月の基本的な賃金という趣旨から、時間外・休日・深夜等の割増賃金、精皆勤手当、通勤手当、家族手当なども対象外となります。
会社には最低賃金周知義務がある。しっかり説明を求めよう
会社は、最低賃金の適用を受ける労働者の範囲、最低賃金額、参入しない賃金および効力発生日を従業員に周知する義務があります。例えば作業場の見えやすい場所に掲示するなどです。
人事部から「諸手当含めれば最低賃金はクリアしている」と言われても、最低賃金の計算でどんな手当を含んでいるのかなど、しっかり説明を求めましょう。
手当の名称ではなく「実質的に労働の対価として基礎的な賃金で、月々変動するものではない」という観点で確認することが大切です。疑問があれば労働基準監督署などへの相談も検討しましょう。
最低賃金法に違反したらどうなるか
最低賃金額に達しない賃金を就業規則や労働契約で定めても、その部分は無効です。最低賃金法第4条に基づき、無効となった部分は最低賃金と同様の定めをしたものとみなされます(「強行的・直律的効力」と言われる効力です)。なお、最低賃金以上の賃金を払わなかったら50万円以下の罰金が科されます。
もし従業員が最低賃金法違反と考えた場合、労働基準監督署などに申告することも可能です。それに対して会社が解雇や不利益な取扱いをした場合には、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されます。従業員への最低賃金以上の支払いは、国により保護されているのです。
最低賃金額以上かどうかを確認する方法
最低賃金の対象となる賃金額と適用される最低賃金額を比較します。
・時間給制の場合
時間給≧最低賃金額(時間額)
・日給制の場合
日給÷1日の所定労働時間≧最低賃金額(時間額)
・月給制の場合
月給÷1ヶ月平均所定労働時間≧最低賃金額(時間額)
・出来高払制その他の請負制によって定められた賃金の場合
出来高払制その他の請負制によって計算された賃金の総額を、当該賃金計算期間の総労働時間数で除して時間当たり金額に換算し、最低賃金額(時間額)と比較します。
では月給制の場合、最低賃金以上であるかどうかを実際に計算して確認してみましょう。今回は福島県(最低賃金額955円、引上げ額55円)のAさんを例にとり見ていきます。
(前提)
●基本給15万円、職務手当1万円、通勤手当5000円、時間外手当3万5000円(合計20万円)
●労働時間:1日当たり8時間(年間労働日数250日)
まずAさんの賃金から、最低賃金の対象とならない賃金を除きます。除外される賃金は通勤手当、時間外手当です。職務手当は除外されません。
20万円-(5000円+3万5000円)=16万円
次に、この金額を時間額に換算し、最低賃金額と比較します。
(16万円×12ヶ月)÷(250日×8時間)=960円>955円
つまり、Aさんは最低賃金額以上となっているため、賃上げの対象にはなりません。
最低賃金は労働者の基本的な権利
最低賃金以上の賃金を受けるのは労働者の基本的な権利です。
賃金の最低額を保障することで労働条件を改善し、生活の安定や労働力の質的向上をはかっています。これが「事業の公正な競争の確保に資するとともに、国民経済の健全な発展に寄与する」という国の重要な政策なのです。自身の権利はしっかり主張し、疑問があれば労働基準監督署などに相談しましょう。
出典
e-Gov法令検索 最低賃金法
厚生労働省 最低賃金制度の概要
厚生労働省 労働者と最低賃金制度
厚生労働省 最低賃金額以上かどうかを確認する方法
執筆者:玉上信明
社会保険労務士、健康経営エキスパートアドバイザー
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