自宅は配偶者へ生前に渡すべき? それとも相続時? 贈与税の配偶者控除と相続税の配偶者控除の違いとは?
ファイナンシャルフィールド / 2024年11月10日 22時0分
自分名義の家を、いつかは妻(夫)に渡したい。そのような希望をお持ちの方は、「家は生前に渡しておくべきか、それとも相続時に渡すべきか」と、一度は疑問に思うことでしょう。 夫婦間で家を贈与する場合、一定額を課税上の財産額から控除できる特例があります。一方で相続税にも配偶者控除があるため、税金上どちらが有利か、混乱することも少なくありません。 そこで本記事では、贈与税と相続税の配偶者控除の違いを整理した上で、そのメリットとデメリットについてまとめます。
贈与、相続時どちらにも配偶者控除がある
「贈与税の配偶者控除」と「相続税の配偶者控除」
どちらも、財産を渡す相手が配偶者であれば一定額まで税額がかからない、という点では同じですが、その内容は大きく異なります。
では、どのような違いがあるのでしょうか。冒頭の課題(「家は生前に渡しておくべきか、それとも相続時に渡すほうがよいのか」)を考える上で大切なことですので、まず、それぞれの内容を見てみましょう。
贈与税の配偶者控除とは
贈与税の配偶者控除とは、居住用不動産または居住用不動産を取得するための金銭を配偶者に贈与した場合、基礎控除(110万円)に加え、贈与税計算上の財産額から最高2000万円(合計で2110万円)までを控除できる制度です(※1)。
この制度を利用するためには、次の要件を満たす必要があります。
1.夫婦の婚姻期間が20年以上であること(事実婚や内縁は不可)。
2.贈与を受ける配偶者が住むための家、または家を購入するための資金を贈与すること。
3.贈与を受けた年の翌年3月15日までに、贈与により取得した不動産または贈与を受けた資金で購入した不動産に、贈与を受けた配偶者が現実に住んでおり、その後も引き続き住む見込みであること。
4.過去にこの制度を利用したことがないこと。
5.贈与税の申告書を税務署に提出すること。
結婚して20年以上の夫婦、かつ住居として使う土地や建物またはその購入のための資金に限られる上、控除額が最高2110万円と、制限が多いように感じるかもしれません。
しかし、この制度を使った場合の贈与税の節税効果は、通常の贈与税の税率(財産の額に応じて10%~55%)を考えると、かなり高いといえるでしょう。なお、この制度は土地・建物の一部を渡す場合でも利用できます。
もし家の価格(路線価)が2110万円を超えている場合は、配偶者と所有権を共有にして贈与税ゼロで贈与することも可能です。
相続税の配偶者控除とは
もう一方の相続税の配偶者控除を見てみましょう。この制度を利用すると、配偶者が相続した財産のうち、次の(1)、(2)のどちらか大きいほうの金額までは、相続税が課されません(※2)。
(1) 1億6000万円
(2) 配偶者の法定相続分
たとえば、妻、子2人がある夫が亡くなったとします。妻の配偶者控除は、妻が相続した財産が(ア)1億円の場合は最高1億6000万円(*1)、(イ)5億円の場合は最高2億5000万円です。
(*1) 現実には相続財産が1億円のため、控除額も1億円となります(妻の相続税額はゼロ)
具体的に計算式を示してみます。
(ア)の場合:
(2) 配偶者の法定相続分は、1億円×1/2(妻の法定相続分)=5000万円
(1) > (2)のため、1億6000万円
(イ) の場合:
(2) 配偶者の法定相続分は、5億円×1/2(妻の法定相続分)=2億5000万円
(1) < (2)のため、2億5000万円
以上の計算で示した配偶者控除の額がいかに大きいかは、相続税が課される財産の被相続人1人当たりの平均が1億3711万円(2022年国税庁の調査による、※3)であることからも分かると思います。
なお、前述の「贈与税の配偶者控除」と違い、こちらは住居用の不動産に限らず、被相続人名義の財産すべてが控除の対象となる上、贈与税の配偶者控除をかつて利用したことがあっても利用できます。
生前贈与、相続のどちらがよいかはケースバイケース
贈与時にも相続時にも、配偶者には大きな税務上のメリットがあることが分かりました。
それでは、結局、自宅は(配偶者に)生前に渡しておくべきなのでしょうか、それとも相続時に渡すほうがよいのでしょうか? この答えは、ケースバイケースです。
次に示す、生前贈与と、相続によるそれぞれの主なメリット・デメリットを比較して判断する必要があります。
生前に贈与する場合のメリット・デメリット
●自身が元気なうちに、配偶者に贈与税上有利に土地・建物を贈与できる。
●生前に配偶者へ確実に名義を移すことができる。
●不動産の一部を贈与して共有名義にして、やむを得ない事情(*2)により売却した場合は、譲渡所得の3000万円特別控除を夫婦両方で利用できる可能性がある。
(*2)やむを得ない事情がないのに売却した場合は、前述の要件「贈与を受けた配偶者が現実に住んでおり、その後も引き続き住む見込みであること。」に抵触する恐れがあります。
●過去7年以内の贈与であっても、贈与税の配偶者控除を使った贈与は相続財産への繰り戻しの対象とならない。
●不動産取得税や登録免許税等、登記にかかる費用がかさむ(*3)。
(*3)相続時は、不動産取得税はゼロ、登録免許税は相続人以外の人が遺言によって取得した不動産を登記する場合の税率の5分の1で済みます。
●生前贈与の結果、相続時に自宅の土地の価格を最大80%減額できる「小規模宅地の特例制度」のメリットがなくなる、もしくは減少する(*4)。
(*4)この理由により、生前贈与を行っても、相続税の節税効果はほとんどない場合があります。
●贈与を受けた配偶者が先に亡くなると、その財産を相続する際に(かつて贈与をした人に)相続税がかかる可能性がある。
相続時に渡す場合のメリット・デメリット
●贈与時と比べて、控除限度額が大きい。
●不動産取得税がかからず、登録免許税が5分の1で済む。
●生前に土地・建物の評価や贈与税の申告手続きなどの煩わしい作業をしなくて済む。
●遺言がない場合、家を配偶者が確実に受け取ることができないリスクがある。
●相続時に配偶者へ財産を多く分与すると、二次相続(配偶者が亡くなったときの相続)で多額の相続税がかかることがある(*5)。
(*5)相続税の配偶者控除があるからといえって、配偶者の控除を最大限利用して財産分与すると、その後配偶者が亡くなったときに次の代に資産が移転する際には配偶者控除が使えないため、(特にもともとの配偶者の財産が多い場合は)子の相続税負担が重くなる可能性があります。
入念なメリット・デメリットの比較が必要
繰り返しになりますが、自宅を配偶者に贈与する場合は、相続時のことも考えた上で、自分のケースに当てはまるメリットとデメリットを注意して比較する必要があります。また、贈与税や相続税上のメリットだけでなく、家族間の関係や土地・建物の評価額なども併せて考えておく必要があります。
したがって、安易に税務上のメリットだけで決めずに、相続全般に詳しい税務の専門家等に事前に相談することをおすすめします。
出典
(※1)国税庁 No.4452 夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除
(※2)国税庁 No.4158 配偶者の税額の軽減
(※3)公益財団法人 生命保険文化センター 相続税がかかった人はどれくらいいる?
執筆者:酒井 乙
CFP認定者、米国公認会計士、MBA、米国Institute of Divorce FinancialAnalyst会員。
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