「年末調整の廃止案」に賛否両論! もしなくなったらどうなる? 年収600万円の「4人家族」を例に、メリット・デメリットを解説
ファイナンシャルフィールド / 2024年11月13日 2時10分
先日の自民党総裁選では、公約として河野太郎氏から「年末調整の廃止」が打ち出され賛否両論が巻き起こりました。実際に年末調整が廃止されたらどうなるのでしょうか? 本記事では年末調整の仕組みを踏まえて、廃止にともなって考えられるメリットやデメリットについて具体的な世帯例を挙げて解説します。
年末調整の仕組みをおさらい
年末調整とは、給与所得者の税額を年末に精算する制度です。あらかじめ源泉徴収された所得税を、年末に還付や徴収で調整します。
例えば、年収600万円の夫、専業主婦の妻、16歳未満の子どもが2人の4人家族の場合は、源泉徴収税額は20万円前後となります。年末調整で、基礎控除や生命保険料控除、住宅ローン控除(2年目以降)など各種控除を計算し、還付もしくは不足があれば徴収します。
給与支払者である企業が従業員に代わってまとめて手続きするため、給与所得者のほとんどは確定申告をする必要がありません。
河野氏の年末調整廃止の真意は?
河野氏の「年末調整廃止」の意見がひとり歩きしましたが、急に廃止するわけではありません。河野氏の考えは次の通りです。
・国税庁、市町村、日本年金機構などに、勤務先から提出している所得関連のデータを国で一元管理する
・税務署など各機関には、国からマイナンバーに紐づけて情報連携する
・マイナンバーに情報を紐づけることで、e-Taxなどに自動入力される
・雑所得にかかる経費以外は自動入力となるので、個人の確定申告の手間が省け、事業者にとっても年末調整に関する大幅な事務コスト削減につながる
このように、マイナポータルを活用した新たな仕組みが実現すれば、年末調整が廃止され国民全員が確定申告へと移行するハードルは大きく下がる可能性があります。
年末調整を廃止するメリット
実際に、河野氏の提言するようにマイナポータルと所得情報の連携が進み、簡単に確定申告できるようになった場合は、次のようなメリットが考えられます。
・確定申告の手続きがシンプルになる
・申告ミスが減少
・各企業内や行政の効率化
・ペーパーレス化による環境負荷低減
現在の年末調整では控除できなかった医療費控除の情報も、医療機関から自動連携できる可能性があります。また、スマホや自宅のパソコンで、ほぼワンクリックで確定申告が完了するため、年末調整の書類を提出するよりもむしろ手間が省けるかもしれません。
企業にとっても年末調整業務がなくなるため、書類作成や交付、確認などの手間が大幅に削減されます。税務署などの行政にとっても、AIによるチェックが進めば、今よりも業務を圧縮できる可能性があります。
また、河野氏の公約では、所得情報を迅速に把握できるようになるため、タイムラグなく住民税の決定も行えるとしています。現在の仕組みでは、前年の所得により翌年6月以降の住民税額が決定するため、前年より収入が減った場合の負担が重いという問題があります。
さらに、確定申告時には税金と社会保険料の負担額も画面上で確認できるため、より納税意識が高まり、税金の使い道に関心を持つ人が増えることも期待されています。
年末調整廃止で考えられるデメリット
一方で、給与所得者の年末調整が廃止され、確定申告制に移行した場合、約4635万人が新たに確定申告を行うことになります。これは、現行の確定申告者数の約2倍の数であるため、トラブルが起こる可能性も高いでしょう。年末調整廃止のデメリットには次のようなものが考えられます。
・企業や行政のシステム導入の負担
・システム構築などのコスト負担
・セキュリティ面のリスク
マイナポータルとの連携を進める際は、誰もが使いやすいシステムの構築が必要です。さらに、全ての企業で導入しなければ申告する所得に漏れが発生してしまうため、導入コストの負担は大きいものとなるでしょう。
また、セキュリティ面については細心の注意が必要です。個人や各世帯の所得を管理するシステムとなるため、情報が流出した場合はシステムの不備では済まされない大問題となってしまいます。
まとめ
年末調整を行う給与所得者は、約4635万人です。もし年末調整が廃止され、全国民が確定申告を行うとなると現在の確定申告者の約2倍、数が増えることになります。特に導入当初はトラブルが起こる可能性が高く、かえって企業や税務署などの負担が増大することが懸念されます。
しかし、マイナポータルとの連携がスムーズにできれば、国民はワンクリックで確定申告が済むようになります。企業や税務署等の負担も大幅に減る画期的なシステムとなる可能性があります。
今回の年末調整廃止案は、賛否両論がありますが、国民一人ひとりが納税額や税金の使い方に目を向けるよい機会ともいえるでしょう。
出典
国税庁 給与所得の源泉徴収税額表(令和6年分)
国税庁 給与所得者(従業員)の方へ(令和6年分)
国税庁 令和5年分 民間給与実態統計調査
国税庁 令和5年分の所得税等、消費税及び贈与税の確定申告状況等について(報道発表資料)
執筆者:古澤綾
FP2級
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