パート先で「賃上げ」が実施される予定であり、「仕事の負担が増えてもよいので、扶養を外れて働こうか」と考えています。扶養から外れて働くことによって、将来の年金額はどのくらい増えるのでしょうか?
ファイナンシャルフィールド / 2024年11月14日 4時20分
パートで働く場合でも、扶養から外れて社会保険へ加入することで、将来の年金額の増加が期待できます。一方で、社会保険料の負担も生じます。本記事では、社会保険への加入による年金額と保険料の負担について解説します。
パート収入における「年収の壁」
手取り額に影響のある、「年収の壁」があります。パートで働く人は「103万円の壁」などといった話を聞いたことがあるでしょう。この「〇〇〇万円の壁」とは、年間収入が一定以上になると、扶養から外れ、税金や社会保険料に影響が生じる数字を示したものです。
年収の壁は5つあり、その種類を大きく分けると「税金の壁」と「社会保険の壁」の2つに分類できます。まとめると、図表1のようになります。
図表1
100万円の壁 | 税金の壁 | 年収が100万円を超えると、住民税が発生する(原則的には、年収93万円から100万円を超える人が課税対象。住民税が非課税となる収入金額は自治体によって異なる)。 |
103万円の壁 | 税金の壁 | 年収が103万円を超えると、所得税が発生する。 また、配偶者(納税者)の税金の控除である「配偶者控除」(控除額38万円)が適用されなくなる。会社によっては配偶者手当や扶養手当の支給条件を、この年収以下としているケースも多い。 |
106万円の壁 | 社会保険の壁 | 従業員数が51名以上の会社で、月収が8万8000円以上あるなどの場合、社会保険への加入義務が生じる。 |
130万円の壁 | 社会保険の壁 | 年収が130万円を超えると、勤務先の規模にかかわらず、社会保険への加入義務が生じる。 |
150万円の壁 | 税金の壁 | 年収が103万円超150万円以下であれば、満額(38万円)の「配偶者特別控除」を受けることが可能(ただし、控除を受ける納税者の収入要件もあり)。 150万円を超えると、配偶者特別控除が満額から段階的に少なくなり、201万円で控除額がゼロとなる。 |
※筆者作成
従業員数が51名以上の会社で、月収が8万8000円以上ある場合、社会保険への加入義務が生じる「106万円の壁」
2016年10月から始まった「社会保険適用拡大」により、2024年10月以降は、勤務先の従業員数が51人以上・収入が月額8万8000円以上ある場合も、社会保険の加入対象になりました。月収8万8000円×12ヶ月で、年間収入は105万6000円(約106万円)となります。これがいわゆる「106万円の壁」です。
2024年9月まで、社会保険適用対象の条件の一つである「勤務先の従業員数」は、101人以上でした。2024年10月以降は、従業員数の条件が「51人以上」となったことで、勤務先が新たに社会保険適用拡大の対象となることがあります。この場合、収入が変わらなくても社会保険の加入対象になる可能性があり、注意が必要です。
なお、社会保険適用拡大には、勤務先の規模や収入以外にも、以下の条件があります。
●週の所定労働時間が20時間以上30時間未満
●2ヶ月を超える雇用の見込みがある
●学生ではない
社会保険加入で将来増える年金額
ここからは、パート勤務の人が社会保険に加入することで、将来受け取れる年金額がどのくらい増えるのかを確認します。
社会保険に加入すると厚生年金にも加入することとなり、将来もらえる年金については、老齢基礎年金(国民年金)部分に加えて、厚生年金のうち「報酬比例部分」に当たる年金額が増えることになります。図表2では、収入と厚生年金の加入期間から、増える報酬比例部分の年金額の目安が分かるようになっています。
図表2
出典:厚生労働省 「社会保険適用拡大ガイドブック」
※年金額は概数であり、実際の金額とは異なります。
例えば、月収8万円(年収96万円)でこれまで社会保険に加入していなかった人が、月2万円分多く働くようにして月収10万円(年収120万円)になったとします。勤務先が社会保険の適用対象であり、収入以外の条件も満たしていれば、「106万円の壁」に該当しますので、社会保険への加入義務が生じます。
月収10万円(年収120万円)で加入期間が10年の場合、増える年金額は目安として月額4900円となります。年間では、5万8800円の増額です。
60歳以降も社会保険に加入することで、年金額を増やせる場合もある
国民年金の老齢基礎年金を満額受給するためには、20歳から60歳になるまでの40年間、全ての国民年金保険料を納めている必要があります。国民年金保険料の未納分がある場合は、満額受給することができません。
しかし、60歳以降も社会保険(厚生年金)に加入することで、老齢厚生年金の経過的加算額が支給され、未納分を穴埋めすることができます。例えば、令和6年度の定額単価1701円(昭和31年4月2日以後生まれの単価)を基準に計算すると、60歳以降の方における厚生年金加入期間1年当たりの経過的加算額は、約2万円増えます。
社会保険への加入で保険料負担が生じる
社会保険に加入すると、将来の年金額が増えるメリットがありますが、一方で社会保険料を納める負担も生じます。社会保険料は、厚生年金保険料や健康保険料、介護保険料といったものの総称です。社会保険料は勤務先との折半となっており、給与から天引きする形で勤務先が納付を行います。
厚生年金保険料の負担
会社員である配偶者の扶養に入っていた人(第3号被保険者)の場合、年金保険料は配偶者の加入している厚生年金で一括して負担されていたため、自身で納める必要がありませんでした。しかし、扶養から外れて社会保険に加入した場合、新たに自身の厚生年金保険料の負担が生じます。
図表3
出典:厚生労働省 「社会保険適用拡大ガイドブック」
※年金保険料は概数であり、実際の金額とは異なります。
例えば、月収10万円(年収120万円)であれば、図表3から、月額およそ9000円の負担が生じることが分かります。
なお、例えば夫が自営業者(第1号被保険者)などといった場合は、それまで国民年金(令和6年度の月額保険料1万6980円)に加入していた妻(第1号被保険者)が、パートの勤務先で社会保険に加入することで、年金保険料が安くなる場合もあります。
健康保険料・介護保険料の負担
会社員である配偶者の扶養に入っていた人(第3号被保険者)が、社会保険に加入すると、自身の健康保険料や40歳以上の人の場合は介護保険料の負担も新たに生じます。
例えば、月収10万円(年収120万円)の場合、東京都の協会けんぽ令和6年度保険料額では、健康保険料は約4890円、40歳以上64歳までの人の介護保険料は約780円となります。
なお、第3号被保険者が社会保険に加入しても、会社員の配偶者が納めている保険料が減ることはありません。結果として、世帯全体の保険料負担も増えることになります。
一方で、自営業者など国民健康保険料を納めている世帯の場合は、扶養している人が社会保険に加入することで、世帯全体の納める国民健康保険料が減る場合もあります。
まとめ
社会保険に加入すると、「厚生年金」へ加入でき、将来受け取れる年金額が増えるメリットがあります。万が一亡くなったり、一定の障害を負ったりした場合、遺族厚生年金や障害厚生年金を受けられるなどのメリットもあります。
また、勤務先が所属する「健康保険」への加入も、国民健康保険にはない「傷病手当金」や「出産手当金」を受けられるといったメリットがあります。
一方で、保険料の負担により手取りが減る場合や、配偶者の扶養手当などが減額または廃止されることもあります。社会保険に加入するメリットや、世帯全体の手取り額への影響などをしっかり確認しながら、働き方を検討するようにしましょう。
出典
厚生労働省 社会保険適用拡大特設サイト パート・アルバイトのみなさま
日本年金機構 年金給付の経過措置一覧(令和 6年度)
日本年金機構 国民年金保険料
全国健康保険協会(協会けんぽ) 令和6年3月分からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表(東京都)
執筆者:小山英斗
CFP(日本FP協会認定会員)
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