現在は退職金が減っている!? 退職金制度の最新動向とは
ファイナンシャルフィールド / 2024年11月21日 9時20分
長年勤めた企業で定年を迎えるとき、多くの企業では退職金を受け取れます。この退職給付制度は、日本企業独特の慣行といわれています。本記事では、退職金制度や退職金などの現状を見てみましょう。また、自分が将来もらえる退職金はいくらになるか、確認することも大切です。
退職金制度・退職金の現状
厚生労働省「令和5年就労条件総合調査」によると、退職給付(一時金・年金)制度がある企業の割合は、令和4年(2022年)1年間において、全企業の74.9%となっています。企業規模別に見ると「1000人以上」の企業が90.1%、「300~999人」の企業が88.8%、「100~299人」の企業が84.7%、「30~99人」が70.1%となっています。
ただし、退職給付制度がある企業の割合は、5年前(平成30年)に公開された同調査の結果(平成29年1年間についての調査)では全企業の80.5%であり、そのときに比べて支給する企業がやや減っています。
そもそも退職給付制度は、退職時に一括して退職一時金を給付する「退職一時金制度」と、確定給付企業年金(DB)や企業型確定拠出年金(DC)など、退職後に年金の形で給付する「退職年金制度」で構成されています。
上記調査では退職給付制度を持つ企業のうち、退職一時金のみを持つ企業が69.0%、退職年金制度のみを持つ企業が9.6%、両制度を併用している企業が21.4%となっています。
また、定年退職者1人当たりの平均退職給付額(勤続20年以上かつ45歳以上の定年退職者)は大卒の場合、「勤続35年以上」だと平均2037万円(月収換算で38.9ヶ月)、「勤続30~34年」で1891万円(月収換算で34.5ヶ月)、「勤続25~29年」で1559万円(月収換算で31.5ヶ月)、「勤続20~24年」で1021万円(月収換算で19.6ヶ月)、平均で1896万円(月収換算で36.0ヶ月)でした。
さらに、企業規模別に見た場合「勤続35年以上」という条件下では、「1000人以上」の企業が平均2242万円(月収換算で40.8ヶ月)、「300~999人」で1742万円(月収換算で36.0ヶ月)、「100~299人」で1543万円(月収換算で34.0ヶ月)、「30~99人」で1785万円(月収換算で33.1ヶ月)となっています。
退職金が減っているという現状
続いては、過去と現在の退職金額を比較してみましょう。
厚生労働省の「平成9年(1997年)賃金労働時間制度等総合調査」によると、退職金給付額は大卒平均で2871万円でした。一方で「令和5年就労条件総合調査」によると、令和4年(2022年)には1896万円となっており、急速に減少しています。
このように退職金額が減少している背景としては、バブル崩壊以降の低金利によって、退職積立金が減少していることなどが影響しています。25年前には約2900万円であった退職金は、約1900万円まで落ち込み、約1000万円も減っています。
退職金制度の流れ
近年、退職金を取り巻く環境は変わってきています。
具体的には、退職一時金や確定給付企業年金(DB)などが減少する一方、企業型確定拠出年金(DC)の普及が進んでいます。なぜならば、確定給付企業年金(DB)では将来退職する際の給付が企業の責任となる一方、企業型確定拠出年金(DC)では、企業は一定金額を拠出さえすればよく、その後の運用は従業員の責任となるからです。
ちなみに、厚生労働省「令和5年就労条件総合調査」によると、退職年金制度のある企業の採用内訳を見ると、 確定給付企業年金(DB)44.3%、企業型確定拠出年金(DC)50.3%となっています。
なお、企業が退職金制度を設けていない場合や、自営業者などの場合でも、個人型の確定拠出年金(iDeCo)によって、将来の退職給付の受け取りが可能です。iDeCoでは、自分で全ての掛け金を拠出して運用方針を決めます。企業からの拠出はありませんが、企業型DC同様に税制優遇を受けられます。
また、政府もiDeCo活用を後押ししており、拠出限度額とともに、加入できる年齢を65歳未満から70歳未満に引き上げることも検討しています。
退職所得控除の見直し案について
政府は退職所得控除の見直しによって、退職金への増税を検討しています。
現在、退職所得控除額(所得税・住民税がかからない金額)は勤続年数によって決まります。具体的には、下記のような式で計算されます。
・勤続年数20年以下……40万円×勤続年数 ※80万円に満たない場合は80万円
・勤続年数20年超……800万円+70万円×(勤続年数-20年)
現行制度下では、勤続年数が20年以下の方は1年当たり40万円の控除になりますが、勤続年数が20年を超えると、20年超の部分にかかる控除額は1年当たり70万円に優遇されています。
しかし見直し案として、20年超の部分を1年当たり40万円に縮小することが検討されています。2024年度の税制改正では見送られたものの、2025年度以降に再び議論される可能性はあります。
退職金の使い道
最後に、退職金の使い道を見てみましょう。
一般社団法人投資信託協会の「60歳代以上の投資信託等に関するアンケート調査」(2022年3月公開)によると、退職金の使い道は「預貯金」(59.3%)が最も多く、以下「日常生活費への充当」(25.6%)「旅行等の趣味」(21.7%)「住宅ローンの返済」(20.8%)「資産運用のための金融商品の購入」(20.3%)と続きます。
退職金は、老後の生活費や介護、住宅費などをまかなうための重要な資金です。安易に使うことは避け、今後の生活に必要な費用を把握したうえで、使い道をじっくり検討しましょう。
まとめ
本記事では、退職金の現状について見てみました。今後の政府や企業の動向を注視しながら、自分が将来もらえる退職金はいくらになるか、確認することが大切です。なお、企業に退職金制度がない方や、自営業者の方は、個人で加入できる「個人型確定拠出年金(iDeCo)」をおすすめします。
出典
厚生労働省 令和5年就労条件総合調査 結果の概況
厚生労働省 令和5年就労条件総合調査 第37表(退職事由、学歴、職種、勤続年数階級、企業規模別退職者1人平均退職給付額)
厚生労働省 就労条件総合調査:結果の概要
厚生労働省 確定拠出年金制度 制度改正に関するチラシ
国税庁 No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)
一般社団法人投資信託協会 60歳代以上の投資信託等に関するアンケート調査-2021年(令和3年)
執筆者:水上克朗
ファイナンシャルプランナー、CFP(R)認定者、1級ファイナンシャルプランニング技能士、DC(確定拠出年金)プランナー
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