「103万円の壁」を178万円に引き上げるという国民民主党の政策は、日本経済にとってどのような意味を持つのか。
ファイナンシャルフィールド / 2024年12月16日 22時30分
高校で金融教育が行われ、またNISA(少額投資非課税制度)の裾野も広がり、かつてと比べ金融リテラシーを身に付けられる機会が増えています。 私たちは生活者であると同時に、投資をしている場合は投資家でもあります。金融教育が国民レベルで広がっていくと、国が実施する経済政策の良しあしについて判断できる人が増えるのではないでしょうか。 今回は「103万円の壁」を178万円に引き上げる政策が、わが国の経済成長にどのように寄与する可能性があるか、一緒に考えていきましょう。
「103万円の壁」を178万円に引き上げるとGDPはどうなるか
一国の経済規模を測る物差しとして、GDP(国内総生産)という経済指標があります。
GDPは、図表1のように計算されます。GDPはYで表されますが、これを構成するものに、C(家計消費)、I (民間投資)、G(政府支出)、X(輸出)、M(輸入)があります。
図表1 GDP(国内総生産)の計算式
※筆者作成
「103万円の壁」を178万円に引き上げるという政策は、所得税の減税につながります。
G(政府支出)
これまで政府が徴収していた税金が減るわけですから、所得税の減税は、政府支出の実質的な増加となり、GDPを押し上げる要因になります。
C(家計消費)
所得税が減ると、いわゆる「手取り額」が増えます。手取り額が増えるということは、使えるお金が増えることでもあるため、「これまでよりも消費に回すお金が増える」と考えることができます。つまり、家計消費の増加はGDPの押し上げ要因になります。
I(民間投資)
民間投資についても、家計消費の例と似たようなことがいえます。民間投資には住宅投資や設備投資などが含まれます。
住宅投資は、マイホームの購入などを指します。所得税の減税は、住宅の購入者にとってはプラスに働きます。手取り額が増えるわけですから、増えた分を住宅購入費の一部に回すことができます。
一方、設備投資は企業が機械などの設備に資金を使うことです。個人の納める所得税が減れば、消費が活性化され、結果として企業の売り上げが増えます。こうして企業がもうかると、より多くの資金を設備投資に回すことができます。
このように、民間投資の増加も、GDPを押し上げる要因になります。
X(輸出)・M(輸入)
それでは、輸出と輸入はどうでしょうか。
所得税が減税されると手取りが増えるため、人々の購買力(モノを買う力)が強まり、海外からの輸入が増えます。また、輸出から輸入を引いたものを純輸出といいますが、所得税を減税すると輸入額が増え、純輸出が減る可能性が高まります。
これらをまとめると、所得税の減税は、家計消費、民間投資、政府支出においてGDPの増加にプラスに働き、純輸出の面でマイナスに働くということが分かります。つまり、「103万円の壁」を178万円に引き上げることは、経済政策としては内需拡大策ということができます。
政策によっては、GDPの影響が短期的に表れるものと、長期的に表れるものとがある
「『103万円の壁』を178万円に引き上げる」という所得税の減税策を巡っては、「財源はどうするのか」という指摘があるようです。
確かに、所得税を減税するので、政府としては短期的には減収につながると考えられます。しかしながら、経済が活性化される可能性があるため、長期的にはGDPが増加し、国にとっては増収になると考える方が妥当でしょう。
ここで重要なのが、短期的な見方と長期的な見方を分けて考えることです。
政策には、すぐに効果が上がるものと、効果が出るまでに時間がかかるものがあります。
岸田政権で実施されたいわゆる「定額減税」は、一時的な減税であったため、確かに短期的には効果はありました。しかし、「103万円の壁」を178万円に引き上げるという政策は、所得税の基礎控除等の金額を変更する必要があるため、恒久的な政策と位置づけられます。つまり、長期的に効果を引き出し、GDPの増加につなげるというものです。
まとめ
金融教育を受ける目的は、ひょっとしたら、国の経済政策について国民一人ひとりが適切に判断できるようになることなのかもしれません。
金融教育が広く普及するにつれて、経済について自分で考えることのできる人が、少しずつ増えることを期待します。
執筆者:重定賢治
ファイナンシャル・プランナー(CFP)
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