病気で長期間治療を受けながら、職場復帰するための道筋
ファイナンシャルフィールド / 2019年3月12日 10時40分
水泳の池江璃花子選手が白血病であるという衝撃的なニュースが流れてきました。白血病は血液のがんと言われていますが、がんという病気は、今や2人に一人がなると言われている病気です。 筆者は神奈川県内の病院で、がん患者さんの就労支援相談員をさせていただいていますが、長期間治療が続く方へのアドバイスの難しさを感じています。今回は、病気で長期間治療を受けながら、職場復帰するための道筋を考えてみます。
治療方針を含めて色々な専門家に相談することが大事
病名が診断されると、その後の予定をはっきりと予測できないし、また診断にショックを受けて、今後のことがなかなか考えられなくなるのは当然です。ただ、病院でも治療を担当する医師や看護師だけでなく、社会福祉士や臨床心理士、私たちのような就労支援相談員など、様々な専門家を利用する仕組みがある病院が多くなっています。
治療する間、どういう生活をしたいか、まずは箇条書きでも構いません。希望を書き出していくことから始めましょう。患者さんとお話をしていて、不安がいっぱいあるため、整理ができていないと感じることはよくあります。相談できる場所は必ずあることを忘れないでください。
要領よくまとめて言う必要はありません。相談に来られる方とお話していると、例えば「職場に迷惑をかけたくない」「家族に迷惑をかけたくない」と、自分の言いたいことも封印してしまっている方もいるように感じます。
周囲から何を言われようと、病人になったからには「自分を一番に考える」「頑張りすぎず、病気と長く付き合いながら生活することを考える」ということを優先していただきたいものです。
「退職する」「辞める」という選択肢は置いておいてくださいということです。手術前後は休むというのは当然ですが、その後、長い治療が続きますから、その間、短時間の勤務や日数を短くするなど、できる範囲を見極めながら勤務を継続できれば、長く続く治療費も助かります。
次で述べる治療費の公的援助もありますが、まずは「収入を確保する」道筋を考えるべきでしょう。
高額療養費、医療費控除、そして傷病手当金は役に立つ
高額療養費や限度額適用認定証をご存知の方も多いでしょう。医療費が一定金額を超えると一部が還付される仕組みです。
参照:全国健康保険協会「高額な医療費を支払ったとき」
限度額適用認定証を最初に医療機関の窓口に提出すると、高額療養費を申請したのと同じ効果があります。最初に現金を準備しないでいいので申請をして安心しがちですが、世帯合算など、高額療養費を最大限活用できないかもしれません。高額療養費は、「月でまとめる」「世帯でまとめる」などと、工夫次第で還付金が異なるのです。
次に、利用したいのは医療費控除です。確定申告が終わった方でも、遡って過去の分を申請することは可能ですから、家族全員で、かかった医療費の領収書全てを整理してみましょう。医療費控除は、10万円の医療費がかかっていなくても、申告できるケースがあります。
参照:国税庁「No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)」
また、医療費控除の特例である「セルフメディケーション税制」が創設され、指定のものが12,000円を超えた場合にも申請可能です。薬を購入したときなど、レシートに「この薬は、セルフメディケーション税制の対象となります」との記載があるか確かめてみましょう。
健康保険が同一でないと使えない高額療養費と異なり、医療費控除は、生計が同一であれば申告できます。本人でなくても、配偶者や子供など、生計を同一としている人の中で、だれで医療費控除すると還付されるのか、これも工夫できる選択肢の一つです。
最後に、治療が長引き、会社を長期休業が見込まれる時には、傷病手当金を請求するといいでしょう。最大1年6か月、給料の約3分の2が休業を始めた4日目から支給されます。「病気のため」「労務不能」で「4日以上継続して」休業することが条件となりますから、もし、手術や治療の期間が選べるのであれば、どの時期で申請すればよいのかを専門家とぜひ相談してみてください。
障害年金の請求もあきらめないで
実はがんの場合にも、障害年金は請求できます。
参照:日本年金機構「障害認定基準改正に関すること(障害年金)」
認定基準を見ると、とても難しそうに感じますが、原則として、(1)初診日に被保険者であること (2)保険料の納付要件を満たしていること (3)一定の障害の状態にあること、という3つの要件を満たすと申請ができます。
障害年金を請求するほどの障害じゃないからと請求をあきらめる方がいらっしゃいますが、障害とは、必ずしも寝たきりのような重篤な障害ばかりではありません。
障害年金と認定されて、障害の程度が軽くなれば、対象外とされることもありますし、その後障害の程度がもっと重くなることもあります。自分で判断せず、普段診ていただいているお医者さんに診断書を書いていただけるか依頼してみてください。
病気になると、どうしても不安や思いが自分で完結してしまうこともあるでしょうが、誰に相談すればいいのか、周囲の人に聞いてみることもしてみてください。会話することで自分でも気付いていない不安に気付いたり、少し得をすることがあったりと、前向きになれることがあればいいと思います。
病気と診断されても、治療を受けながら、職場等で一定の配慮を受ければ仕事が継続できる方が増えているように感じています。仕事と治療の両立支援は、平成20年ごろからがんの分野を中心に高まってきましたが、まだ道半ばです。今は、患者として周囲に頼っていたとしても、超えられれば、次は治療を続ける人の役に立つことができます。
執筆者:當舎緑(とうしゃ みどり)
社会保険労務士。行政書士。CFP(R)。
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