学生だから何もしない、という選択肢はない 国民年金保険の学生納付特例制度
ファイナンシャルフィールド / 2019年3月22日 9時0分
![学生だから何もしない、という選択肢はない 国民年金保険の学生納付特例制度](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/financialfield/financialfield_39901_0-small.jpg)
筆者は専門学校で非常勤講師をしています。また、時々、大学でも講師を勤めることがあります。ご聴講いただくのは、もちろん20歳前後の学生の皆さまです。そんな時には、国民年金を話題にします。 そして、以下のような話をします。「20歳になったら、国民年金保険料を納めますか?2019年度の国民年金保険料は1万6410円です。もし、国民年金保険料を納めることが難しければ、学生納付特例の手続きを行いましょう。何もしない、ということは無いように」
学生納付特例制度ってどんな制度?
日本国内に住む人は、20歳になったら国民年金の被保険者となり、国民年金の保険料を納める義務が生じます。国民年金保険料を納める義務は、もちろん学生にもあり、留学生も例外ではありません。
その金額は先述の通り、2019年度は1万6410円で、年齢や所得に関わらず一律です(ただし、前納による割引制度があります)。この国民年金の保険料を「(家計の事情で)納めることが難しい」という学生のために、「学生納付特例制度」という、国民年金の保険料を「猶予」するための制度があります。
ちなみに「猶予」とは、平たく言えば「出世払い」のようなイメージでしょうか?「学校(大学)を卒業し、就職してから猶予された保険料を納めてくれれば良いですよ」という感じですね。
ただ、学生という身分にあれば、誰もがその「猶予」の恩恵にあずかれる訳ではなく、所得の制限があります。本人の所得(収入ではありません)が一定額以下でなくてはなりません。本人の所得が一定額とは、下の計算式に基づいた金額です。
118万円+扶養親族等の数×38万円+社会保険料控除など
なお、学生納付特例制度は「本人の所得」だけで「猶予」できるか判断しますが、「国民年金の保険料免除」は、「本人の所得」だけでなく「世帯主の所得」や「配偶者の所得」も含めて「免除」できるか判断します。
もし、学生本人だけでなく、世帯主の失業などで「家族全体が経済的に厳しい」ということでしたら、「学生納付特例制度」よりも、「国民年金の保険料免除」の手続きをする方が良いでしょう。
後述するように、学生納付特例制度よりも、国民年金の保険料免除の方が有利な点があるからです。
学生納付特例制度の対象者は?
対象となる学生は、大学院を含む大学、短期大学、高等学校、高等専門学校、特別支援学校、専修学校に在学する方です。全日制に限らず、夜間・定時制課程や通信課程の方も含まれます。また海外の大学の日本分校も一部が対象です。
また、専門学校の認可を受けていない(いわゆる各種学校と言われる)学校も、卒業までの期間が1年以上あり、また私立なら都道府県知事の認可を受けていればOKです。
なので、ほとんどの学生の皆さんが対象になると思われます。ちなみに、年齢の制限はありません。なお、おおむね1年以上、海外に留学する場合は、国民年金の保険料の納付義務が無いので、学生納付特例制度もありません。
「学生納付特例制度」の手続きは、住民登録のある区・市役所か町村役場、もしくは年金事務所でできます。
また、一部の学校では、学校が窓口になっているところもありますが、数は限られているようです(学生納付特例の対象校となっている「代行事務の許認可」を受けた学校です)。郵送でも手続きすることができます。
必要な書類は、まず「国民年金保険料学生納付特例申請書」です。この「申請書」は、先述の市役所や町村役場、もしくは年金事務所に備え付けてある他、日本年金機構のホームページからもPDFをダウンロードすることができます。
添付書類は、大まかに以下の2点です。
☆「年金手帳(名前の書いてあるページ)」のコピー、もしくは「年金番号の通知書」のコピー。
☆在学証明書、もしくは学生証のコピー(両面)。
※申請時点から「2年1ヶ月前」まででしたら、さかのぼって学生納付特例を申請することができます。複数年度の申請を行う時は、各年度につき1枚、申請書が必要になります。例えば、今年度分と昨年度分をまとめて申請する時には、2枚の申請書を提出します。
また、「さかのぼって申請」をしたとしても。「申請日の前」に生じた(=初診日のある)障害は障害基礎年金の対象外です。
老齢基礎年金と学生納付特例制度の関係性
学生納付特例制度によって、国民年金保険料の「猶予」となった期間は、どのように扱われるのでしょうか?
原則として、65歳になった時から老齢基礎年金をもらうことができますが、「原則通りに65歳から」もらえるのか否かは、「受給資格期間」を「満たしているか否か」で判断されます。
受給資格期間に含まれる期間は、以下の通りです。
☆国民年金保険料を納めた期間
☆国民年金の第三号被保険者の期間
☆昭和36年以後の20歳未満、もしくは60歳以後の厚生年金保険の被保険者の期間
☆国民年金の保険料を免除もしくは猶予された期間
☆海外に住んでいた期間
以上の期間を合計して、10年以上(120ヶ月以上)に達していれば、受給資格期間を満たしているということになります。老齢基礎年金は原則通り65歳から、もらえることが分かりました。
では、老齢基礎年金は、いくらもらえるのでしょうか?国民年金保険料は20歳から60歳までの480ヶ月納めていれば、65歳から77万9300円(平成30年後価格)の年金がもらえます。
以下のような計算式に基づいて計算します。
77万9300円×〔保険料納付月数+(保険料全額免除月数×8分の4 or 6分の2)+(保険料4分の1納付月数×8分の5 or 6分の3)+(保険料半額納付月数×8分の6 or 6分の4)+(保険料4分の3納付月数×8分の7 or 6分の5)〕÷480月
「免除月数」に「or」とありますが、「or」の前は、平成21年3月31日までの免除の月数です。「or」の後は、平成21年4月1日以後の免除の月数です。
「保険料全額免除」、つまり国民年金保険料の全額免除の期間は、少しは老齢基礎年金の計算式に含まれません。一方、学生納付特例制度などの「猶予」の期間は、「納め忘れ」の期間と同じく、全て老齢基礎年金の計算式に含まれます。
先述で「家族全体が経済的に厳しい」ということでしたら、「免除をお勧めします」という理由は、ここにあるのです。
追納すると、将来受け取れる年金額はどのくらい増えるの?
学生納付特例制度などの「猶予」の期間は、先述の通り、65歳からの老齢基礎年金の計算に含みません。つまり「猶予」の期間があると、老齢基礎年金の金額が少なくなってしまうのです。
では、「猶予」の期間を取り返す方法はあるのでしょうか?じつは3通りあるのですが、本稿では「追納」について考えてみたいと思います。
例えば、学生納付特例制度などの「猶予」の期間が5年間あり、他に納め忘れや免除などの期間が無かったとします。先述の通り、国民年金の保険料は480ヶ月納めるのが原則ですが、「猶予」の期間分だけ差し引かれますので、以下のような計算式になります。
77万9300円×420ヶ月÷480ヶ月≒68万1900円
老齢基礎年金は、年間で9万7400円少なくなります。そこで、学生納付特例制度などの「猶予」の期間分の国民年金の保険料を追納したとします。
追納保険料は以下の通りです。
![](https://financial-field.com/wp/wp-content/uploads/2019/03/c8a0305ac62526260baef24833f7602b-11.jpg)
追納保険料の合計は94万7400円となります。
ちなみに、国民年金保険料の免除、もしくは納付猶予を受けた期間の翌年度から起算して、3年度目以降に保険料を追納する場合には、承認を受けた当時の保険料額に経過期間に応じた加算額が上乗せされます。
国民年金保険料を追納すれば、9万7400円の老齢基礎年金を取り返すことができます。ただし、「追納した国民年金保険料」と「取り返すことができる老齢基礎年金」がトントンになるには、およそ10年間掛かります。
まとめ
国民年金保険の学生納付特例による「猶予」は、老齢基礎年金だけに絞って考えると、それほどメリットはありません。「受給資格期間」は10年なので、卒業後に就職してから、いくらでもカバーすることができます。
執筆者:大泉稔(おおいずみ みのる)
株式会社fpANSWER代表取締役
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