【落とし穴】年金の繰り下げ支給を考えるとき注意したいポイントとは
ファイナンシャルフィールド / 2019年6月20日 23時0分
老後の生活費の資金源をみると、公的年金・企業年金・個人年金や、就業による収入・金融資産の取り崩しなどが主となっています。特に公的年金は約80%の方が頼りにしているとのデータもあります(※1)。 人生100年時代において公的年金は、インフレ対応にはなっておりませんが終身年金ですので、基本的な生活費は確保できるのではないでしょうか。ここでは、公的年金の繰り下げ支給を考えるときに注意したいポイントを、メリット・デメリットを踏まえ考えていきましょう。
繰り上げ・繰り下げ支給とは
現在の公的年金制度は、老齢基礎年金(全員加入の国民年金)と老齢厚生年金(会社員・公務員などが加入)の2つからなり、原則65歳から受け取り始めることができるようになっております。
しかし、自分自身で申請することにより、受け取りの開始を60歳から70歳の範囲で、指定することができます。そして、65歳より前に受け取る「繰り上げ」を選択すると年金が減らされ、65歳より後に受け取る「繰り下げ」を選択すると年金が増えることになります。
年金の繰下げ支給のメリット・デメリットとは
では年金の繰下げ支給のメリット・デメリットを考えてみましょう。繰下げ支給の最大のメリットは、受け取る年金の金額が増えることです。1ヶ月で0.7%増額されますので1年後には「8.4%」、5年後には「42%」増額されます。
一方、年金の繰り下げのデメリットとして考えられるのは大きく次の3点です。
(1)加給年金や振替加算が支給されない
(2)特別支給の老齢年金は繰り下げできない
(3)在職老齢年金で減った分は繰り下げても戻らない
したがって、増額されるからと安易に繰り下げを選ばず、いろいろな視点から検討してみる必要があります。
平均余命でみた年金額は
次に平均余命(ある年齢の方があと何年生きられるか)でみた年金額を考えてみましょう。平均余命は65歳の男性で84.57歳、70歳では85.73歳となります。女性は65歳で89.43歳、70歳で90.03歳となります(※2)。
分かりやすくするため、男性で年間150万円の年金を受け取れる方で計算してみると、65歳でもらうと合計約2940万円(150万円×19.57年)になり、70歳でもらうと合計約3350万円(213万円×15.73年)になります。差は約410万円です。
女性の場合は、年額50万円の年金を65歳で受け取ると合計約1220万円(50万円×24.43年)になり、70歳でもらうと合計約1420万円(71万円×20.03年)となります。差は約200万円です。
ここから、デメリットの部分(加給年金や振替加算などが支給されない)を差し引くとどうなるでしょうか。ぜひ、ご自分のケースにあてはめて計算してみてください。
手取りで考えることが大事
繰下げ受給を選択すると年金額が増加しますので、当然課税所得も増加するということになります。収入増があれば、それに伴う介護保険料・健康保険料などの負担増は避けられません。
年金だけでなく個人個人で事情(ほかの収入があるなど)が異なりますので手取りで考えることが大切です。
また繰り下げをした場合で最も大事なことは、65歳から70歳までの生活費をどう手当てするかを考える必要があるということです。基本的に資産に余裕のない場合は働くという手段を選択しなければいけないことになります。
退職金を投資に回すという方法も考えられますが、高齢者にとってリスクが大きく、70歳を過ぎてからの投資はやらない方が賢明と考えます。
ライフプランで考える
そのまま65歳で受給する、また繰り上げと繰り下げのどちらが良いということは単純には言えません。個人個人の事情も含めて考えなければいけません。きちんと65歳からのライフプランを考えること(紙に書くこと)が大切です。
65歳まで働くとして、65歳から95歳くらいまでの資産の棚卸し・ライフプラン・キャッシュフロー表を作成してみることです。終活というとなんだか暗いイメージが強いですが、夢を語ろうなんて考えたらいかがでしょうか。
まとめ
人間の寿命は確定したものではありません。したがってどれが正しい年金の受給方法なのかは、後になってみないと分かりません。
FP(ファイナンシャルプランニング)には3つのトライアングルという考え方があります。健康とお金と生きがいのトライアングルのバランスをとることが大事と考えられます。
自分のライフプランについて考え、95歳(女性の2人に1人が90歳まで生きます)までどのくらいの資金が必要かチェックしてみましょう。
具体的に繰下げ受給をする方法として、加給年金がもらえる場合は65歳から厚生年金を受給し、基礎年金を繰下げ受給する。また夫婦で考えた場合、女性の方が長生きすることを考えると、妻だけ繰下げ受給をするというのも選択肢ではないでしょうか。
出展
(※1)金融広報中央委員会 老後における生活資金源
(※2)厚生労働省 平成29年簡易生命表の概況
執筆者:小久保輝司(こくぼ てるし)
幸プランナー 代表
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