【FP解説】住民税非課税世帯の学生が対象となる授業料等減免・給付型奨学金の問題点
ファイナンシャルフィールド / 2019年6月21日 10時15分
低所得世帯を対象に大学や短期大学などの高等教育を無償化する法案が5月10日、参院本会議で可決、成立しました。新たな支援の内容は、入学金・授業料の減免と返済義務のない給付型奨学金(学資支給金)の2つです。 低所得世帯にとっては朗報ですが、合格時に支払う入学金などに、入学金・授業料の減免は利用できるかなどといった疑問があります。 利用できなければ、入学手続き時納付金を準備しておかなければなりませんが、低所得世帯にとってハードルが高く、結局、進学を断念してしまう可能性が高いと言えます。新しい支援措置の問題点について解説します。
授業料等減免は入学金等に使える?
多くの私立大学等では、入学手続き時納付金として、初年度納付金を一括又は分割して支払います。分割して支払う場合は、入学金と前期分の学費を支払うケースが少なくありません。
私大文系の初年度納付金(入学金・授業料・施設設備費)は115万円程度ですが、このうち入学手続き時納付金(入学金・前期分学費)は70万円程度必要です。低所得世帯にとって、これだけのまとまったお金を工面するのは容易ではありません。
入学前に必要となる入学金等の工面の方法としては、日本政策金融公庫の「国の教育ローン」や、労働金庫の「入学時必要資金融資」、市区町村の「母子父子寡婦福祉資金(就学支度資金)」、社会福祉協議会の「生活福祉資金(就学支度費)」がありますが、簡単に借りられるわけではありません。
また、借入額について、入学時必要資金融資(日本学生支援機構の入学時特別増額貸与奨学金の採用候補者が対象)は最大50万円、母子父子寡婦福祉資金(就学支度資金)は最大で59万円(私大自宅外生)、社会福祉協議会の生活福祉資金(就学支度費)は最大で50万円と十分な金額とは言えません。
今回の新制度における入学金・授業料の減免が入学前に納付しなければならない入学金等に適用されないとなると、低所得世帯にとっては進学を断念しなければならない事態になります。
この点につき、文部科学省の資料によると「今回の新制度の趣旨を踏まえると、給付型奨学金の予約採用手続において採用候補者となっているなど、減免対象となる可能性のある学生等については、大学等において、入学金や授業料の徴収を猶予していただくことが望ましいと考えており、そのことをあらためて、大学等にお願いしているところですが、これにより難く、大学等において入学金等を一旦徴収した場合は、入学後に減免が確定した際に、学生等に対して減免相当額を還付することを想定しています。」(高等教育段階の教育費負担新制度に係る質問と回答(Q&A))と回答しています。
一旦支払って後で還付を受けるというのは、低所得世帯にとってハードルが高いので、大学等において、入学金や授業料の徴収を猶予することが望ましいと言えます。しかし、ここにも問題があります。
徴収猶予の対象が「給付型奨学金の予約採用手続において採用候補者となっているなど、減免対象となる可能性のある学生等」となっている点です。
2019年の審査結果については、採用候補者決定通知書が12月頃高校に届くことから、A0入試や推薦入試の入学手続きには間に合わない懸念があります。
授業料等減免だけでは十分ではない。不足分は第一種奨学金の利用ができない!?
授業料等減免の対象は入学金と授業料だけです。学費には、その他、施設設備費などがかかりますので、授業料等減免だけでは十分ではありません。給付奨学金を充てても不足する分は、日本学生支援機構の貸与奨学金を利用することが考えられます。
貸与奨学金には、無利子の第一種奨学金と有利子の第二種奨学金があります。第一種奨学金は学力基準が第二種奨学金に比べて厳しく、評定平均値が3.5以上となっています。ただし、住民税非課税世帯は実質、3.5以上の学力基準は問われません。
住民税非課税世帯の学生は第一種奨学金を借りたいと思うかもしれませんが、第一種奨学金は利用できず、有利子の第二種奨学金を借りることを強いられます。
なぜなら、無利子奨学金の貸与上限額から「授業料の減免上限額+給付型奨学金の支給額」を差し引いた金額の範囲でしか第一種奨学金を利用できないしくみになっているからです。
例えば、私大自宅生の第一種奨学金の最高貸与月額は54,000円です。一方、住民税非課税世帯の「授業料の減免上限額+給付型奨学金の支給額」は月額96,700円になり、54,000円を超えていますので、第一種奨学金の利用可の月額は0円になります。
なぜ、新しい支援制度の対象者は第一種奨学金の利用を制限されるのか疑問です。
執筆者:新美昌也(にいみ まさや)
ファイナンシャル・プランナー
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