【相談実例】「学資保険代わりにドル建ての保険に加入」をおすすめできなかった3つの理由
ファイナンシャルフィールド / 2019年6月26日 23時0分
子どもが生まれたので教育資金を準備するために学資保険に入った方がいいのでは?多くの子育て世帯の方が考えることですね。筆者の家計相談でも30代・40代の方の相談の多くは教育費問題です。 そして教育費関連のご相談で、最近急増しているのが「学資保険に入ろうとしたらドル建ての保険を勧められたのだがどうだろうか」というものです。 先日もまったく同じようなパターンで「ドル建ての終身保険を契約したけれど、よく見たら損をしてしまいそう!」と慌ててご相談がありました。 今回のご相談者様は、学資保険代わりにドル建ての保険に入るのはおすすめできませんでした。その3つの理由をお伝えいたします。
そもそも短期間で掛け金を上回るのは困難
一つ目の理由は、短期間で掛け金を上回る返戻率となる商品はそうないから、ということです。提案された保険商品についてよく理解できていないうちは「返戻率〇〇%です」という言葉につられがちです。
例えば、「18歳の時点で112%になります」などという説明ですね。この超低金利時代に、日本円建ての従来通りの学資保険は保障などの特約(オプション)をつけなかったとしてもほとんど増えません。
生まれてすぐに加入して18年後まで据え置いても掛金合計より増える率はたかが知れています。例えば、とある円建ての学資保険は17歳まで払い込んで受け取る場合、満期時に受け取る金額は掛金の101%程度。
こうなるとほとんどの方が「増えない」と感じることと思います。それと比較するように「こちらの商品なら115%です」と言われたら、魅力的に感じるのも無理はありません。やけに返戻率がいいと思ったら、なにかカラクリがないか考えてみてください。
今回のご相談者様のケースは、お子さんの年齢的に払い込む期間が短かったため、ますます返戻率は低く、ドル建てでも22歳の時点でようやく掛け金を上回るものでした(学資金の想定をしていた18歳の時点では89%と元本を割っていました)。
為替のリスクについて理解が難しい
ドル建てに限らず外貨建ての保険には、「為替」という仕組みが付きまといます。この点についてしっかり理解できているかが重要なポイントです。一つ目にあげた「返戻率」に関しても、「ドルで受け取った場合」などという注釈が必ずついています。
「トータルでいくらの日本円を払って、最終的にいくらの日本円になるのか」が自分でわかるでしょうか。日本に住んでいる限り学資金をドルで払うというケースはさほど多くないでしょうから、結局最終的には「日本円での返戻率」が重要になるわけです。
一時払いで支払いをして(日本円の払込額が確定)受け取りは為替の有利なタイミングまで据え置く余力がある場合以外は、損得が為替の影響を大きく受けます。教育費は使う時期がおおむね決まっていますから、「為替の状況が悪いからしばらく待って」というわけにはいきません。
この10年間の間でも、円-ドルは上に20%、下に20%以上値動きしています。大きな振れ幅があるなかで、支払い中・受け取るときともに有利なタイミングになるかどうかはプロにも想定できません。
ご相談者様は「ドルで払うこと」「ドルの返戻率であること」「何をチェックしていけばいいか」がよくわからないとのことでしたので、外貨建ての保険はお勧めできませんでした。
ニーズに合っていないから
この保険を提案されたいきさつを聞いてみると、教育費の確実な準備のために学資保険に入りたいと相談したところ提案されたものだったそうです。
教育費は学資保険で貯めたほうが良いというイメージがあり、現状はほかの手段で教育費が貯められておらず、もし保険に加入したらその満期金が教育費として用意できる金額だということでした。
とすると、学資が必要となるタイミングで確実に保険からのお金が必要になります。ほかに余力がないことを伝えているのにもかかわらず「為替次第では元本を割る」商品を提案されていることには疑問が残りますし、相談者様のニーズには合っていないことはほぼ間違いありません。
どのような話があったかを伺ってみると、ドル建ては返戻率がいいことのほかに「株や投資信託だと必要な時期にマイナスかもしれないけれど、これなら少なくとも掛け金を上回ります」「学資保険は満期になったら終わってしまうけれど、終身なら使わなかったらどんどん増えていく」「少しずつ払い出すこともできるので車の買い替えなどにも使える」などの説明を聞いているうちに、いい商品ではないか、と魅力を感じたとのことでした。
しかし、よく考えるまでもなくご相談者様のニーズはあくまで「学資金」だったはずです。18歳の時点でそのお金が保険から払い出されることを目的とした保険を検討しているはずなのに、いつの間にか論点がずれてしまっています。
保険の性質と為替リスクについての理解次第
ドル建て終身保険・ドル建て個人年金などは、保険の仕組みのほかに為替の仕組みをよく理解する必要があります。保険商品そのものの是非ではなく、今回の場合はご相談者様の保険の理解とニーズがマッチしていないことによって、お勧めできませんでした。
また、ドル建ての保険商品は従来の学資保険に比べて「販売側」のメリットが大きいという特徴もあります。それを踏まえたうえで、自分の理解やニーズと合っているかどうかを総合的に判断して加入するかどうかを決めていただければと思います。
執筆者:塚越菜々子(つかごし ななこ)
CFP(R)認定者
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