2000万円が無理でも構わない 老後に公的年金だけでは暮らせないワケ
ファイナンシャルフィールド / 2019年6月27日 8時30分
年金暮らしのご夫婦が95歳まで生きた場合、月約5万円で総額2000万円という金額が老後に不足するという数字が、「国民の不安をあおる」と毎日メディアで取り上げられています。 ただ、私たち専門家にとっては、もはや年金だけでは生活できないということは常識です。要は、あくまでも選択肢の一つとして、老後のことを考えようということなのです。人生100年時代、情報に踊らされず正確な知識を持ちたいものです。
老後に公的年金だけでは暮らせないワケ
金融庁の金融審議会の報告資料が波紋を広げています。
財務大臣の「報告を受け取らない」「自分が年金を受け取っているかわからない」などの答弁に象徴される政府の対応には、家計相談を請け負うFP(ファイナンシャルプランナー)として、また年金の専門家である社会保険労務士としても、首をかしげるばかりです。
年金は「100年安心な制度」と言われたとしても、年金だけで生活できる金額を保証しているというわけではないのです。公的年金の仕組みは、何度も申し上げていることですが、そもそも若い世代が年金受給世代を支える仕組みです。
急激に少子高齢化が進む現状で若い世代が増えるかというと、共働き家庭が当たり前のようになってきているとはいえ、働く女性が子育てをするには周囲の理解と援助が必要ですから、増えないと思った方がいいでしょう。
すでに幼稚園と保育園の無償化や高等教育の給付が政策として決定していますが、それが二人目の出産への意欲に効果があるかどうかは少し様子を見る必要があります。
実際に、3人の子育て中の筆者の私見ですが、保育園がたとえ一時的に無償になったとしても子育てはそこで終わるわけではありません。その後の方がずっと長期戦なのです。補助などの支援も長期を見越していただかなければ安心とは思えません。
老後にいくら必要か、正確な金額なんてわからなくても当たり前
SOMPOホールディングスから、今年1月に実施した『人生100年時代の「働き方」に関する意識調査』のデータがリリースされています。男女約1100名以上のモニターの方からの回答ですが、その傾向がわかりますのでご紹介しましょう。
「あなたは、将来の自分の生活において、どの程度お金が必要か計算したことがありますか?」という設問をされて、「考えたことがない」と回答した方が32%、「計算してみたいが、やり方がわからない」が32%、「わからない」8%、「必要がないため、計算していない」3%と、約75%の方が、自分の老後にいくらぐらい必要なのか把握していないという結果となっています。
この結果は、普通の方の一般常識でしょう。FPはお客様の老後資金を計算することがよくあるのですが、依頼された条件で計算すると、途中で貯蓄が底をつくという場合は珍しくありません。
むしろ、計算していて、どんな条件になったとしても「絶対安心」という方にお目にかかるのはとても稀なことと言えるでしょう。
2000万円が無理でも構わない
国民年金は、原則として20歳から60歳まで国民年金の保険料1万6410円を支払って、年金78万100円を一生涯受け取る制度です(いずれも2019年度価格)。加入形態によって、その国民年金に厚生年金や企業年金が上乗せされるというわけです。
では、例えば2000万円を夫婦二人が40年間で貯めていくことを考えてみましょう。ご夫婦二人が働くと、それぞれが積み立てていく金額は月に約2万円。ただ、40年間、定期的にこの金額を貯蓄する必要があるかというと、そう考える必要はありません。
会社からボーナスが支給され、2万円以上貯蓄できる期間もあるでしょうし、70歳までご夫婦で働くとなると、勤労収入があることで、月々の不足分5万円、総額600万円分(60歳から70歳までの10年間)が不要となります。
FPがお客様のために作成するのは、手取りから支出を引き、手元のキャッシュがどう変化するのかを計算するキャッシュフロー表です。
筆者の場合、100歳までは必ず計算します。ここまで計算するのとよく驚かれますが、これは不安をあおるためではありません。「気付き」をしていただくためなのです。
途中で赤字が出れば、外食を控えよう、旅行の回数を減らそう、保険の加入を見直そう、住宅取得資金を少し抑えよう、車の購入時期をずらそう、年金を繰り下げよう、などいくつかの選択肢を試す期間を長く取ることが可能となります。
選択肢を試していくと、当然キャッシュフロー表は随時変更されます。2000万円をとりあえずの目標とし、自分ができるいくつかの選択肢を試しながら、長期で老後資金を準備することをしていくだけで、かなり老後の不安をなくすことができます。
老後が実感できない若い時には、「年金なんて信用できない」、「自分で貯めていた方がよっぽどいい」と言いながら、いざ年金を受け取れる60代になって、何とか少しでも年金が受け取れないかという相談者もたくさん見てきました。
2000万円という金額はあくまでもモデルケースです。人は家族構成も違えば環境も全く異なります。最近、よく起こっているのは、全体をよく見ず一部のワードが切り取られて誤解が生じるという現象です。
今回の問題となった報告書も51ページにわたる大作ですが、メディアは全ての情報を伝えてくれたわけではありません。一つの情報に踊らされず、自分なりの人生、自分なりの目標金額を立てましょう。
出典
SOMPOホールディングス「人生100年時代の「働き方」に関する意識調査」
執筆者:當舎緑(とうしゃ みどり)
社会保険労務士。行政書士。CFP(R)。
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