【改正】後見人の報酬の算定見直しの影響はどこに?
ファイナンシャルフィールド / 2019年6月27日 9時0分
認知症や知的障害などで判断能力が不十分な人を支援するしくみに、成年後見制度があります。 後見人に支払う報酬は現在、利用者の財産額に応じて目安が示されていますが、最高裁はこの算定証式を、業務の難易度によって金額を調整する方法に改めるように全国の家庭裁判所に通知を出した、と新聞で報じられました。現時点でわかっていることをお伝えします。
後見人の報酬の問題点
成年後見人の主な仕事は「財産管理」と「身上監護」です。
「財産管理」では、本人の預貯金の管理や不動産などの管理、「身上監護」では、利用者が適切に生活できるように病院に関する手続き、介護保険に関する手続き、施設入所や施設退所に関する手続き、教育やリハビリに関する手続き、住居の確保に関する手続きなどを行います。
ただし、実際に介護を行ったり、入院に立ち会ったりするなどの事実行為は後見人の仕事ではありません。
後見人の報酬は現在、利用者の財産額に応じて家庭裁判所が決めます。後見人が親族の場合は弁護士などの専門職後見人に比べて減額されます。支払われない場合もあります。
弁護士などの専門職後見人の報酬の目安は、東京家庭裁判所の例では、通常の後見事務が月額2万円、管理財産額が1000万円超5000万円以下は月額3万円~4万円、管理財産額が5000万円超は月額5万円~6万円、身上監護等に特別困難な事情がある場合は上記基本報酬額の50%以内の相当額を付加することができます。
このような報酬体系では、仕事をしてもしなくても報酬額は変わらないので、なるべく仕事をしないほうが得ということになります。実際、専門職後見人の中には利用者と面会しようとしない、毎月10万円など一定額を生活費として渡すだけなどしかしない後見人もいるようです。
今回、最高裁判所が各家庭裁判所に通知した内容は、報道によると、介護や福祉サービスの契約といった日常生活の支援に報酬を手厚くするようです。
後見人の本来の仕事
上記で述べたように、後見人の仕事は「財産管理」と「身上監護」です。後見人は利用者の財産の減少を防げばいいだけではなく、利用者の人となりを理解し、どのような生活を望んでいるかをくみ取って実現できるように支援する点も重要です。
しかし、現実には、利用者に面会すらしない専門職後見人もおり、後見制度が機能していません。本来でしたら、利用者を良く知る親族が後見人に向いていると言えますが、親族後見人は利用者の財産を横領するリスクが高いという前提があるようです。
親族が後見人になることを希望しても、一定以上の財産が被後見人にある場合、裁判所は専門職後見人を付けるか、「後見制度支援信託」の利用のどちらかを迫るようです。
「後見制度支援信託」は、利用者の財産のうち、日常的な支払をするのに必要十分な金銭を預貯金等として後見人が管理し、通常使用しない金銭を信託銀行等に信託する仕組みのことです。
後見人の報酬の算定見直しの影響
利用者と面会しようとしない後見人や、毎月10万円など一定額を生活費として渡すだけなどしか行わない後見人の報酬は大きく減ることが予想されます。福祉的なマインドのない方などは後見人の仕事は割に合わないので引き受けなくなるのではないでしょうか。
また、これまで後見人の業務に比して相対的に多額の報酬を支払ってきた富裕層の負担は減る一方、支援が必要な低所得者の方は負担が増える懸念が指摘されています。
なお、最高裁の通知には、専門職後見人よりも身近な親族を後見人に選任することが望ましいとの考えも示されているようです。今後の運用状況を注視したいと思います。
執筆者:新美昌也(にいみ まさや)
ファイナンシャル・プランナー
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