アパート投資、これからどうなる?
ファイナンシャルフィールド / 2019年7月28日 9時30分
TATERUやレオパレス21、スマートデイズの不祥事は記憶に新しいところ。これらの会社は地主、あるいはまだ土地を保有していない人にアパートの建築を促し、事件発生まではアパート投資業界は過熱気味でした。 現在は、スルガ銀行の不正融資などの影響で金融機関の融資姿勢が硬化し、個人向け不動産投資は逆風が吹いていると言えそうです。今後の不動産投資、その中でも特に一棟アパート投資の業界がどうなるか予測してみます。
これまでのアパート投資とその業界
不動産投資にかかわる会社はこの20年くらいの間に非常に増えました。
個人地主向けのアパート投資を中心にしている会社としては、
・大東建託(東証一部)(昭和49年創業)
・レオパレス21(東証一部)(昭和48年創業)
・東建コーポレーション(東証一部)(昭和51年創業)
などは約50年の業歴があり、この業界では老舗と言えます。
また、ハウスメーカーも主に地主向けにアパート建築からサブリースや管理まで行っています。レオパレス21の施工不良問題は記憶に新しいところで、レオパレス21のオーナーにとっては今後苦しい経営が続くことが容易に想像できます。
一方、一般の個人向けアパート投資を主な事業としている会社には、
・シノケン(ジャスダック)(平成2年創業)
・TATERU(東証一部)(平成18年創業)
・アイケンジャパン(未上場)(平成18年創業)
などがあり、地主向けの会社に比べ、業績の浅い会社が多くなっています。
一般個人向けシェアハウス投資の会社には
・スマートデイズ(破産手続開始決定)
・ゴールデンゲイン(破産手続開始決定)
・ガヤルド(破産手続開始決定)
・サクトインベストメントパートナーズ(破産手続開始決定)
などがありましたが、スルガ銀行の融資に係る不正やかぼちゃの馬車事件で話題になったスマートデイズだけでなく、多くの会社が破たんしています。
今回は主にアパートでの投資を手掛ける会社を並べましたが、マンション投資でも地主向けの一棟マンション投資を手掛ける会社には比較的業歴の長い会社が多く、一方、個人向けのワンルームマンション投資などを手掛ける会社は比較的業歴の浅い会社が増えています。
詐欺まがいの事件や施工品質に係る事件でイメージが悪化した感は否めません。建物の品質などは施工業者を信用するしかない部分もあり、事件の当事者となってしまった物件オーナーにとっては予想もしていなかった事態でしょう。投資判断は自己責任ではあるのですが不幸というよりありません。
しかし、物件の選定や周辺マーケットをきちんと分析していれば、アパート投資には魅力があることも事実です。
不動産投資のメリットによる市場拡大
不動産投資には、
・減価償却分を経費に計上でき、給与所得者にとっての節税効果なども見込める
・融資時に団体信用生命保険に加入することにより、生命保険と同様の効果が得られる
・借入れにより、少ない投資資金で資産形成が図れる
・資産がある人は、キャッシュに比べ相続税評価額が下がり相続税額の圧縮が図れる
などのメリットもあることで、ここ数年の間にこれまで不動産投資とは縁のなかった人にも市場が拡大しました。
冒頭にも書いた通り、現在は金融機関の融資姿勢が厳しくなり、ノンバンク系など一部の金融機関を除いて物件価格の3割程度の自己資金を求められることが増えています。
今後の新規参入はこれまでよりも減る一方、手元資金がある投資家にとっては、良い物件を仕入れるチャンスであるとも言えます。
不動産投資の今後
人口が増え続けてきた社会では世帯数も増加し、一人暮らしをする人も増えていたので、アパートやワンルームマンションの賃貸も根強い需要がありました。
また、低金利時代では、預貯金の金利がほとんどつかず、不動産投資で得られる利回りが相対的に有利になり、投資マネーが不動産に向かったと考えられます。また、特に2015年から相続税の基礎控除額が下がったことも不動産投資を助長する要因になったと考えられます。
これからもしばらくは低金利が続くと思われますが、人口減少社会が進むことで、今後は賃貸住宅の需要は横ばいから減少に向かい、入居希望者による物件の選別が進むことになるでしょう。
築年数が古く手入れが行き届いていない物件や、駅から遠い物件などは経営が苦しくなります。駅からの距離も一概に「○○分以内」なら大丈夫とは言い切れません。このところのアパート建築ブームで多くの物件が市場に参加しました。
駅から10分以内に所在していてもそれよりも近いところに多数の賃貸アパートやマンションがあるエリアでは競合物件が多く、入居率や賃料の低下が起きる可能性があります。
また、人口減少が進む地域では需要そのものが低下し、たとえ駅前に立地していたとしても苦戦する物件が出てくるでしょう。また、低金利時代もいずれは終わるでしょう(今のところ出口は見えませんが)。
ここ十数年の間に数が増えた「投資用不動産」を専門に扱う業者もこれまでのようなマーケットの拡大が見込めなくなり、施工会社だけでなくサブリースや管理を扱う会社も含め、経営が厳しくなる会社も出てくると思います。
これからは「個性」が重要になる
では、どんな物件が生き残れるのでしょうか。シェアハウス投資では、多くの会社が破たんし、詐欺まがいの事件で被害者も多く出ていることから「シェアハウス」そのもののイメージが悪化してしまったように感じます。
本来、シェアハウスは各入居者の専有部は小さくてもワンルームでは叶えられない広めのリビングがあったり、大きなキッチンがあったり、大きな浴室があったりすることで、家賃を抑えつつ、ワンルームとは違った付加価値を享受できることがメリットのはずです。
シェアハウスの入居者は同じ建物に住む他の入居者とのコミュニケーションが必ず発生します。価値観の違いなどもあり、トラブルが発生するリスクもあります。しかし、ワンルームでは得られない設備や共同生活体験などが期待できます。
円滑なコミュニケーションを継続するためには物件の計画段階から、入居者の募集、その後の運営まで、家主や管理会社が気遣う必要があります。
シェアハウスはそれぞれの物件にどのような個性を持たせ、どのような入居者を想定するかといったことを、物件の立地や周辺環境、マーケットリサーチなども行い綿密に検討する必要があります(ただ「女性限定」というだけでは個性として弱いでしょう)。
普通のアパートやマンションに比べると大家側の負担も大きくなると考えられます。一方、それらがうまく回るようになると、他の物件にはない個性が売りになり、空室を待つ人が出るような人気物件になることもあり得ます。
シェアハウスだけでなく、アパートでも個性のある物件では人気が出ることがあります。
個性的な間取りやデザイン、眺望、大型のペット飼育可や、自由にDIY可などの物件は、すべての人に受け入れられるわけではないものの、競合物件にはない特徴になり、多少家賃が高くてもニッチな入居希望者がいる可能性があります。
まとめ
不動産投資には先述のように高い入居率で稼働できれば、さまざまなメリットがあります。土地の価格や家賃収入もある程度景気に連動しますが、株式投資などのように急激に変動することはありません。
しかし、少なくとも数百万、大きいものでは億単位の投資になることもある不動産投資では、うまくいかなかったときのリスクも大きくなります。たとえ当初必要な自己資金は少なくても借入額も合わせた物件価格を元手に稼ぐ「事業」であり、リスクも事業者が負うことになります。
いつかは低金利政策が終わり、市中金利が上がる時代が来るはずです。そのときは不動産に向かっていた投資マネーが他の投資対象に向かい、不動産価格の低下も予想されます。
社会情勢、周辺環境、今後の入居者の動向など、マーケットの変化を含めたさまざまなリスクも考慮する必要があることはこれまでと変わりませんが、これからの不動産投資では特に入居率と賃料を維持できる「立地」と「個性」が重要になると考えます。
執筆者:西山広高
ファイナンシャル・プランナー、宅地建物取引士、西山ライフデザイン代表取締役
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