親を入れる 自分が入る 老人ホームの選び方
ファイナンシャルフィールド / 2019年8月1日 9時0分
人生百年といわれる高齢化の時代。認知症の発症リスクも高まり、誰もが老人ホームなど高齢者施設への入居を念頭に考える必要があります。「元気なので入居はまだ先の話!」と何も対策を立てておかないと、いざという時に困ったことになります。
早めの準備が何より大切
親が急な病気で倒れ、家では面倒をみられないため、「どこか施設へ入居できないか」として探す際に、とにかく入居だけで頭がいっぱいだと施設選びに失敗し、後で後悔することになります。施設の内容、将来的な資金計画など、後回しになってしまうからです。
それを防ぐには、元気な親については75歳を過ぎたら、自分については60歳前後から、情報を集め準備しておくことが大切です。そのためにはまず「資金計画」です。
高齢者施設といってもかかる費用は千差万別です。安く入居できるところは「要介護3」以上の重症な人に限られるなど、自分に合った経済的条件の施設を見つけるのは結構大変です。
入居期間を予測することも難しいですが、現在の収入と保有資産を基準にして、15年程度入居しても問題のないという心積りがあると安心です。
次に問題になるのは「身体の状態」です。入居者が重度の介護が必要なケースと、自由に外出できるケースとでは、入居対象の施設が異なるからです。自由に暮らせる高級マンション並みの施設では、入居期間も長くなることが前提のため、高額の入居金が必要です。
一方で介護が必要な人は、介護サービスが充実した施設を選ぶ必要があります。さらに「施設への期待内容」も大切な点です。入居予定施設の特徴をよく調べないまま、身体が自由な人が、介護を中心とした施設に入ってしまったら、ストレスが倍増してしまいます。
また日常的に多くの医者にかかっていた人が、入居した施設で医療行為を十分に受けられない場合も、困ったことになります。施設が終の棲家となり「看取り」をしてもらえるのか、重症になると病院への入院や他の施設への転居を求められるのか、確認しておく必要があります。
入居先の選定と現地訪問
施設選びは入居希望者のニーズに合った施設を選ぶことが大前提です。重度の要介護者が健常者中心の施設へ入居することは、まず出来ません。介護施設といっても公営施設から民間施設まであり、介護水準から費用まで様々ですから、比較検討が必要です。
入居時にかかる費用や月々の経費がどのくらいになるかも調査し、資金的な面で大丈夫かを検討します。一般的には公営の施設が民間に比べて安いのですが、入居希望者も多く、順番待ちも珍しくありません。
民間の施設の中には、健常者を対象とした施設もあり、多額の入居金が必要です。こうした条件を検討しながら、入居先を絞り込んでいきます。
入居に際しては、契約前に必ず現地訪問をお勧めします。急な介護が必要となった場合でも「どこでもいいから早く」というスタンスで臨むと、必ず後悔します。
実際に、その施設で働いているスタッフはどんな感じか、入居者はどんなタイプの人が多いか、介護サービスは十分に受けられるのか、医師の配置など医療体制はどうか、などは現地へ出向くことで初めてよく理解できます。
さらに、1施設だけを見るのではなく、少なくとも複数の施設を見て相互比較をしたうえで選択するのが望ましいでしょう。
小規模事業者が多い介護業界
介護事業者は小規模の事業者がひしめいている、といっても過言ではありません。業界の大手3社(ニチイ学館、SOMPOホールディングス、ベネッセホールディングス)の占める売上高のシェアは、わずか6%程度に過ぎません。
業界自体が新しいこともありますが、自動車や電機、銀行といった優勝劣敗による寡占化が進んでいる業界とは大きく異なります。今後は人手不足などもあり、人材の集まりやすい大手のシェアは多少拡大していくかもしれませんが、そう急速には行かないかもしれません。
その理由として考えられることの一つが、厚生労働省の介護業界に対するスタンスです。事業者の収入である介護報酬の面で、小規模介護施設の介護報酬を、大規模事業者の報酬と比べて厚遇しており、規模が小さくても運営しだいで十分に採算の取れる設計になっています。
そのため現在でも小規模事業者の参入が容易にでき、他の業界とは異なり小規模事業者の加入が続いています。
大規模事業者ではスタッフの異動も日常的で、慣れたスタッフが系列の施設へ異動してしまうこともしばしばです。事業規模の大小よりも、実際のサービス内容を見て、適した入居先を決めることをお勧めします。
最大の課題は慢性的な人手不足
介護業界にとって最大の問題は慢性的な人手不足です。入居希望者にとっても「良質なサービス」が受けられないなど、大きな問題となっています。
そのため施設入居を希望する人にとっては、介護職員は充足されているか、職員離職率はどのくらいか、入居者の退去率がどのくらいいるか、が大きな問題になります。
実際に、入居希望者の多い公営の介護施設で、空きベッドがあるにもかかわらず、入居者を受け入れられない施設が出てきています。その理由は、介護職員の手当てが出来ないため、在籍職員数に見合った入居者しか受け入れられないのです。
今後新しい施設が出来ても、介護職員が充足していないために、思い通りの施設運営ができないところがさらに増加する可能性もあります。待機者の人数が多いからといって、介護施設のベッドを整備しても全く意味がなく、結果としてミスマッチになるケースも出始めています。
原因はベッド数よりも介護職員の不足にある、とさえいわれています。施設を選ぶ側からも、「空きがあっても入居できない」という、非常に困惑する事態が起こりつつあります。
介護職に外国人労働力を多く入れようという動きが、間違いなく強まってくるのは時代の趨勢です。戦力としての比重は今後高まることは確実です。早期にスキルを身に着け、現場の業務に対応できるようにする対策が望まれます。
執筆者:黒木達也
経済ジャーナリスト
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