遺言書も書かずに他界した兄。残された妹、甥、姪がどんな苦労をするのだろうか
ファイナンシャルフィールド / 2019年8月30日 8時30分
みなさんの身の回りにお金の苦労がなく、悠々自適に暮らしている人はいませんか? 私の友人に生涯独身を貫き通すつもりでいる資産家の男性Aさんがいます。 A男さんは両親がすでに他界し、妻も子供もいないため一人気ままに暮らしています。A男さんには妹と弟がいますが、妹は結婚して遠くに住んでいるため、A男さんとは疎遠になっているようです。弟は2年ほど前に亡くなり、20代の甥と姪がいるそうです。 A男さんは、自分が死んだ後のことはあまり考えていないようで、遺言書もなくエンディングノートも書いていないとのことです。実はこのままA男さんが仮に亡くなると、相続人である妹と甥、姪が苦労することになります。
A男さんの家系図
A男さんは現在61歳で、今まで結婚をしたことがなく、子供もいません。両親は他界しているので、第3順位である妹と弟が法定相続人になります。しかし弟は2年前に亡くなっているので、その子供である甥と姪が代襲相続人となっています。
A男さんが仮に亡くなった場合には、その遺産は法定相続分として妹に2分の1、甥に4分の1、姪に4分の1が相続されることになります。
A男さんの資産
A男さんから資産の内容をお聞きすると、住んでいるマンション(A男さんの名義)が2000万円、預貯金が5000万円、株などの有価証券が5000万円で合計1億2000万円くらいあるとのことです。
A男さんは株の売買が趣味で、ネット証券数社で株の売買を行っているようですが、IDとパスワードは本人しか知りません。現在疎遠となっている妹や甥、姪などの相続人は、A男さんの株やその他有価証券の存在すら知らない恐れがあります。いわゆるデジタル遺品です。
預貯金も最近では通帳への記入を行わず、キャッシュカードとパスワードだけでATMから現金を引き出すことが多くなっていて、相続人が預金残高を調べるとなると困難な場合があります。
また、キャッシュレス決済が増えてきて、銀行の預金残高が変わっている場合も多いでしょう。A男さんの場合でも、預け先がメガバンク数行にわたっているようなので、それぞれいくらの残高があるのか本人もあやふやな感じです。
A男さんがこのままの状況で亡くなった場合
このままの状況でA男さんが仮に亡くなったら、相続人はA男さんにどのような遺産があるか分からず、それらを調べるとなると大変です。すぐには把握できないでしょう。
数年後などになってボロボロと遺産が分かると、相続放棄していなければ、その度に相続人の間で遺産分割協議を行うはめになります。もちろんおのおのは受け取ったお金に対して相続税を払わなければなりません。
A男さんへのアドバイス
そこで、A男さんには遺言書に現在の資産全てを書いて、そこにIDとパスワードも一緒に記入しておくことをアドバイスしました。また、遺言書には、誰にいくら遺贈するのか、あるいはXX施設などにいくら寄附するのかなど、自分の意思を記入する必要もあります。
遺言書には、一般的に自筆証書遺言と公正証書遺言がありますが、公正証書遺言の作成を勧めました。
理由は、自筆証書遺言は費用がかからず手軽ですが、相続人がその存在に気が付かない可能性があり、また家庭裁判所の検認が必要であることを知らなかったり、書き方に不備があったりして無効となってしまう恐れがあるからです。
公正証書遺言であれば、作成するのに費用がかかりますが、本人の口述を公証人が筆記するので不備がありません。また家庭裁判所の検認もいりません。公正証書遺言を作成するには、公証役場に行って公証人を選任してもらい、その場で作成する方法があります。
もし公証役場まで行けない場合には、自宅や病院に来てもらうこともできます。また、相続診断士などに依頼して作成する方法を教えてもらうのも良いでしょう。公証人のほかに、立ち会いの証人ふたりも必要です。公正証書遺言は公証役場に原本が保管されます。
終わりに
お気軽なおひとりさまでも、親や兄弟姉妹など相続人がいる場合には、遺言書を遺しておかないと、亡くなったとき相続人が苦労します。
特に最近では、PCやスマホで株の売買やお金の決済を行うことが多くなっているので、遺言書にきちんと自分の資産を記載しておきましょう。付け加えておくと、相続人が一人もおらず、遺言書もない場合には、おひとりさまの遺産は全て国庫に入ります。
執筆者:村川賢
一級ファイナンシャル・プラニング技能士、CFP、相続診断士、証券外務員(2種)
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