今さら聞けない年金の話「マクロ経済スライドって、私たちの生活にどう影響するのですか?」
ファイナンシャルフィールド / 2019年9月24日 8時50分
年金の健康診断「2019年度 財政検証」が発表されました。今年は、年金問題がマスコミを賑わすことが多いような気がします。最近の大学生は「自分たちは年金がもらえないかも」「余計なお金をつかわず、将来のために蓄えなくては」という意識もあるようです。 その一方で、お金や経済の話って「興味がないわけではないが、言葉が難しくてわからない」と聞くこともまだまだあります。時々見聞きする「マクロ経済」、いったい何のことなのでしょうか?
おさらい! マクロ経済スライドとは
本来年金は、物価の上昇に合わせて、年金も上昇する決まりでした。しかし、マクロスライド経済が発動されると、物価が上昇しても調整により抑制されます。
例えば、1%の経済成長をしても「調整率が0.2%」となった場合には、その差額で0.8%しか年金は上昇しません。要は、物価変動どおりに、年金は上がりませんよ! ということです。
「マクロ経済スライド」とは、一言でいうと、その時の社会情勢を加味し、年金の給付水準を上記のように自動的に調整する仕組みです。社会情勢とは、経済情況だけでなく、現役人口の減少や平均余命の延びなど、年金財政の収支に大きく影響を与えるものを指しています。
今から15年前、平成16年に年金制度が改正され、マクロ経済スライド等、年金制度改革が行われました。
なぜ、年金制度改革が行われたのか。それは、少子高齢化が進行する中、将来の現役世代の負担が大きくなるのを回避するためです。年金は、国民の老後を支える大きな柱。ですから、将来に渡って年金の給付水準をある程度安定させなくてはなりません。
年金の財源は、年金収入と税金です。この2つを安定させるには、人口のバランスが大切でしょう。国民年金・厚生年金の収入も、税金も支払う人が多ければ、財源は確保できます。人口確保は国庫にとってはとても重要な課題です。
しかし、日本の人口バランスは少子高齢化の影響で大きく変動しています。某大臣が「子どもを最低3人産んで」という発言はまだ記憶に新しいですが、このような問題が背景にあり、発言してしまったのかもしれません(デリカシーに欠けるのは否定できませんが)。
上記の図をご覧ください。日本の年代別人口分布図です。左1955年(昭和30年)・真ん中2015年(平成27年)・右2050年(令和32年)となります。
左:1955年に10歳の人→ 中:2015年70歳→ 右:2050年105歳
1955年当時は、19歳以下のグリーンゾーンが一番人口の多い世代でした。その方たちが70代となった2015年にはオレンジのゾーンが一番多い世代です。
さらに、2050年になってくると、オレンジ&赤のトップ(高齢者)が多く、底辺がドンドン先細り(少なく)なっているのがわかります。かつての時代、ピラミッド型だった人口分布図は、現在は筒型となり、さらにその筒が将来はスリム化しています。
この図からもわかるように、ブルーゾーンの現役世代が、今後30年はどんどんと減り、平均余命の延びも手伝い、オレンジと赤の部分が太く長くなっていくのです。頭でっかちとなった人口分布図、これでは年金財政は苦しくなる一方です。
2004年改正前、年金財政ってどんな仕組みだったの?
2004年(平成16年)の改正前の年金の財政は、どのように作られていたのでしょうか?「税金+年金保険料」という基本的な考え方は変っていませんが、そこに絡む数字が変化しています。
<2004年 年金制度改革の柱/(1)税金>
●国庫負担の変更
改正前:3分の1 改正後:2分の1
年金制度改革の後、2012年当時の内閣で2014年に消費税8%、2015年に消費税10%の法案が可決されました。2014年に8%に引き上げられましたが、経済の冷え込みの懸念から、10%への引き上げは延び延びとなり、2019年10月からいよいよ実施されることになります。
その背景には、国庫の年金支出が増加したのが一因です。また、東京で暮らしていると、気がつかないのですが、地方へ行くと公共の設備投資不足が気になります。これも、国庫のお金の不足からなのでしょう。
<2004年 年金制度改革の柱/(2)厚生年金>
2004年に13.934%だった厚生年金の保険料率が毎年少しずつ上がり、2017年度18.300%までアップしました。その差、4.366%増です。
ちなみに、昭和40年生まれの筆者が20歳の頃(1985年)には、男性12.4%・女性11.3%でした。給与の約1割から、2割へ増加しています。負担は大きいですね。さらに、当時は男女差があったのが時代の象徴です。ちなみに、男女共通になったのは、1994年(平成6年)でした。
<2004年 年金制度改革の柱/(3)国民年金>
2004年4月1万3300円だった国民年金保険料を、段階的に値上げ。2019年4月1万6410円となりました。筆者は子どもの頃、自営業だった両親より「年金は最初の頃数百円だった」という言葉が頭の片隅に残っています。実際、千円台(1100円)になったのは、1975年(昭和50年でした)。
その後、1985年(昭和60年)6740円、1993年(平成5年)に、ついに大台、1万500円となり、2019年4月に1万6410円になるまで上がり続けました。それだけ、高齢者が増え、年金財政が苦しくなっている証です。
上記の改革を行い、年金財政を強くし、かつマクロ経済スライドで当面調整を測ることになったのです。その他にも、下記のような改革が行われました。
・厚生年金保険料の上限を法令で引上げ可能に
・在職老齢年金の見直し
・国民年金保険料免除制度が2段階→4段階になった
・給付水準がダウン。物価上昇の際の仕組みが変る
・離婚時の年金分割の方法が緩和された
・遺族年金、30歳未満の妻の支給の短縮。中高齢寡婦加算の引き上げ
これらの事が改革されました。これらはすべて、現役の負担を減らすためです。また、未納に関しての処置も、厳しくなったと思います。
マクロ経済スライド、いつまで?
日本年金機構のホームページには下記のように記載されています。
「少なくても5年に1度行われる財政検証において、年金財政が長期にわたって均衡すると見込まれるまで、マクロ経済スライドによる調整が行われます」
今年がその「財政検証」の年でした。検証には6つのパターンが想定されました。その結果、もうしばらくはマクロ経済スライドが続くようです。最低でも20数年間は続く予測でした。
筆者は仕事柄、個人のライフプランイングを分析させていただいております。しかし、今回の発表で、若い方の試算をする際は「マクロな視点」をよりしっかり持って、皆さんに認知してもらわなければ、と感じました。
将来のライフプランニングをする際に、年金収入は大きな柱ですから、その柱の太さは重要です。今、年金を受給している人は個人(ミクロ)の、年金支払い状況で、受給金額が変っていました。
しかし、これから受給するわれわれ世代は、日本全体(マクロ)の経済や、人口増減状況により、受給金額が変ります。経済状況が横ばいだと、20歳の世代が現在の65歳と同じ所得代替率を確保するには、68歳9カ月まで働く必要があるそうです。0.4%成長なら、66歳9ヶ月。60歳定年はもうすぐ過去の話になりそうですね。
今後、働く期間・年金の保険料を支払う期間は確実に長くなり、受給は遅くなり・少なくなる可能性が大きくなります。“自分年金”である「確定拠出年金」や「つみたてNISA」等をまだ開始していない人は、年金の不足分を早めに準備、コツコツ開始していただきたいと思います。
執筆者:寺門美和子
ファイナンシャルプランナー、相続診断士
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