相続のキホン(13)孫へお金を残したい…孫に贈与するときの注意点
ファイナンシャルフィールド / 2019年10月24日 9時30分
これまで、3回にわたって「贈与」の活用や特例等について見てきました。相続税対策を検討する上で「贈与」は相続資産を圧縮する効果があるため、うまく使うことでより多くの資産を次の世代に引き継ぐことが可能になります。 一方、贈与を活用する時にはいくつか注意しておかなければいけないこともあります。今回は「贈与」を行う上での注意点についてお伝えします。
贈与は「契約」
贈与は契約です。契約は当事者間の合意があって初めて成立します。贈与の場合は、一方の当事者が財産を渡す意思表示をし、受け取る相手が承諾することで成立します。財産を受け取る人がもらったことを知らないような場合には贈与は成立しません。
書面の取り交わしは必要条件ではないのですが、贈与が行われていることを証拠として残すためにも「贈与契約書」や「贈与に関する覚書」などを当事者間で交わしておくべきでしょう。そうすれば、贈与に関して税務署から否認される恐れはなくなります。
おじいちゃんがかわいい孫のために孫名義で金融機関に口座を開設し、コツコツとその口座にお金を貯め「孫が大きくなったら通帳と印鑑を一緒に渡そう」と考えているようなケース。これは名義預金と言われ、通帳と印鑑をおじいちゃんが管理している以上贈与は成立していません。
この場合、贈与は通帳と印鑑を渡し、管理が移った時に一括して贈与されたと判断されます。貯めていた金額が基礎控除を超えていた場合は、贈与税の課税対象になってしまいます。
毎年110万円の基礎控除はあるが…
暦年贈与では、110万円の基礎控除があります。しかし毎年、贈与者が受贈者に110万円ずつ定期的に振り込んでいるような場合には、税務署に否認される場合があります。
書面を交わしていない場合、税務署では贈与の都度「合意」があったかどうかを確認できません。
書面があったとしても「今年以降、毎年110万円を10年間贈与する」としているような場合、110万円×10年=1100万円の贈与を分割払いで贈与しているとされ、このような贈与は税務署に「課税を逃れるための財産移転」とされ、1100万円の贈与が行われたと扱われます。
贈与を行う場合には、その都度書面を取り交わすなどの手続きを行っておくべきでしょう。
あえて基礎控除の110万円を超えて贈与し、贈与税を申告・納付することも一つの方法です。財産を渡した人は当然贈与の意思があったと考えられます。
例えば、120万円の贈与を受けた人が基礎控除の110万円を差し引いた10万円の贈与を申告し、1万円の贈与税を支払っていれば、納税することで税務署は「受け取りを承諾し、受け取った本人が財産を管理している」ことが明らかだと考えられるからです。
相続発生前3年以内の贈与は相続財産に戻す
相続の発生前3年以内に行われた贈与財産のうち、相続などで受けた財産は、原則として贈与した時の価額で相続財産に戻して相続税を計算します。
これは、「もうそう長くはないだろう」と考えた人が駆け込みで贈与を行って相続対策を行うことを防止するためです。贈与税の基礎控除以下でも3年以内の贈与は相続税の対象です。贈与税がかかっていた財産も対象ですが、支払っていた贈与税は相続税から差し引けますので、二重課税にはなりません。
贈与税の配偶者控除や住宅取得資金、教育資金、結婚・子育て資金などの特例で非課税になった部分の贈与については持ち戻しの対象にはなりません。
孫への贈与はメリット大だが…
孫へ贈与することによって、財産の移転をひと世代飛ばすことができるため、相続対策として有効です。
ただし、注意が必要なことがあります。先ほどの「相続発生前3年以内の贈与財産の持ち戻し」の対象は「相続などで財産を取得した人」へ贈与された財産です。
配偶者と子どもがいた場合で法定相続分どおりに相続する場合、財産を受け取る人は配偶者と子のみです。その子の子(=孫)は相続財産を受け取ることはありません。
しかし、孫が「遺贈」によって財産を取得する場合や、孫が「死亡保険金の受取人」に指定されている場合、孫と「養子縁組」している場合などは孫であっても「相続等で財産を取得する人」にあたり、贈与財産の持ち戻しの対象になるだけでなく相続税もかかり、しかも2割加算の対象です(相続税額の2割加算=相続などで財産を取得した人が、被相続人の一親等の血族[代襲相続人となった孫〈直系卑属〉を含む]および配偶者以外の人である場合、その人の相続税額にその相続税額の2割に相当する金額が加算されます)。
孫に贈与する場合には、孫が相続発生時に財産を受け取らないことが前提です。
不公平がトラブルのもとに
相続税の観点では問題がなくても、相続人間で不公平を感じる場合はトラブルになる可能性があります。
下のような家族構成で、Aさんが孫E、F、Gにそれぞれ教育資金贈与の特例を使い1000万円ずつ贈与したとしましょう。教育資金の贈与の特例を使えば贈与税は非課税になり、3年以内の持ち戻しの対象にもならず相続税対策としては効果的です。
しかし、孫への贈与ではありますが、C家、D家が受け取る財産と考えれば、C家は1000万円、D家は2000万円の贈与を受けたことになります。もし、この不公平を子Dが快く思っていなかった場合、遺産分割時にトラブルになりかねません。
相続対策としての贈与を考える場合、金銭的なことだけでなく、相続人の気持ちも考え、バランスにも配慮する必要があるでしょう。また、もし先ほどの家族構成で孫Eに多額の贈与をしていたことを子Dが知らず、後にその贈与に気づいたような場合でもトラブルになりそうです。
孫へ贈与を行う際にも、相続人全員に贈与を行うことやその意図を話し、相続人が納得したうえで行うことが重要だと思います。
まとめ
贈与を活用は、資産の圧縮につながり相続税対策として有効です。特に孫への贈与は相続をひと世代スキップでき効果的です。特例を活用できる場合もあり、うまく使えばより多くの資産を次の世代に引き継ぐことができます。
しかし、金銭面だけでなく贈与を受ける側の状況やほかの相続人とのバランスも配慮する必要があります。そのためにも、相続人となる人とのコミュニケーションが大切だといえるでしょう。
最近は核家族化が進み、家族がじっくりコミュニケーションをとる機会が減っています。たまに集まった家族と「相続」に関する話を切り出すのが難しいこともあるでしょう。
しかし、コミュニケーション不足が原因で相続人間の関係が悪くなってしまうのは残念です。円満に次世代へ資産を引き継ぐためにも相続対策を考える際は、家族間のコミュニケーションをとり、不満が出ないようにしていただきたいと思います。
せっかく贈与するのですから、受け取った人だけでなく相続人全員が「感謝」の気持ちを感じられればみんなが幸せになれそうです。
執筆者:西山広高
ファイナンシャル・プランナー、宅地建物取引士、西山ライフデザイン代表取締役
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