日本人のお金の感覚はどう変わる? 経済産業省「キャッシュレス・ビジョン」とは
ファイナンシャルフィールド / 2019年11月19日 8時30分
キャッシュレス決済の普及に関するアンケートやリサーチを見ていると、各リサーチによって結論に幅があるものの、クレジットカードなどの伝統的なキャッシュレス決済はかなり浸透しているように思えます。 ○○ペイなどのような最近のコード決済(QRコード・バーコード決済)については、セキュリティ面に漠然とした不安を感じているものの、こちらも実際はそれなりに利用者がいる印象を受けます。 ただ、決済手段が多すぎるためか、「積極的に都度、区別して活用している」となるとそこまでは到達していないのかもしれません。 そこで今回は、キャッシュレス決済とは何かということに加え、キャッシュレス決済の普及による将来の可能性について、公式資料には記載されていない内容も踏まえながらご紹介していきたいと思います。
そもそもキャッシュレス決済とは?
経済産業省が2018年4月に策定した「キャッシュレス・ビジョン」において、共通認識とされている定義は存在しないものの、キャッシュレスとは「物理的な現金(紙幣・硬貨)を使用しなくても活動できる状態」のことを指すとされています。
また当ビジョンのなかでは、以前の「未来投資戦略 2017」において設定した、2027年までにキャッシュレス決済比率を40%とする目標を、大阪・関西万博(2025 年)に向けて2年前倒し、2025年までに実現するという「支払い方改革宣言」が採用されました。
将来的には、世界最高水準のキャッシュレス決済比率80%を目指し、オールジャパンで必要な環境整備を進めていくそうです。
さらに突っ込んだ意見もあるようで、キャッシュレス決済利用者・活用者比率を高めていくだけではなく、将来的にはいわゆる「物理的な現金」(紙幣や硬貨)を限りなくゼロに近づけていこうという意図が読み取れます。
その具体策としての大きなテーマは5つあります。
●実店舗等におけるキャッシュレス支払い導入にかかるボトルネック解消
●消費者に対する利便性の向上と試す機会の拡大
●支払いサービス事業者のビジネスモデル変革を後押しする環境整備
●産官学によるキャッシュレス推進の強化
●新産業の創造
この5テーマだけを見てもわかりにくいかもしれませんが、なんとなく、われわれがキャッシュレス決済手段の普及に抱くイメージより、かなり先を見据えているような印象を受けるかと思います。
キャッシュレス決済の普及を妨げる可能性
とはいえ、思惑どおりすんなりと事が進まない原因となりえることがあります。それは私たちが紙幣そのものに、なにか「物質的な価値」があると思い込んでしまっていることです。
子どものころ、おやつが欲しくて親に「おこづかいちょうだい」とアピールをしていた経験で学んだように、私たちはお金という物理的な力の効果を知っています。
かつて大昔の中国で発明されたという紙を使い、20円前後のコストで発行された紙幣は、実際はすぐに燃えてしまう紙切れでしかありません。
もともと金銀などと交換できる「預かり証」のようなものでしたが、より利便性を高めるため、次第にそれ自体が流通するようになりました。
ロスチャイルド帝国の基礎を築いた銀行家、マイヤー・アムシェル・ロートシルトは「私に国の貨幣供給量の管理権を与えたまえ。国の法律は誰が作ろうともかまわない」といったそうですが、場合によっては、貴金属など普遍的な価値を持つ物を裏付けとしない紙幣が流通することもしばしばあり、現在がまさにそうです。
支払い・価値尺度・貯蔵・交換手段、いずれか1つとして使用されると貨幣としての価値が認められるわけですが、その活用効果に価値があるのに、私たちは紙幣そのものに価値があると、ずっと錯覚してきました。
本来は売買や貸借のやりとりの「記録・データ」でしかないにもかかわらず。このような貨幣を一般的に「計算貨幣」といいますが、キャッシュレス決済の普及により、いよいよ紙幣が計算貨幣として大きく再生しつつあります。
例えば、AさんがBさんに1万円を振り込むとしましょう。Aさんの銀行口座から、Bさんの銀行口座に1万円が移動します、なんてことはありません。
実際はAさんの銀行口座残高が1万円減り、Bさんの銀行口座残高が1万円増えるだけです。
なんだか不思議な感じがしますよね?
このような思考回路の大きな変革を、筆者は「脳内金融革命」と呼んでいますが、現代においてこの革命は3回ありました。
過去3回あった現代日本の「脳内金融革命」
●第1次脳内金融革命:ニクソン・ショック(1971年)
各国が自国の金保有量に相当する分のみ発行できた紙幣の限界がなくなる。
金と物々交換する「お金」という概念が崩壊し、お金が「モノ」から「データ」へ生まれ変わるきっかけ。
●第2次脳内金融革命:日本版・金融ビッグバン(2000年前後)
規制緩和、各種自由化(フリー・フェアー・グローバル)による金融改革。ネット系金融機関の誕生。
●第3次脳内金融革命:キャッシュレス・ビジョン(2017〜2018年)
「支払い方改革宣言」2025年までにキャッシュレス普及率40%、2040年までに80%。「モノ」としてのお金から、デジタル化されたお金としての概念。お金はやりとりの記録(計算貨幣)でしかない。
この一連の思考回路の変化やコンセプトは、人によってはもしかしたら「数字遊び」に近い感覚なのかもしれません。
たしかに普段の家計の見直しも、資産運用においてどの投資対象にどれだけ資産を配分していくか(アセットアロケーション)というのも、似たような考え方・捉え方ともいえますので、とても相性が良いかもしれません。
さて、未来はどうなるでしょうか?一度走り出した「イノベーション(技術革新)」はなかなかその歩みを止めることはありません。
紙幣を、売買や貸借のやりとりの記録・データである「計算貨幣」として理解しておけば、キャッシュレス決済に対しての苦手意識はなくなるでしょうか?家計の見直しに対する抵抗感はなくなるでしょうか?
お金を物質的な「モノ」としてみる感覚から、なるべく早く脱却していくと、別の新しい未来が待っているのかもしれません。
執筆者:野原亮
確定拠出年金相談ねっと認定FP
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