子どものいない夫婦が遺言書を書いておかなければならないワケ
ファイナンシャルフィールド / 2020年1月14日 10時15分
遺言書は相続対策の中でも比較的手軽に行える対策の一つです。遺言書があれば万全というわけではありませんが、遺言書があれば回避できたであろう「争族」も少なくありません。 その中でも特に今回は「子どもがいないご夫婦」の相続対策としての「遺言書」についてお伝えしたいと思います。
子どもがいない夫婦ならではの懸念事項
もめない相続を実現するための「相続対策」を考える場合には「法定相続人が誰か」を把握することが非常に重要です。子どもがいないご夫婦の場合でどちらか一方が亡くなられたときには、どなたが法定相続人になるのでしょうか。
子どもがいれば、法定相続人の第一順位になり、法定相続人は配偶者と子になります。子どもがいない場合、第二順位であるご両親。すでにご両親も亡くなられている場合は、第三順位である兄弟姉妹が法定相続人になります。
下のような家族でご主人が亡くなられた場合、配偶者である奥さまの法定相続分は4分の3、被相続人の兄は4分の1です。
被相続人が遺言書を書かずに相続が発生した場合、法定相続人となった人は全員で遺産分割協議を行うことになります(相続放棄を家庭裁判所に申述する場合を除く)。
このケース場合、自宅の不動産と現預金を合わせた遺産総額は5000万円ですので、配偶者の法定相続分は4分の3の3750万円、兄は4分の1の1250万円です。
兄が法定相続分を主張した場合、配偶者は不動産を売却するか借入れるかして資金を工面するか、不動産を兄と共有で相続するか、などの選択肢がありますが、いずれにしても配偶者にとっては苦しい選択となるでしょう。
さらに、もし被相続人の兄が亡くなられていた場合には、配偶者は兄の子である2人のおいと3人で遺産分割協議を行う必要があります。おいも法定相続分があると知れば「もらえるものはほしい」と考える可能性は否定できません。
子どもがいない夫婦で「自分にもしものことがあった時には財産は全て妻に渡したい」と思っている方は多いと思います。むしろ、自分が死んだときには全ての財産が奥さまに相続されて当然と考えている方は少なくありません。
また、兄弟姉妹に法定相続分があるということを知らない方も少なくないのです。このケースのように、もし、お亡くなりになられたご主人(被相続人)の資産のほとんどが自宅の土地建物だった場合、トラブルになるリスクがあります。奥さまが兄弟やその奥さまとあまり仲が良くないような場合はなおさらです。
そうでなかったとしても、配偶者も「被相続人が亡くなった後はすべて自分が相続する」と思い込んでいたとすれば、相続発生後に他に相続権がある人がいると知ったときの影響は大きいでしょう。
遺言書の効果
このような場合に「遺言書」は絶大な効果を発揮します。その最大の理由は「兄弟姉妹には遺留分がない」ということです。不備のない遺言書で「全ての財産を妻に相続させる」と書かれていた場合、兄弟姉妹には相続分を主張する権利がなく、遺言書どおり争うことなく妻が全ての財産を相続できます。
遺言書にはいくつかの種類があります。主に使われるのは「公正証書遺言」と「自筆証書遺言」です。
自筆証書遺言はすべて自筆で書かなければいけないのが原則ですが、先日の相続法の改正で一部要件が緩和されました。また、2020年からは法務局で自筆証書遺言を保管する制度が始まる予定です(2020年4月以降の相続において法務局で保管されている自筆証書遺言は裁判所の検認が不要になります)。
公正証書遺言は公証人が作成し公証役場で保管してもらえるため、より安全・確実に遺言の効果を実現できますが、作成するのに費用がかかります(費用は相続人の数や資産の額により異なります)。
いずれにしても、子どもがいない夫婦の場合、遺言書は「書いておかなければならない」といえるでしょう。
二人とも亡くなられた後、その財産はどこへ?
子どもがいない夫婦では、夫婦双方がお亡くなりになられた後、特にその財産を引き継ぐ方を指定していないケースもあります。「自分が死んだ後のことは誰かがやってくれるだろう」と思っていると、結果的に誰かに負担や迷惑がかかることもあります。
例えば、葬儀などはどなたがするのでしょう。亡くなられた後のご遺体は誰が引き取ってくれるのでしょう。子どもがいれば、その子どもがきっと遺体も引き取り、葬儀もしてくれるでしょうが、いない方の場合、「誰がやるんだ?」ということにもなりかねません。
いくつかの方法がありますが、兄弟にお願いしておくということもあると思います。そのような時に手間をかけることを想定し、せめて葬儀を執り行うための最低限の費用などは、それをしてくれる人にわたるようにしておくのが美しいのではないでしょうか。
遺言書で兄弟にもいくらかの財産がわたるようにしておく、死亡保険金の受取人を兄弟にした生命保険に加入するなどの方法があるでしょう。
自筆証書遺言は封をされて保管され、開封は亡くなられた後、家庭裁判所の検認を受ける必要があり、開封されるまでに時間がかかりますので、そのような意向を伝えるのには適しません。
生前から自分にもしものことがあったらこうしてほしいというコミュニケーションをあらかじめ取っておくことも、相続対策では重要なことです。
まとめ
子どものいない夫婦は少なくありません。縁起でもないとお思いになるかもしれませんが、いつかはどちらかが先にお亡くなりになるでしょう。遺された方にとって、遺された財産はその後を生きるための大切な資産です。
特に不動産は分割することが困難です。また、不動産の共有はできる限り避けるべきです。共有で相続することとした場合、その後に発生する相続の際に問題が起きることもありますし、配偶者に対し兄の持ち分の部分に相当する家賃を払えといわれるかもしれません。
奥さまはその不動産にご主人が亡くなられた後も住み続けたい、と考えるケースは多いでしょう。しかし、被相続人の兄弟姉妹から「自分にも法定相続分があるからその分を分割してほしい」と言われた場合、悩ましい問題になります。
特に子どもがいない夫婦には、自分にもしものことがあった場合のことを考えておいていただきたいと思います。ご自身や配偶者が亡くなられたときに相続人になる人は誰なのか。どう分けるのか、分けないのか。そして、それを反映した遺言書を残されることをお勧めします。
執筆者:西山広高
ファイナンシャル・プランナー、宅地建物取引士、西山ライフデザイン代表取締役
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