あんなに治療費かかったのに…。不妊治療で妊娠できなかった女性の苦悩
ファイナンシャルフィールド / 2020年1月15日 10時15分
妻が20〜49歳の夫婦のうち、不妊治療を経験したことがある人は、5.5人に1人です。そして、不妊検査や治療経験のある夫婦の割合は、年々上昇傾向にあります(国立社会保障・人口問題研究所「第15回出生動向基本調査」より)。 かなえさん(仮名)も不妊治療を経験したうちの1人です。治療を受けていた時は1ヶ月に数十万円が治療費として消えていくことも珍しくありませんでした。治療に関連したお金をトータルすると300万円ほどかかったそうです。現在は子どもをあきらめ、夫と2人+犬1匹で暮らしています。
かなえさんの治療方法
かなえさんは顕微授精という不妊治療の中でも最終ステップの治療を受けていました。顕微授精とは、子宮から卵子を取り出し、顕微鏡でのぞきながら精子を卵子に注入させ、受精させて、再び子宮に戻す治療方法です。
男性側にも女性側にも不妊の原因があったかなえさん夫婦には、この方法しか選択肢はなかったのです。というのも、夫は無精子症で、かなえさんは妊娠しづらい体質だったのです。
夫は無精子症ですから、手術で精子を取り出し、その精子を凍結保存しました。この手術ですでに約70万円の出費をしており、病院までの旅費なども考えると100万円弱の出費をしたそうです。
顕微授精の際は、凍結した精子を使って卵子と受精をさせていました。しかし、受精できるのは採卵できた卵子が良好な状態だった場合です。卵子を良好な状態にするため、かなえさんは注射やホルモン剤投与を受け、病院に行くたびに、平均して4万円ほど支払っていたそうです。
卵子が良好な状態で、受精まで進むとさらに料金は増えます。かなえさんの場合は、顕微授精にかかった費用は1回あたり50万円ほどでした。かなえさんは、子どもは欲しいものの、積み上がる治療費に家計に余裕はありませんでした。
東京都の不妊治療の助成
不妊治療に対しては、各自治体で助成を受けられる場合があります。例えば東京都の場合、体外受精や顕微授精に対して、医療費を助成しています。対象者は夫婦の合算所得が905万円未満で、事実婚の夫婦も対象です。
治療のステージによって7.5 万円から25万円(初回は30万円)の助成を受けられます。助成回数は妻の年齢によって異なり、39歳までなら6回、40歳以上なら3回までです。しかし、1回の治療の初日において妻が43歳以上だと対象外となります。
さらに、東京都の助成とは別に各自治体が実施する助成事業もあります。例えば千代田区の場合、15万円を限度として、東京都の助成金の2分の1の額を助成する制度があります。お住まいの自治体の助成制度を調べてみると良いと思います。
助成があっても自己負担額は大きい不妊治療
助成制度があるとはいえ、かなえさんは、顕微授精1回に50万円ほどかかっていましたから、それでも自己負担額は大きく、治療を受けるには覚悟が必要です。政府は子育て支援として幼保無償化等の制度を実施しました。不妊治療に対する助成も少子化対策の1つにもかかわらず、不妊治療に対しては手薄の感があります。
かなえさんは、助成金額がもう少し多ければうれしいけれど、治療を受けたからといって出産できるとは限らない。助成があるだけでも、ありがたいと言います。
とはいえ、かなえさんは治療に専念するため、時間の融通がききやすいパートで働いています。助成を受けて、医療費控除を申告したとしても、治療費の負担はとても大きいものでした。
治療費以外の不妊治療の悩み
かなえさん夫婦は凍結していた精子を全て使い果たし、子どもを諦めました。夫婦の子ども以外の子を持つこと(特別養子縁組制度など)も検討したようですが、夫婦の意見は一致しませんでした。今は愛犬をわが子のようにかわいがっています。
かなえさんは、子どもを持たないという選択肢を選ぶことができました。不妊治療は妊娠できなければ、いつまでも続くゴールのない治療です。その間のストレスは相当大きなものです。
友人からもらう年賀状に子どもの写真があると複雑な気持ちになったり、妊婦マークに異常に憧れを抱いたり、治療中はそれまで経験したことのないストレスを感じることになります。
また、妊娠しやすい体質に改善させようと、体を冷やす食材はダメ、適度な運動も必要、睡眠も必要と、あれこれ制限をつける生活になり、逆にそれもストレスになります。
仕事と治療を両立している人にとっては、仕事のスケジュールと治療のスケジュールを考えるだけでもストレスになります。病院に行かなければならない日と休めない仕事と重なることもあります。
このような状況で、何年も治療を続けていると心身ともに疲れるのです。各都道府県では不妊専門相談センターを設置しています。疲れたときはそのようなセンターを利用するのも良いかもしれません。
また、何歳までと自分でゴールを設定して、治療をするという方法もあります。いずれにせよ、不妊治療をしながらでも働きやすい環境づくりと治療に対する社会の理解がいっそう求められるでしょう。
執筆者:前田菜緒
FPオフィス And Asset 代表
1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP(R)認定者
確定拠出年金相談ねっと認定FP、2019年FP協会広報スタッフ
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