長く介護していた義母が亡くなった。法改正で特別寄与料が認められたけど、金銭の請求は容易ではない?
ファイナンシャルフィールド / 2020年2月3日 10時15分
民法(相続法)の改正により、特別寄与料の請求が2019年7月1日から認められるようになりました。しかし、次のようなケースもあるので注意が必要です。 Aさんは54歳の女性です。義父は5年前に他界し、長男であるAさんの夫は義母を家に引き取りました。夫は仕事で忙しく、足腰が弱って車いす生活となっていた義母を長年にわたり介護していたのはAさんでした。その義母が先日亡くなり、遺産相続の話になりました。 特別寄与料のことを知ったAさんは、遺産の一部をもらいたいと申し出ましたが、そう簡単ではないことに気が付きました。相続人のなかに快く思わない人がいたからです。
特別寄与料の請求とは
以前から、相続人には「寄与分」が認められてきました。被相続人(亡くなった人)を無償で看護や介護等をして、財産の維持または増加に寄与した相続人は、それに見合う「寄与分」を相続分に加えることができるというものです。
それが法改正によって、相続人に限られていた「寄与分」を、親族(6親等内の血族または3親等内の姻族)の範囲まで広げて認められるようになったのです。(※1)
親族(相続人を除く)が被相続人に対して特別に寄与した場合において、その「寄与分」に見合った額を相続人全員に請求することを、特別寄与料の請求といいます。また、この特別寄与料の支払いで争いやもめごとになったときには、家庭裁判所に調停または審判の手続きをすることができます(※2)。
簡単ではない特別寄与料の算出
Aさんが特別寄与料の請求を相続人全員にするにあたって、異議を申し立てる相続人が出てきました。Aさんの義母は生前、自分の遺族年金のうち、ひと月5万円を介護費としてAさんに払っていました。よってAさんは「無償の介護」ではないと、相続人からいわれたのです。
しかし実際は、ヘルパー代やデイサービス代、紙おむつ代等でひと月5万円以上は常にかかっていたので、Aさんの労務に対する報酬など全くありませんでした。
Aさんは特別寄与料としていくらが適当なのか悩みましたが、ゆっくりもしていられませんでした。家庭裁判所での協議となった場合、義母が亡くなって6ヶ月以内に特別寄与料の請求をしなければ無効になるからです。
そのためAさんは、悩んだすえに、300万円を相続人全員に特別寄与料として支払ってほしいと申し出たのです。その根拠は、仮に介護施設に入居した場合の介護サービス費が10万円/月なので、差額の5万円/月×介護期間5年分=300万円が特別寄与料として妥当なのではないかと考えたからです。
Aさんと相続人の間で争いに
義母は預貯金として1500万円ほど持っていました。Aさんは、このうち300万円を義母を介護した特別寄与料として自分が受け取りたいと申し出たのです。相続人は夫のほかに義妹と義弟がいます。
義弟が、「法定相続分として兄貴も3分の1を受け取る上に、あなたも300万円受け取るのはおかしいではないか。長男の嫁として母の面倒を看るのは当然だろ! 」とAさんにいったのです。話し合いの結果、しぶしぶ義弟も義妹もAさんの主張を受け入れました。しかし、親戚関係はそれ以来ぎくしゃくしたものになったのです。
終わりに
Aさんは、特別寄与料の支払いを相続人全員に申し出てよかったのか少し後悔しています。もしも義母が、遺言書に「介護をしてもらったお礼にAさんにもXX円を相続させる」と書いておけば一番よかったのですが、遺言書はありませんでした。
このような場合、相続人である兄弟3人が遺産分割について話し合ったときに、Aさん自身ではなく、夫である長男から「妻にも介護の労に報いるために、母の財産の一部をあげたい」と申し出て、みんなが納得した上でAさんの寄与分を決めれば円満解決となったのではないでしょうか。
このように、特別寄与料の請求には相続人全員への配慮など、さまざまな注意が必要です。特別寄与料の申し出を検討している方や、遺産相続について考えている方は、よく確認するようにしてください。
(出典)
(※1) 財務省 相続税法の改正 3 特別寄与料の創設に伴う改正
(※2) 裁判所 特別の寄与に関する処分調停
執筆者:村川賢
一級ファイナンシャル・プラニング技能士、CFP、相続診断士、証券外務員(2種)
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