2020年7月に始まる「自筆証書遺言の保管制度」って?どんなメリットがあるの?
ファイナンシャルフィールド / 2020年2月19日 9時30分
「自筆証書遺言の保管制度」が2020年7月10日(金)に施行されるのをご存じでしょうか。「自筆証書遺言の保管制度」とは何か、どんなメリットがあるのか、ポイントを解説します。
遺言の方式
遺言とは、自分が死亡したときに財産を誰にいくら遺すか等について、自分の意思を明らかにするものです。遺言がある場合には、原則として遺言者の意思に従った遺産の分配がされます。
遺言がない場合は、相続人全員で遺産分割協議を行います。このとき、遺産分割を巡って争いが起こることがあります。遺言があれば、自ら遺産の帰属先を決め、また相続を巡る争いを防止することが期待できます。
特に、「夫婦の間に子どもがいない場合」「再婚をし、先妻の子と後妻がいる場合」「長男の嫁に財産を分けてやりたいとき」「内縁の妻の場合」などに遺言を書いておくと良いでしょう。
遺言の方式には、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言、という3つの方式が定められています。このうち秘密証書遺言はほとんど利用されていませんので、自筆証書遺言と公正証書遺言についてポイントを解説します。
●自筆証書遺言
自筆証書遺言は、遺言者が紙に遺言の内容の全文(財産目録以外)を自ら手書きし、日付、氏名を書いて、署名の下に押印(認印でも可)することにより作成します。
以前は、遺言の内容の全文を手書きせず、一部でもパソコンなどで作成した場合、遺言が無効になってしまいましたが、民法改正により2019年1月13日から、財産目録は自署することを必要としなくなりました。財産目録をパソコンで作成したり,銀行通帳のコピーや不動産登記事項証明書等を目録として添付したりすることも認められるようになりました。
自筆証書遺言を作成するメリットは、費用がかからず、いつでも手軽に誰にも知られずに書けるという点にあります。一方デメリットとしては、日付を「吉日」などとすると無効になるなど、書き方のルールが厳格な点です。
また、誤りを訂正する場合は、訂正した箇所に押印をし、さらに、どこをどのように訂正したかということを付記して、そこにも署名しなければならないなど方式も厳格なので、方式不備で無効になってしまうリスクもあります。
このように、ちょっとしたことで無効になるリスクがありますので、自筆証書遺言は専門家に確認してもらうことをお勧めします。
自筆証書遺言は、必ず家庭裁判所の「検認」を受けなければなりませんので、すみやかに遺産分割を開始するには支障があります。さらに、破棄や隠匿、もしくは変造のリスクもあり、争いの原因になります。実際、自筆証書遺言の有効性が争われた裁判は多数存在します。
●公正証書遺言
公正証書遺言は、遺言者が法律の専門家である公証人の面前で遺言の内容を伝え、それを公証人が聞き取って、遺言者の真意を正確に文章にまとめ、公正証書遺言として作成するものです。公正証書遺言を作成するには、証人2人の立ち会いが必要です。
公正証書遺言のメリットを見てみましょう。公証人は法律の専門家なので、複雑な内容であっても、法律的に見てきちんと整理してくれ、不備のない内容の遺言を作成してくれます。自筆証書遺言のように、書き方のルール違反等で遺言が無効になるリスクがありません。
また、公正証書遺言は自筆証書遺言と違って、家庭裁判所で「検認」の手続きが不要なので、迅速に遺言の内容を実現できます。さらに、原本が必ず公証役場に保管されますので、自筆証書遺言のように、遺言書が破棄されたり、隠匿や改ざんをされたりする心配もありません。
一方デメリットとしては、自筆証書遺言に比べ、費用がかかる点です。費用は遺言の目的たる財産の価額により異なりますが、例えば、5000万円を超え1億円以下の場合、4万3000円(公証人手数料令第9条別表)が基準で、5万円~10万円程度が相場のようです。
なお、遺言には「自筆証書遺言」や「公正証書遺言」は別に、危急時遺言(ききゅうじいごん)という特別の方式による遺言が法律で認められています。
病気や事故などで「死亡の危急」が迫っていて、自書できず自筆証書遺言が作成できない人、あるいは公証人に出張してもらい公正証書遺言を作ってもらう時間的な余裕がない人等にとって有益です。知っておきましょう。
自筆証書遺言の保管制度とは
前述したように自筆証書遺言には、公正証書遺言と違って破棄や隠匿、もしくは変造などのリスクがあります。これらの問題を解決する方法として「自筆証書遺言の保管制度」が創設され、2020年7月10日(金)から施行されます。
自筆証書遺言の保管制度を利用するメリットは、遺言書保管所に保管されている遺言書については、遺言書が破棄されたり、隠匿や改ざんをされたりする心配がないので、家庭裁判所の検認が不要となる点です。また、本人が死亡するまで自筆遺言書等が保管されていることは相続人等に開示されないので、プライシーが確保できます。
相続人や受遺者らは、遺言者の死亡後に、全国にある遺言書保管所で遺言書が保管されているかどうかを調べることや、遺言書の写しの交付を請求できます。また、遺言書を保管している遺言書保管所において、遺言書の閲覧もできます。
なお、遺言書の閲覧や遺言書情報証明書の交付がされた場合には、遺言書保管官は他の相続人等に対し、遺言書を保管している旨を通知します。
遺言書の保管申請は、遺言者本人が、遺言書保管官(法務局)に対して、無封の状態で行います。遺言書保管官は当該遺言が申請者によって作成されたかの形式的な審査をするにとどまり、遺言の有効性まで審査するものではありませんので注意してください。
遺言書はデータ化され、遺言書保管ファイルで保管・管理されます。なお、遺言者は遺言書保管官に対して、いつでも遺言書の申請を撤回できます。この制度が活用されることで、自筆証書遺言が発見されずに遺産分割が行われるケースや、遺言書が破棄されたり、隠匿や改ざんをされたりするケースなどを防ぐことが期待できます。
執筆者:新美昌也
ファイナンシャル・プランナー
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