相続法改正で何が変わった? ~ 特別寄与制度の創設 ~
ファイナンシャルフィールド / 2020年2月21日 9時15分
「相続法」が約40年ぶりに大きく改正され、昨年から今年にかけて順次施行されています。前回は「遺留分制度の見直し」についてお伝えしました。 今回の「相続法」の改正では、これまでなかった権利もいくつか認められるようになりました。本稿では新たに設けられ、2019年7月1日から施行された「特別寄与制度の創設」についてお伝えします。
寄与分とは
従来から「相続人」には「寄与分」が認められるケースがありました。「寄与分」というのは、相続人の中に被相続人の財産の維持または増加につき特別の寄与をした人がいる場合には、その人の寄与の度合いを相続分に考慮する、というものです。
例えば、複数の相続人のうち、1人は被相続人とともに事業を行い、被相続人の資産を築くのに大きく貢献していた。一方、他の相続人は被相続人の事業には一切かかわっておらず、資産の維持・形成への貢献はなかった、というような場合が考えられます。
共同相続人のうちの一部が、被相続人の資産形成の過程で非常に大きな貢献をしたと認められるにもかかわらず、相続が発生したら資産は同じ金額で分ける、というのでは公平とはいえないだろう、ということでこの寄与分という制度があります。
しかしながら、寄与分は相続人にしか認められません。
例えば、下図のようなご家庭を想定しましょう。被相続人と長男夫婦は同居していましたが、数年前に長男は他界されてしまいました。その後はAの妻が義父である被相続人の介護療養など身の回りの世話をしていました。子A夫婦には子どもはいません。
すでに配偶者と子Aは亡くなっているので、相続が発生した場合に相続人となるのは、子Bのみです。Aの妻は介護療養等で被相続人の生活を支えてきました。決して遺産目当てで尽くしてきたわけではありませんが、まったく財産の分与がないことで報われない気持ちになることは理解できるでしょう。
このように、これまでは相続人ではない人が被相続人の介護療養に携わっていたとしても、その人に財産の分与を受ける権利はありませんでした。
今回の改正ポイント
今回の改正では、相続人以外の被相続人の親族が無償で被相続人の療養看護などを行っていた場合には、相続人に対して特別寄与料の支払請求権が認められ、金銭の請求ができます。これによって先ほどのケースで、Aの妻はBに対し介護等の貢献に見合った分の金銭を請求できることになり、実質的な公平が図られます。
特別寄与料の支払請求権の要件
では、具体的にどのような場合に特別寄与料の支払請求権が認められるのでしょうか。
まず、大前提は「被相続人の親族であること」です。親族の範囲は6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族までです。また、先述の「寄与分」の制度は従来どおり存続していますので、「相続人」には特別寄与分が認められません。「相続を放棄した人」「欠格または廃除により相続権を失った人」も認められません。
内縁の妻のように戸籍上は他人である場合などは対象になりません。
また、「療養看護その他の労務の提供により、被相続人の財産の維持または増加に特別な寄与をした」と認められることが必要です。どのような世話をしていたかを具体的に示す必要があります。これらを無償で行っていたことも要件になります。無償で療養看護その他の労務の提供をした資料・証拠等を集めて残しておくことが重要です。
どのように請求する?
請求の方法として、まずは相続人と協議します。
先ほどのケースでAの妻がBと話し合い、Bさんから「義姉さんにはいろいろ世話を掛けたので、このくらいでどう?」といった解決ができるのが理想的です。協議ができない、協議が整わない場合には、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求できます。調停、審判などに進む可能性もあるでしょう。
どのくらい認められるのか
協議の場合には、あくまでも話し合いなので、当事者間で話し合いがつけば金額は自由に決められます。協議が整わなかった場合には家庭裁判所に処分を請求しますが、その金額や割合について具体的な計算式があるわけではありません。
「家庭裁判所は、寄与の時期、方法および程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して、特別寄与料の額を定める」とされているだけですので、請求する人は相手方や裁判所に対し、どのように貢献したかを具体的に伝えていく必要があるでしょう。
ただし、あくまでも被相続人が相続開始の時に持っていた財産が上限です。また、被相続人が遺贈や死因贈与を行っていた場合は、その金額を差し引いた残りの分を特別寄与料が超えることはありません。
いつまで請求できるのか
特別寄与料の支払請求権は「権利」ですので、請求しなければ効力は発生しません。家庭裁判所の協議に代わる処分を請求する場合には、権利を行使できる期間が「特別寄与者が相続の開始および相続人を知った時から6カ月を経過したとき、または相続開始のときから1年を経過したとき」と定められました。
まとめ
高齢化が進み、老々介護などが問題になっています。また、高齢者施設も満室でなかなか入居できない、本人の希望などで自宅で介護するというケースも増えると思います。仮に入所できたとしても、親族の手から完全に離れるということはなかなかありません。
子育ては子どもの成長とともに、親の手を離れていく場合が多いでしょう。しかし、介護はいつまで続くかわからず、周りで支える人たちには大きな負担になることも少なくありません。家族の誰かに負担が偏ることも多いのが現実です。
しかし、相続人でなければ報われないというのでは、介護療養の担い手の選択肢も狭められてしまいかねません。
遺言書に「長男の妻に○○円遺贈する」などと書かれていれば、その遺言書を見たとき「ああ、自分にも感謝してくれていたんだ」と報われた気持ちになるかもしれません。しかし、認知症になってしまった場合など、意思能力に欠ける人などには遺言書も書けません。
決して遺産目当てというわけではなくても、まったく報われないとわかっていたら、介護に携わる人にとっては負担でしかないと感じる人も少なくないと思います。これまでは報われることのなかった「相続人にならない親族」にも「特別寄与」が認められたのは、高齢化社会の要請であるといえるでしょう。
執筆者:西山広高
ファイナンシャル・プランナー、宅地建物取引士、西山ライフデザイン代表取締役
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