おひとりさまの相続対策は簡単?もし対策していなかったらどうなるの?
ファイナンシャルフィールド / 2020年3月17日 10時0分
子がなく配偶者に先立たれた方や、独身の方などいわゆる「おひとりさま」(親もすでに亡くなっているものとします。)で兄弟姉妹が相続人となる場合、遺言や民事信託などの相続対策をしていないと、相続手続はものすごく面倒になります。 その反面、この場合では遺留分を持つ相続人はいないので、おひとりさま本人の希望通りに財産を分けるための相続対策は簡単です。
相続人の確定が面倒
遺産を相談して分けることになった場合、「遺産分割協議」を行う必要があります。その遺産分割協議の前提として相続人を確定させます。
(1)まず、子がないことを証明するために本人の一生分の戸籍(出生から死亡するまで)を取得します。
→配偶者と子がいないことが確定できます。
(2)親の除籍謄本を取得します。
→親が亡くなっていることが確定できます。
(3)両親の一生分の戸籍を取得します。
→本人の兄弟姉妹(法定相続人)を確定します。
(4)兄弟姉妹の戸籍謄本を取得します。
→相続人の生存を確定します。
(5)すでに亡くなっている相続人がいる場合、その人の一生分の戸籍を取得します。
→代襲相続人を確定します。
子がいる場合には、(1)の段階で子が確定され、戸籍謄本で生存を確認して相続人が確定されます。子がいない場合、親が生存していれば親が相続しますが、大多数の親は先に亡くなっているのが通常ですから、そのときには兄弟姉妹が相続人となり、その数だけ多くの戸籍を取得することになります。
さらに、先に亡くなっている兄弟姉妹がいると、代襲相続が発生しますので大量の戸籍を集めなければなりません。
※代襲相続:代襲相続とは、もともとの相続人が被相続人より先に死亡しているケースで、その子どもが相続人になることをいい、例えば、本来相続人となるはずであった子どもが先に亡くなり、その子どもである孫が相続人になる場合が典型的です。
先に兄弟姉妹が亡くなっていた場合は、その兄弟姉妹の子ども(本人のおい・めい)が代襲相続することになります。
一生分の戸籍(除籍謄本・改製原戸籍・死亡の記載のある戸籍謄本)は、人によって枚数は異なりますが5枚から10枚程度となることが多いです。引っ越しで本籍地の変更や離婚などがあると枚数が増えます。戸籍集めだけで、数ヶ月かかることもあります。
遺産分割協議が困難
遺産分割協議は、相続人全員の参加が必要です。合意内容を遺産分割協議書に記載し、全員が実印を押印して印鑑証明を添付します。上の例では、被相続人のめい・おい全員でこれをしなければなりません。
遺産分割協議書を作成するのが困難になることは、容易に想像できると思います。
相続人の認知症リスク
相続人となる兄弟姉妹が高齢の場合には、認知症になってしまうというリスクも考えられます。相続人が認知症で法律行為ができないと、遺産分割協議もできません。成年後見人に代理してもらえばできますが、遺産分割だけのために後見人制度を利用することはできません。
また、成年後見人を付けたとすると、被後見人が死亡するまで続けなければなりません。裁判所が専門職後見人を選任した場合には、月額2万円~6万円程度の報酬を払い続けることになります。
そのため、認知症の相続人が亡くなって、その子が代襲相続人として遺産分割協議に参加できるようになるまで、「おひとりさま」の遺産は凍結状態になってしまうことが多いのです。
相続対策は、子がいる場合より簡単
このように、おひとりさまが相続対策をしていなかった場合に、いかに相続手続が面倒になるかがお分かりになったと思います。しかし、おひとりさまの場合は、法定相続人である兄弟姉妹には、「遺留分」がありませんので、相続対策は簡単です。
※遺留分=兄弟姉妹以外の法定相続人に認められた最低限の取り分。例えば、子の場合、法定相続分の2分の1が遺留分です。なお、法定相続人の範囲は、配偶者、直系卑属、直系尊属、兄弟姉妹です。
・配偶者:常に相続権をあります。
・直系卑属:第1順位。配偶者と同様で、常に相続権を有します。
・直系尊属:第2順位。第1順位の相続人がいないときに相続権を有します。
・兄弟姉妹:第3順位。第1、2順位の相続人がいないときに相続権を有します。
上位の相続順位の人がいるときは、下位の人には相続権はありません。
仮に、子のいる場合になりますと、子は遺留分を有する法定相続人ですから、相続対策は大変です。例えば、3人の子のうち親不孝だった長男には相続させない旨の遺言を作っても、長男が遺留分を請求すると他の相続人はお金を支払わなくてはなりません。
ですから、相続対策として遺言や民事信託などを作る際には、遺留分の請求がされないような工夫が必要になります。
しかし、おひとりさまの場合で法定相続人が兄弟姉妹の場合は、遺留分を気にする必要はありません。
「全財産を****に相続させる(遺贈する)」と遺言したり、民事信託で財産を渡したい人を残余財産受益者に指定したりすれば、それによって財産は承継されます。兄弟姉妹やおい・めいには、財産を請求する権利はありません。
このようにおひとりさまは、遺言や民事信託で自由に財産を分けることができますので、ご自身の相続手続を複雑にしないためにも、相続対策をしておきましょう
執筆者:宿輪德幸
CFP(R)認定者、行政書士
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