景気が悪いのに物価が上がる? 新型コロナが経済に与える影響とは
ファイナンシャルフィールド / 2020年3月19日 10時0分
![景気が悪いのに物価が上がる? 新型コロナが経済に与える影響とは](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/financialfield/financialfield_72919_0-small.jpg)
新型コロナウイルスがついに「パンデミック(世界的流行)」と判断されるに至り、各国が国内での感染拡大を遅らせるために、水際対策などに躍起になっています。 このため、世界各地で人やモノの動きが滞り、経済への悪影響が色濃く見られ始めました。景気悪化は通常、物価の低下を招きますが、今回は複雑な影響が考えられそうです。
供給サイドからのインフレ圧力と、需要サイドからのデフレ圧力
観光旅行客や出張者が急減した結果、航空運賃やホテル代などで大幅な値引きが見られています。
景気の先行きへの不安から消費を手控える動きが広がれば、今後より幅広い分野で、値下げによって消費者を呼び込もうとする動きが見られるかもしれません。これは、弱い需要を要因とする新たなデフレの可能性が高まっていることを意味します。
一方で、中国で物流が大きく滞った結果、世界中の製造業に混乱が見られています。グローバルに張り巡らされた多くの製品のサプライチェーンに、中国ががっちりと組み込まれているためです。
米アップル社は2月中旬、部品の供給元の工場で操業再開が遅れていることなどから、1~3月期の売り上げ目標を達成できないだろうと発表しました。自動車会社でも、フィアット・クライスラー・オートモビルズや現代自動車などが、中国からの部品供給がないことを理由に工場の操業停止を一時発表しました。
さらに3月に入ると、感染が急拡大している欧州などで、外出制限などを受けて幅広い産業で工場の停止が見られています。商品の供給が需要を下回れば、通常価格は上昇します。需要も明らかに弱回ってきていますが、今後弱い供給を要因とするインフレが局所的に出てくる可能性もありそうです。
新型コロナウイルス流行前から始まっていた、米国の中国外しの動き
中国国内では、新型コロナウイルスの感染はピークを過ぎたとの報道も見られます。もしそれが事実であれば、中国での物流も早晩に回復し、世界各地の製造ラインは徐々に元に戻ると考えることもできます。
しかし、今回のことを教訓に、中国に依存しすぎないサプライチェーンを構築しなおそうとする動きが強まる可能性があります。
特に米国では、トランプ政権が2018年から対中貿易戦争を行っており、中国通信機器最大手の華為技術(ファーウェイ)を米国から実質的に締め出そうとしています。米中分断への懸念が、この機に企業の脱中国を一層後押しする可能性があります。
日本国内でも、安倍首相を議長とする未来投資会議で3月5日、新型コロナウイルスの感染拡大による経済への影響が議題になりました。その中で、中国に依存しすぎる現在のサプライチェーンを念頭に、生産拠点の国内回帰やASEAN諸国への多元化を後押しする考えが示されました。
サプライチェーンの再構築は、コストアップにつながることが少なくないことも想定され、こうした流れが広がれば、最終商品価格への影響もありそうです。
ESGが後押しする、割高でもグリーンなものの選択
また、新型コロナウイルスとは直接的な関係はありませんが、企業があえてコストの割高な選択をする動きが広がっています。
環境や人権に対する意識が世界的に高まる中で、企業もそれらに配慮した経営を行う向きが増えているのです。ESG投資(環境、社会、企業統治に配慮した企業に、より重点的に投資を行うというもの)が急速に広がりを見せており、株価への影響が大きくなっていることが背景にあります。
割高でも、再生エネルギーを利用したり、労働環境に配慮した原材料調達を行うなどという行動が、企業に求められています。こうした動きも、商品価格への一定の上昇圧力となりそうです。
供給が目詰まりする中での金融緩和
「コロナ恐慌」への懸念から、世界的に株価が暴落しました。リーマンショック以上の混乱状態となっており、対応として、米国は金利を実質的にゼロへと引き下げました。欧州や日本、その他多くの国でも、緊急的に利下げが行われました。加えて、経済を下支えするために、世界各国が大幅な財政出動を議論しています。
そうした様々な施策は、現在のような非常事態には必要であろうと考えられます。しかし、供給が限られているときに需要を高めようとする政策ともなりえ、「悪いインフレ」を引き起こしかねないという懸念も完全には否定できません。
中国は既にスタグフレーション
「悪いインフレ」とは、景気が悪いのに物価が上がる状況をいい、「スタグフレーション」と呼ばれます。過去には、1970年代のオイルショック時や、2008年のリーマンショック後などに、スタグフレーションの状況にあったとされます。
そして現在、中国がスタグフレーションの状態にあるとの見方が広がっています。中国の2月のインフレ率は前年比+5.2%となりました。1月の5.4%よりは若干低下したものの、依然8年強ぶりの高水準です。
アフリカ豚コレラの流行で食肉価格が高騰していた上に、新型コロナウイルスの流行で医療サービスの価格が上昇したことなどが背景にあります。
一方で、景気は足元で劇的に悪化しています。1-2月の経済指標では、消費や投資の20%以上の落ち込みが確認されました。1~3月期のGDPでも、マイナスの伸びになるとの予想が増えています。
スタグフレーションのリスクにも目配りを
先に書いたアップルの発表を受けて、債券運用大手ピムコの元CEOで、現在は独保険大手アリアンツの首席経済顧問であるモハメド・エラリアン氏は、「スタグフレーション的な側面を示す」とツイッターで述べました。
1970年代のスタグフレーションの時には、最終的にポール・ボルカー氏が米国の連邦準備制度理事会の議長に就任し、不況の中でも利上げを進めました。同氏は、「インフレ・ファイター」として、今日高い評価を受けています。
現時点では、世界各国の大胆な金融緩和もあり、金利の低下は進むとの見方が多いようです。しかし、最悪のシナリオとして、スタグフレーションに近い状況も想定するなら、金利が長期的に低いままであるとは限らないと意識しておくべきかもしれません。
[出典]
Bloomberg「アップル、1-3月売上高目標の達成予想せず-新型ウイルス影響」
NHKニュース「新型ウイルス フィアット・クライスラー セルビア工場操業停止」
首相官邸「未来投資会議(第36回) 配布資料」
執筆者:北垣愛
マネー・マーケット・アドバイザー
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