葬儀の簡素化が止まらない。日本人の葬儀観に変化が
ファイナンシャルフィールド / 2020年3月29日 0時0分
少子高齢化、とくに核家族が増えたことで、これまで定着していた葬儀の形式が大きく変化しています。 これまで比較的尊重されてきた「イエ」に対する意識が希薄となり、個人の考えで自由に葬儀の形を選ぼうとしています。葬儀形式が多様化するだけでなく、葬儀の簡素化が急速に進んでいます。
従来は通夜と本葬の2日葬が定番
これまでの葬儀では、前日の夜に通夜を行い、翌日が本葬という2日がかりの葬儀が通常のパターンでした。会葬者も連絡を受けると、急な事態でも、通夜か本葬のどちらかには駆け付け、故人を偲ぶという形式が一般的にとられてきました。
とくに地方では、葬儀となると近所付き合いをしていた人たちが総出で手伝い、大切な地域交流の場ともなり、参列者も多くなることが一般的でした。
一方、都会の場合は、手伝い要員の確保が困難なため、葬儀の専門家に依頼するケースが圧倒的に多かったといえます。僧侶派遣の依頼、祭壇や棺の手配も、葬儀社などに任せることが多く、故人を見送るという神聖な儀式の側面も強調されてきました。
葬儀費用の相場を知らない人も多かったため、実際には葬儀社から提示された価格をうのみにして、支払ってきました。祭壇や棺などについても、高額なもの選ぶ傾向がありました。
キリスト教など本人が帰依していた宗教がある場合を除いて、僧侶を招き、経を唱えて供養してもらう仏式の葬儀で、親や祖父母など先祖が眠る墓地に埋葬されることが一般的だったといえます。
とくに宗教的な意識が明確でない場合は、「なんとなく仏式で」葬儀が進められました。個人の意向というより、これまでの日本人の「しきたり」に沿って葬儀が行われてきました。
増える簡素化への動き。1日葬や直葬
ところが最近では、これまでのように通夜と本葬と2日に分けて行う葬儀は減少し、「1日葬」や「直葬」などが増える傾向にあります。
「1日葬」は通夜を行わずに、昼間に小さな会場を借り葬儀を行い、その後火葬場に向かう方法です。
僧侶を呼ぶケースもありますが、故人の好きだった楽曲を流す音楽葬などの形式を取り、僧侶なしで実施することも多くなりました。参列者も家族に加え、親族と親しい友人だけというケースが一般的です。多くの人には知らせずに、内々で葬儀を簡素に済ませることが主流になりつつあります。
「直葬」は、葬儀用の特別な会場などは手配しません。直接火葬場で個室を借り、家族と親しい親族が集まり簡単な式次を行ったあと、そのまま火葬する方法です。1日葬よりも簡単な葬儀です。従来はあまりありませんでしたが、最近ではこの直葬もかなり増えてきました。葬儀の簡素化が進んでいる証左といえます。
高齢者の増加しているため、葬儀自体の件数は増加傾向ですが、間違いなく簡素化が進み、葬儀にかける費用も減少しています。葬儀業者の選定も、亡くなった病院とは関係なく、ネットで検索し数社からの見積額を比較して決める方法が増えてきました。
明朗会計のため費用も安く抑えられます。通常の葬儀だと200~300万円程度は軽くかかると思いますが、ネット検索で依頼すると、1日葬や直葬では50万円以下、通常の家族葬でも100万円以下で葬儀が可能です。
以前であれば、通夜と本葬に分かれ、大々的に行われていた有名人や上場会社の社長の葬儀でさえも、最近では家族葬として近親者のみで行い、後日ホテルなどを借りて「お別れ会」や「偲ぶ会」を開くというスタイルが定着しつつあります。間違いなく葬儀の形態に大きな変化が見られます。
なぜ葬儀の簡素化が進んだか
では、なぜこのような葬儀の簡素化が最近進んだのでしょうか。まず考えられるのが「葬儀に費用をかけない」という考え方が、多くの人に共有されてきたことです。故人のために「費用を惜しまない」と考える人が減り、葬儀に対してもコスト意識が生まれてきました。
例えば、僧侶を呼び経をあげてもらっても「お布施をいくら払うか見当がつかない」という心配や、葬儀社の見積もりが高すぎると思うが交渉も面倒、といった葬儀費用に関する疑問が生まれています。
それなら「お金をかけずにシンプルに」と考えるようになってきました。通常の葬儀を行えば、200~300万円程度は最低限かかる、という金銭感覚には同調できなくなっているといえます。ネットを見て価格を比較・検討してから決める、という考え方が普及しつつあります。
次に考えられるのが、これまでのしきたりや慣行にこだわらない、という意識を持った人がかなり増えていることです。「葬儀を決められたとおりにしなくても」と、多くの人が考えるようになりました。
埋葬方法についても、散骨や樹木葬といった方法を、生前に選択し葬儀を希望する人が多くなっています。そのため、葬儀は決まった手順と時間をかけて行うとか、仏式の葬儀手順からいえばこうすべきだ、といったこれまでの慣行にこだわらないのです。
これまでの型にはまった仏式の葬儀の形式が、多くの人たちにあまり支持をされていないのです。
最後に考えられるのが、急速な高齢化の進行です。寿命が延び亡くなる人も高齢になり、喪主など葬儀を実行する人、さらに葬儀に列席しようとする親族や友人も「みんな高齢」という構図が圧倒的に増えています。葬儀への参加者が多ければ、喪主が高齢だと負担も大きくなります。
また高齢になると葬儀に参列したくても、遠隔地の葬儀への参加は足が遠のきます。従来どおりの葬儀を進めようとすると、人々の急速な高齢化がネックとなり、葬儀が実施しにくくなっているのです。
以上の理由により、今後とも葬儀の簡素化はさらに続いていくと思われます。
執筆者:黒木達也
経済ジャーナリスト
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