〈大文字保存会役員〉京都・大文字山の送り火では50年輪以上の巨木が20 本は必要。木がいかに大切かですね
ファイナンシャルフィールド / 2019年2月19日 7時50分
京都では、旧暦で秋のお彼岸にあたる8月16日に、市内を囲む山々で「大」の字二つ、「妙」「法」の字、船の形、鳥居の形をかたどった火を焚き、先祖を浄土へと送る伝統行事があります。「京都五山送り火」として有名なこの行事ですが、 […]
京都では、旧暦で秋のお彼岸にあたる8月16日に、市内を囲む山々で「大」の字二つ、「妙」「法」の字、船の形、鳥居の形をかたどった火を焚き、先祖を浄土へと送る伝統行事があります。「京都五山送り火」として有名なこの行事ですが、当日を迎えるまでにどのような準備がありますか?
年中通して行っているのが、点火資材となるアカマツ探しです。大文字山の送り火だけでも、50年輪以上の巨木が約20 本は必要となるため、適したマツを見つけるのはなかなか大変。山歩きの際には、常に目を光らせています。
伐採を始めるのは2月頃です。伐採したアカマツは、50cmに切り分け、それを小割りして薪に仕上げます。この作業は梅雨入りまでにコツコツと済ませて、薪を倉庫に収納し、約2年かけて大量の割り木を乾燥させていきます。実際にその木を使うのは約2年後の送り火です。
また、焚き添えにする麦の作付けや刈り入れ、火床の整備など、年間通して仕事は山積み。当日、火が燃えているのはわずか15 分ほどですが、次の日からはまた来年の準備が始まります。
京都五山の送り火はいつ頃から始まりましたか。
送り火の起源については、五山それぞれに異なる説が唱えられています。どの山もはっきりしたことはわかっていませんが、仏教が庶民に浸透した中世以降に始まったのではないかといわれています。
大文字山の送り火についても諸説ありますが、なかでも有力なのは、室町時代中期に足利義政が始めたという説です。送り火は民衆の行事ではなく、もとは銀閣寺の行事であったというのが、私の見解です。現在、送り火を運営している保存会員は、もともと慈照寺(銀閣寺)境内に住んでいた人たちです。明治維新、寺域が民間に払い下げられたときに、寺の行事も町民が継承したのだと思います。
昔と現代では運営方法はどのように変りましたか?
運営資金調達の観点をふまえ、教えてください。
寺の行事であったものが、町民の有志による行事へと移行し、運営方法も次第に変化しました。まず、重要となるのは行事にかかる資金繰りです。とはいえ、私が幼い頃は、山仕事が日常生活に根付いていましたので、アカマツの伐採や薪割りも生活の一部でした。送り火前には手拭いや扇子・うちわを売り歩いて資金作りをしました。
しかし、現在の保存会では山仕事の経験者が少なくなり、アカマツの伐採一つにしても業者の協力が必要です。現在の資金源は府や市、観光協会からの補助金です。これは現在、五山で均等に分割して山の保全などにあてています。そのほか、参拝者による護摩木の奉納料も収入源の一つ。薪割りにはボランティアを募るなど、行事を継承するためには、さまざまな工夫が必要です。
伝統行事の舞台となる大文字山は、もともと慈照寺境内に住んでいた人々の共有林地だと聞きました。現代において、「山を持つ」ことには、どのようなメリットがあるのでしょうか?かかる費用や収益のバランスが気になります。
正直言うと、現代における山の価値はかなり低いです。大文字山の面積は約12万坪ですが、雑木林であり、価値はありません。
戦後にスギやヒノキなどを植栽した二次林の価格も低価止まりで、50年輪がどの山にも留まっている現状では山を買う人は少なく、逆に売ってしまいたいと思っている人が多いのが現状です。そもそも山を持っていることすら知らない山持ち家庭が多いです。
果樹や農作物なら毎年収穫することができますが、建築資材となるスギやヒノキは、出荷するまでに数十年はかかります。大文字山の維持管理には年間で数百万円かかっていますので、収支を考えると維持費等の削減から放置山林地を出さざるを得ない。山の管理は、サラリーマンとして働く人が片手間にできることでもありませんしね。
林業で生計をたてるのは大変ですか?
日本の林業は低迷しているイメージがあると思いますが、その需要は大いにあると私は思います。戦後、日本は広葉樹を伐ってスギやヒノキなどの針葉樹林を大量に植栽しました。しかしガスの普及と海外からの輸入品に押され、国産木材の需要は激減。日本では間伐などの手入れが遅れた荒廃林が、どんどん増加しています。
放置された針葉樹林は、光が入らないため下草が生えず、土砂崩れを引き起こすほか、植物も多様性がなく動物たちの食物不足も招きます。この現状を打破するため、これからの林業界には、山を修復する人材が求められています。やみくもに木を植栽・伐採するのではなく、山の現状を把握したうえで管理できる林業者が必要なのです。
今後、林業者が生計を立てるためには、どのような能力が求められますか。
山によって理想の姿はさまざま。その山にはどのような動植物が生息しているのか? どんな資材がとれるのか? まずは歩きまわって山を調べ上げ、数十年後を見据えた計画を立てることが必要です。どの木を残して、どの木を切るのか。全ては林業者のセンス次第。
例えば、現在、京都では寺社仏閣や古民家の保存が考えられています。それぞれの改修材にはスギ・ヒノキだけでなく栗・桜など適材適所でさまざまな材が必要とされています。京都府の7割が森林と思うと、さて、どのような木材が眠っているのでしょう。私は、山を歩いて高価な砥石を見つけたこともありました。このように、山に何があるのかを調べ、需要者に情報を届ける役目をすることが、いま林業界に求められていることだと思います。
最近の長谷川さんの活動を教えてください。
最近は、大文字山に栗、ドングリ、クルミ、ヤマモモなどを多数植えました。すると驚くことに、山麓での鳥獣による被害が減少しました。動物と人間が共存する山も、計画次第で作ることができるのです。
また、京都市の森林風致保全にも協力しています。市内を取り囲む山々を、いかに豊かな山へと導き、管理していくか。こちらは30年計画ですね。
五山の送り火だけでなく、祇園祭の山鉾の車輪、寺社仏閣の建築用材など、京都の文化に木材は必要不可欠です。これからも、美しい木が育つ、豊かな山々が増えていくことを願っています。
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