老後資金捻出のために自宅を処分、慎重のうえにも慎重に
ファイナンシャルフィールド / 2020年5月13日 3時0分
![老後資金捻出のために自宅を処分、慎重のうえにも慎重に](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/financialfield/financialfield_77043_0-small.jpg)
高齢になるにつれ健康への不安と同時に、経済的な不安を感じる機会が増えてきます。その際の一つの選択肢が、自宅を売却して資金を捻出、老後資金にすることです。 しかしいったん自宅を売却してしまうと、売買代金以外の資産は少なくなるため、慎重な判断が求められます。また、新型コロナウイルスの感染が蔓延したため経済活動も大きく停滞、期待した価格で売却することが難しくなってきました。
老人ホームへの入居目的で自宅売却
老人ホームへの入居には、かなり費用がかかります。手元資金が少ないと、入居目的で自宅を売却することも選択肢になります。その際のリスクは、入居した老人ホームに適応できなくても退所が難しくなること、老人ホームが経営破綻時の対応が厄介なことです。
比較的健康な人が自宅を売却して、介護付き有料老人ホームへ入居すると、入居者のほとんどが「要介護」の人で、会話も十分にできず環境になじめずに困惑します。
退所を考えると、新たな費用も発生します。想定と異なる事態に対し行動を起こそうとすると、追加の費用が必要になります。そのための余裕資金を持たないと苦労します。
入居した老人ホームが経営破綻した場合も、深刻なリスクが生まれます。施設を買い取った新経営者が、同じ条件で運営を継続する、別の施設にほぼ無償で移動できる、こうした解決ができれば良いのですが、入居金自体が戻らないトラブルも結構あります。
老人ホーム入居のために自宅売却をしても、余裕資金があまり残らない場合は、その先の立場が非常に苦しくなります。
自宅を担保にして住み続ける方式も
生活資金の不足やローン返済のために、自宅を担保にして、そのまま住める仕組みもあります。リースバック、リバースモーゲージといわれる方式で、いくつかの金融機関が取り組んでいます。
自宅を売却し家賃を支払い住み続ける方式(リースバック)と、所有権を持ったまま融資契約を結び金利を支払い、亡くなった後に精算する方式(リバースモーゲージ)があります。前者は所有権が移転するため相続はできませんが、後者は精算時に相続が可能です。
子どもなど身近な相続人がいない、比較的大きな土地と家屋がある、という条件を満たした人であれば検討の余地があります。しかし、自宅の土地が小規模だったり、自分の想像以上に長生きしたりすると、困った事態になります。
最近では郊外の戸建ての評価額が下がっており、思い通りの価格では売れません。またリースバックの際の家賃は、通常相場と比較して高額です。売却価格の査定、自分の余命など十分な計算が必要になります。
憧れの田舎暮らしを求め移住
会社勤務の長かった人が定年を迎えると、地方の自然に富んだ環境での暮らしに憧れます。都会の一軒家を売り払い、豊かな自然に囲まれた土地で、家庭菜園でもしながらゆったりと生活する、と最初は構想しても、実際思い通りになるかは未知数です。
例えば、農作業が重労働で腰痛が悪化する、土を触る作業が思ったよりもストレスになる、といった状態では、家庭菜園を楽しむどころではありません。
過疎化が進む農村地域では、長く地元に住んでいる高齢の住人もおり、都会とは風習が異なるため、新たな人間関係を築くことにも苦労します。とくに65歳を過ぎての移住には覚悟が必要で、テレビで紹介されている「バラ色の田舎暮らし!」になるとは限らないのです。
最近では地方の物件価格は非常に安くなっているため、都会の自宅を残したセカンドハウス生活も可能です。事情によっては都会へ戻る選択もできるからです。
しかし家を全部処分してしまうと、転居した土地で人や自然と、上手に付き合っていく以外の選択肢はありません。理想を実現できるかの見極めは結構大変です。
機能的な小規模マンションへの転居
子どもが独立した一軒家は広過ぎると考え、買い物も便利で駅に近い一般のマンションへ引っ越す人も増えています。掃除の手間が省ける、庭の手入れが不要、といったメリットはあります。
思い切った「断捨離」も実行できそうです。自宅の売却により、手元の老後資金は増えるはずです。しかし新たに発生する管理費や修繕積立金は、意外にばかになりません。一軒家ではなかった経費が毎月かかるのです。
住んでいた一軒家が高額で売れていれば、問題はありません。しかし安い売却価格では、わずかな老後資金しか残らず、思ったような展開にはなりません。
郊外のマンションへの転居や賃貸暮らしは、お勧めできません。賃貸は高齢者の入居を敬遠する空気があります。維持コストがあまりかからない一軒家は、かなり有り難い存在なのです
転居したマンションに若い入居者が多いと、生活スタイルが異なるため、深夜の騒音や子どもの鳴き声が気になることも考えられます。マンションの管理組合への参加も、役員を任されることなどで、人によっては苦痛を感じるかもしれません。
環境適応能力と経費負担の検証
自宅の売却で大切なことは、その後の環境変化に対応できるかにかかっています。例えば、田舎暮らしやマンションへの移住は、これまでの生活環境とは違ってきます。とくに今まで住んでいた地域を離れる場合は、ゼロからスタートです。
こうした環境変化に適応できない人は、今まで以上に孤立感を味わうことになります。とくに夫婦いずれか一方が亡くなり1人になると、一層孤独感が強まります。集団生活が基本の老人ホームならまだしも、マンション暮らしや田舎暮らしでは、孤独死する危険すら生まれます。
経費負担も考慮しなければなりません。老人ホームやマンションは、月々のコストがかかります。郊外の一軒家は最近人気が落ちているため、期待していた価格では売れません。空き家が増えている実態を考慮すると、今後の売却価格はさらに厳しくなると思われます。
売却価格が安いと、移転する住まいの初期費用に多くはかけられません。老後の期間を考えると、月々の住居費を支払額の計算が必要になります。5年程度で預金額がゼロになるようだと、移転は困難になります。
執筆者:黒木達也
経済ジャーナリスト
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