年金改革法案の「公的年金受給開始年齢の拡大と在職老齢年金の見直し」ってどんな内容なの?
ファイナンシャルフィールド / 2020年6月8日 23時15分
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2020年3月に年金改革法案が閣議決定され、4月14日の衆院本会議で審議入りしました。公的年金の受給開始時期を75歳まで繰り下げることができるようになります。 また、働きながら厚生年金を受給する際に受給額が調整される場合がありますが、その基準額を引き上げるという内容になっています。
年金受給開始年齢を75歳まで繰り下げると年金額は1.84倍に。月々の家計に与える影響は?
現在は公的年金の受給開始年齢は原則65歳。従来は70歳まで遅らせることができることになっています。そして1ヶ月遅らせるごとに年金額は年0.7%増えます。70歳まで遅らせた場合、5年遅らせることになるので42%増です。
(計算式) 60ヶ月(5年×12ヶ月)×0.7 %= 42%
今回の改定により75歳までの繰り下げが可能になれば84%増です。
(計算式) 120ヶ月(10年×12ヶ月)×0.7%=84%
さて、年金が1.84倍に増えるということは、月々の家計にはどのぐらいの影響を及ぼすのでしょうか?
一般的なサラリーマンの方の例で試算してみます。
(前提)
・公的年金額が200万円(老齢基礎年金73万円、老齢厚生年金127万円)と仮定
・老齢基礎年金、老齢厚生年金それぞれ繰り下げると仮定
・加給年金は考慮しない
・在職老齢年金制度により支給停止になる場合については考慮しない
(試算結果)
(a)繰り下げしない場合 :月額概算16.7万円 (年200万円)
(b)70歳まで繰り下げた場合 :月額概算23.7万円 (年284万円)
(c)75歳まで繰り下げた場合 :月額概算30.7万円 (年368万円)
毎月30.7万円を年金として受け取れる計算になります。毎月約30万円という安定した収入は、老後資金の財源としてかなりの安心感です。
在職老齢年金の基準が緩和されると年金額が増える?
老齢厚生年金には、働きながら厚生年金を受け取る人に対して、収入額によって受給額を調整する仕組みがあります。
70歳未満の方が会社に就職し厚生年金保険に加入した場合や、70歳以上の方が厚生年金保険の適用事業所にお勤めになった場合には、老齢厚生年金の額と給与や賞与の額(総報酬月額相当額)に応じて、年金の一部または全額が支給停止となる場合があります。これを在職老齢年金といいます。
今回の年金改革法案では、60歳台前半(65歳未満)の方の基準額が、現行月28万円のところを65歳以降の方と同じ水準の月47万円まで引き上げる予定です。
ちなみに基準額は以下の(a)(b)の合計額で算出します。
(a)基本月額
老齢厚生年金額(加給年金額を除く)×1/12
(注)老齢基礎年金は含めません
(b)総報酬月額相当額
その月の標準報酬月額+その月以前1年間の標準賞与額の総額×1/12
(注)通勤手当や残業手当も標準報酬月額に含まれます
(注)不動産や株取引、フリーランスでの収入は対象外です
・年金を満額で受け取る場合には、どのぐらいまで働いても大丈夫なものでしょうか?
例えば公的年金額が200万円(老齢基礎年金73万円、老齢厚生年金127万円)の方の場合で試算してみます。
(a)老齢厚生年金を月額換算して基本月額を計算します 127万円×1/12 = 10.6万円
(b)基準額となる47万円から(a)を引いて総報酬月額相当額を算出します 47万円-10.6万円 = 36.4万円
つまり、「給与」+「残業手当」+「通勤手当」+「賞与を12等分した額」の合計が毎月36.4万円に抑えられていればよい、ということです。今回の例では、通勤手当を含めて年収436万円ですから、それなりに働けると思います。
・この範囲で働くと老齢厚生年金はどのぐらい増える?
70歳になる前まで厚生年金の被保険者になれますので、60歳から10年間加入すると仮定して大まかな額を試算してみます。
36万円×12ヶ月×10年×約5.5/1000 = 23.7万円
10年間厚生年金に加入して働くと、年金額が23.7万円増える計算になります。月額に換算しますと約2万円ですが、老後の毎月の家計で2万円は決して軽視はできない額かと思います。
まとめ
仮に75歳まで繰り下げることができれば、老後の生活費のかなりの部分が賄えることが分かりました。また、年金を受け取りながらでも、働いて厚生年金に加入すると、年金を増やすことができることも分かりました。
年金の本質は「長生きリスク」に備えることです。生涯年金の総額の大小で判断するという考え方もありますが、自身のご事情に合わせて、長生きリスクの備えとしてふさわしいものを取捨選択し活用したいですね。
また、長く働くことができれば、老後資金づくりのための選択肢が増えることも分かりました。年齢を重ねても働くことができるよう、技能の習得や健康維持への取り組みなど、資産形成と同じく重要になると思います。
(参考)日本年金機構ホームページ
執筆者:仁木康尋
日本FP協会CFP(R)認定者、国家資格キャリアコンサルタント
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