民法改正によって創設された「預貯金の仮払い制度」とは何? 注意すべき点は?
ファイナンシャルフィールド / 2020年6月9日 9時0分
2019年7月より、民法改正によって「預貯金の仮払い制度」(※1)が施行され、相続人であれば遺産分割協議成立前でも被相続人(亡くなった人)の口座から預貯金を払い出すことが可能となりました。 この制度の主な目的は、相続人が葬儀等でかかった費用を葬儀社等に支払うのに、被相続人の口座が凍結されて支払うことができないなどの不安を軽減させることにあります。 一見便利そうな制度ですが、この制度を使って預貯金を払い出す際には注意が必要です。
預貯金の仮払い制度とはどんな制度?
「預貯金の仮払い制度」には、払い出す金額に上限のない「家庭裁判所の判断により払い戻しができる制度」と、金額に上限がある「家庭裁判所の判断を経ずに払い戻しができる制度」の二つがあります。
前者は、家庭裁判所に申請する手続きが複雑なうえ、審判に時間もかかるため、150万円を超える多額の預貯金を払い出す必要がある場合などに限られます。
後者は、相続人単独でも比較的容易に、被相続人の口座から預貯金を払い出すことが可能です。しかし、払い出す金額には上限があり、以下の(1)と(2)のどちらか小さな金額までとなります。
(1)被相続人の口座残高×1/3×法定相続分
(2)150万円
例えば、被相続人はA銀行に1200万円の預貯金があったとします。
相続人が配偶者(1/2)と、長男(1/4)、長女(1/4)の3人であった場合に、長男がこの口座から払い出せる金額は、以下のようになるため、100万円までになります。
*( )内は法定相続分。
1200万円×1/3×1/4=100万円<150万円
必要な書類としては以下のようなものになりますが、各金融機関によって若干違いがあるので、詳しくは該当する金融機関に問い合わせてください。
(1)払い出す預金通帳
(2)払出す目的の分かるもの。例えば葬儀社の見積書や領収書など
(3)被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本や改製原戸籍。法定相続情報一覧図など
(4)払い出す相続人の戸籍謄本や印鑑証明書
(5)申請書(払い出しのための依頼書)
(6)免許証などの本人確認ができるもの(書類を持参する場合)
これらの書類を揃えて窓口に提出しても、金融機関での書類の確認が必要になるので、すぐに払い出されるとは限らず2週間程度かかる場合もあるようです。
注意点も把握しておきましょう
また、この制度の注意点として、以下のことも把握しておくことが重要です。
(1)複数の口座から払い出すことが可能
被相続人がA銀行、B銀行、C銀行など複数の金融機関に口座を持っていた場合には、それぞれの口座からこの制度を使って払い出しが可能です。
仮に、ある相続人が3つの口座から150万円ずつ払い出すと、合計で450万円払い出すことが可能ですが、その相続人が目的以外にお金を使った場合などでは、遺産分割協議のときになって、他の相続人との間で揉めないとも限りません。
そのようなリスクを避けるためには、相続人の間で事前のチェックが必要です。
(2)遺贈や「相続させる」遺言の対象に口座があった場合
払い出す口座の預貯金は、遺贈や「相続させる」遺言の対象になっていないことが前提です。
例えば、遺言で「XX銀行の預貯金はすべて長女Aに相続させる」と書いてあったとしても、それを金融機関が知らない場合は、長男Bはその口座から払い出しが可能となるのです。遺言のある場合には注意しましょう。
(3)「相続放棄」ができなくなる可能性があります
遺産のなかには、預貯金のようなプラス財産だけでなく、借金のようなマイナス財産が含まれている場合があります。もしマイナス財産がプラス財産よりも多い場合には、相続があったことを知ってから3ヶ月以内に「相続放棄」をすることで、マイナス財産を承継しなくて済みます。
しかし、「相続放棄」をする前に遺産の一部を使ってしまうと、「単純承認」したとみなされ、「相続放棄」ができなくなります。この制度を使って預貯金の仮払いをする前に、マイナス財産がないか確かめておいたほうが良いでしょう。
おわりに
「預貯金の仮払い制度」により、遺産分割の成立まで待っていられない場合でも、被相続人の口座から預貯金を払い出すことができるようになって、安心できるようになりました。
しかし金融機関によっては窓口でこの制度に対応していなかったりしているので注意が必要です。必ず該当する金融機関に確認するようにしてください。
[出典](※1)一般社団法人 全国銀行協会「遺産分割前の相続預金の払戻し制度」
執筆者:村川賢
一級ファイナンシャル・プラニング技能士、CFP、相続診断士、証券外務員(2種)
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