令和2年度年金改正法案で「年金が75歳までもらえなくなる」は間違い!どんな内容なの?
ファイナンシャルフィールド / 2020年6月10日 23時15分
新型コロナウイルス感染拡大予防に伴う外出自粛の毎日、こんなときに…と思われるかもしれませんが、現在参議院では、「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律案」が審議されています。 若い世代にとって、将来への不安材料の一つとして「公的年金への不安」が挙げられます。 今できることを今やるのは、もちろん大切ですが、アフターコロナを見据えた将来についても、考えるよい機会かもしれません。現在の制度と改正案、そして将来の生活に与える影響について考えてみましょう。
誤解の多い、年金受給開始時期の選択肢の拡大
令和2年度年金改正法案のなかで注目されるのが、年金受給開始時期の選択肢の拡大です。現状60歳から70歳の間となっている選択肢を75歳まで引き上げようとするものです。このニュースから、若い世代では、「年金が75歳までもらえない」と勘違いされるケースが多く見受けられます。
現状も改正後も、原則として、公的年金は65歳から受け取ることができます。以前は60歳でしたが、昭和60年の年金法改正により段階的に引き上げられ、現在では65歳となっています。
少子高齢化や財源状況を踏まえると、将来的にさらなる年齢引上げの可能性は否定できませんが、現時点で具体的な話には至っていません。
今回の年金受給開始時期の選択肢拡大は、あくまでも「開始時期を選ぶことができる」というものです。
繰上げ受給と繰下げ受給とは
65歳を基準として、希望により、前倒しで受け取る「繰上げ受給」と、先延ばしにする「繰下げ受給」を、ご自身の就労状況やお財布事情によって選ぶことができます。65歳受給開始の場合と比較して、繰上げ受給は1月ごとに0.5%減額され、繰下げ受給は0.7%増額します。
例えば、老齢基礎年金がほぼ満額78万円受給できるAさんの場合を考えてみましょう(令和2年度の満額は78万1700円と決定されました)。
原則の65歳受給開始 年額78万円 →月当たり 6万5000円
60歳から繰上げ受給開始 年額54万6000円 →月当たり 4万5500円
(60ヶ月×▲0.5%=▲30%)
70歳で繰下げ受給開始 年額101万7600円 →月当たり 9万2300円
(60ヶ月×0.7%=42%)
繰上げ受給も、繰下げ受給も、一度決定すると増減率は生涯変わりません。極端な例で示しましたが、1ヶ月単位で申請することが可能です。受給開始時期をずらすことで、月当たりの年金額が変わることがご理解いただけたかと思います。
具体的にどう変わるの?
これまで最大70歳までの繰下げ受給を、75歳まで先延ばしにすることを選択できるようにしようというのが今回の改正案です。
上記の例より
75歳で繰下げ受給開始した場合 年額143万5200円 →月当たり 11万9600円
120ヶ月×0.7%=84%の増額
定年の延長や多様な働き方が進むなか、就労収入を得る、もしくは別の対策をすることで公的年金の受給を先送りし、増額された年金でその後の長い人生を豊かに過ごせるよう、体制を整備しようというものです。
終身で受け取ることができる公的年金は、寿命の延びを考えると、先延ばしにすればするほど年金額は増えることが魅力です。何歳まで生きられるかによって、最終的に損得が発生します。
あわせて知っておきたい在職老齢年金
60歳以上で在職中の老齢厚生年金受給者は、年金額と賃金(標準報酬額)に応じて、年金の一部または全額が支給停止となります。これを在職老齢年金といいます。
今回の改正案では、これまで60歳から64歳までに支給される特別支給の老齢厚生年金について、賃金が28万円を超えた場合に開始される支給停止が、47万円に引き上げられるとされています。
働いてもその分年金がカットされる在職老齢年金は、働く意欲に影響を与えており、改正により支給停止を気にせず働くことを選択できます。
新設の「在職一時改定」という制度
70歳未満で在職中の年金受給者にとって、給与から支払っている厚生年金保険料が年金額に反映されるのは、これまで60歳時、65歳時、70歳時の5年ごとでしたが、早期に反映させるために毎年(改正案では9月1日基準、10月からの年金額に反映)改定することなども盛り込まれています。
70歳までは、厚生年金に被保険者として加入することができます。概算では、報酬月額30万円で1年間働き、年金保険料(労使折半)を納めると、受け取る年金が年額2万円増額するといわれています。毎年増額が目に見えることで、働く意欲に繋がるかもしれません。
確定拠出年金では加入可能要件の見直しも
確定拠出年金の加入要件は、現状は、企業型については規定により65歳まで、個人型(iDeCo)については60歳ですが、それぞれ70歳未満、65歳未満へと引き上げるとともに、受給開始時期などの選択肢の拡大や制度面・手続き面での改善を図るとされています。
収入が増えるのはうれしいけど、思わぬデメリットが…
より多くの人が、より長く多様な形で働く社会へと変化しています。こうした状況を踏まえて、選択肢が拡がるのは喜ばしいことです。確定拠出の拠出期間が延長されることで、積立額も運用にかける時間も増え、より運用効果が期待できます。
ただし、運用効果や年金額が増えたことで、手取り収入が増え、税金負担や介護保険料負担などが増えることも、認識しておきたいところです。
結果的に、収支がマイナスになることのないよう、年金制度や法改正にアンテナを張りつつ、ご自身のライフデザイン(どう生きるか)について考えておきたいですね。
執筆者:大竹麻佐子
CFP🄬認定者・相続診断士
関連記事
2020年の年金改革で、得をするのはだれ?
65歳以降も働く場合、ある程度給与があっても年金は全額受けられる?在職老齢年金制度をおさらい
年金改革法案の「公的年金受給開始年齢の拡大と在職老齢年金の見直し」ってどんな内容なの?
この記事に関連するニュース
-
えっ?! そんな年金聞いたことない……年金に“配偶者手当”なんてあるの?
ファイナンシャルフィールド / 2024年9月22日 3時0分
-
年金なんて、さっさともらっておけば…年金月23万円・75歳の高齢男性、「年金を70歳まで繰下げたこと」をいまだに後悔する理由
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年9月9日 10時15分
-
年金の「繰下げ受給中」です。風呂の排水管が劣化して修繕費用が必要ですが貯金がありません。繰下げ待機期間中の「年金を一括」で受け取ることはできますか?
ファイナンシャルフィールド / 2024年9月8日 21時0分
-
働いたらその分の年金が減額される? 60歳以降も働くなら知っておきたい在職老齢年金
MONEYPLUS / 2024年9月6日 11時30分
-
年金は65歳でもらっていればよかったよ…年金増額で月30万円・72歳で引退のサラリーマンが「年金の繰下げ受給」を悔やむ理由
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年9月3日 10時15分
ランキング
-
1『地面師たち』積水ハウスの“秘密文書”に見る巨額詐欺事件の真相「ずさんな手書き稟議書」「急展開した取引」の背景に派閥争い
NEWSポストセブン / 2024年9月23日 11時13分
-
2出戻り社員「アルムナイ採用」が増えた切実な事情 かつては"裏切り者扱い"も今や大歓迎だが…
東洋経済オンライン / 2024年9月23日 11時0分
-
310月に「チョコレート」などまた値上げ…一方で「サンマ」「ブリ」など秋の味覚はお買い得!?
MBSニュース / 2024年9月23日 18時0分
-
4「効率化で"不要になった社員"」活用する術ある?
東洋経済オンライン / 2024年9月23日 13時0分
-
5「一石二鳥」商品が続々登場 日々使って、災害時にも
共同通信 / 2024年9月23日 15時31分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください