いまさら聞けない不動産投資の基本(8)サブリースのメリット・デメリット
ファイナンシャルフィールド / 2020年6月23日 9時30分
不動産投資に関して問題になった事件として、「かぼちゃの馬車事件」は記憶に新しいところです。 この事件では、金融機関とシェアハウスを投資用不動産として売り込む業者が、共同して行った融資申請書類改ざんなどによる不正融資に加え、サブリースによって投資家のリスクを小さく見せる、詐欺的ともいえる手法が用いられました。 サブリースにはメリットもありますが、デメリット・リスクもあります。今回は不動産投資におけるサブリースの仕組みや問題点について考えます。
サブリースとは
サブリースというのは、サブリースを行う業者(以下、サブリース業者)が大家さん(オーナー)から賃貸物件を一括して借り上げ、エンドユーザーである入居者にまた貸し(転貸)する事業のことです。
厳密にいうとサブリースは「マスターリース契約」(サブリース原契約などとも言います)と「サブリース契約」の2種類の契約によって成り立っています。
まず、オーナーである賃貸人はサブリース業者との間で賃貸借契約を締結します。この契約をマスターリース契約と言います。
この契約には一般の賃貸借契約と同様に賃貸期間や賃料などをはじめとした項目が含まれますが、マスターリース契約が一般の賃貸借契約と最も大きく違うのは「転貸」することを条件としている点です。
マスターリース契約を締結した後、サブリース業者は募集した入居者と賃貸借契約を締結します。マスターリース契約を前提として結ばれる賃貸借契約であり、この契約だけをさしてサブリース契約と呼ぶこともあります。
ここでは、一連の事業手法を総称して「サブリース」と呼びます。
サブリースのメリット
オーナーにとってサブリースの最大のメリットは、一括して賃貸する契約を結ぶことで、一定期間の家賃収入を確定でき、空室リスクを回避できることです。
賃貸住宅は入居者の退去、入れ替えが必ず起こります。すぐに次の入居者が見つかることもあれば、なかなか決まらないこともあります。空室期間中は賃料が入らなくなる一方、借入金の返済などは継続するため、空室の発生は事業計画上のリスクです。
サブリース業者と結ぶマスターリース契約の賃貸料は、入居者が支払う賃料のおよそ85~90%に設定されます。この差額がサブリース業者の取り分で、入居者募集や管理にかかるコスト、空室リスクも含まれ、残りが業者の利益です。
オーナーの得られる賃料は少なくなりますが、空室になっても取り決めた賃料が入り続けるため、空室による収入の波、リスクを回避できることになります。
サブリース契約では通常、管理も合わせて委託します。入退去に伴う手続きもすべてサブリース業者が行います。サブリース契約はサブリース業者と入居者が当事者となる契約ですので、オーナーと入居者が接することはありません。
入居者からのクレームなどへの対応も業者が行うことになります(ただし、そのクレームが業者に責任がなく、オーナーに対応を求められるべきものであれば当然オーナーが費用などを負担します)。
共用部の管理などもサブリース業者が行うため、副業で不動産投資を行うような人にとっては物件管理に関わる手間がなく、順調にいけば文字通り「不労所得」が得られます。
不動産投資は、しっかり検討すれば比較的リスクの低い投資だということは、これまでもお伝えしてきました。大きなリスクである空室リスクを回避する手段として、サブリースの利用は有効な手段だといえます。
ただし、その内容などをしっかり理解し、契約が賃料などを含め適正な条件で結ばれていれば、の話です。
サブリースのデメリット・リスク
かぼちゃの馬車事件では、スマートデイズという業者がシェアハウスという形態の賃貸物件をオーナーに販売すると同時にマスターリース契約を締結。長期間にわたって賃料を保証するという触れ込みで購入者を募りました。
実際にはその物件の価格は相場よりもかなり高く設定され、スマートデイズが購入者から得た売却益はかなり大きかったようです。また、想定賃料も周辺相場よりかなり高く設定されていました。
しばらくはサブリース業者からオーナーに賃料が支払われていたものの、実際の入居者は少なく、業者からオーナーに賃料の改定あるいは契約の解除を持ち掛けるケースが続出。
サブリース業者の経営が厳しくなると、オーナーへの賃料支払いが滞り、最終的に破たん。オーナーには空室だらけの物件と借入金が残りました。しかし、そもそも高値で購入し、想定賃料も高く設定されていたことから、売るに売れず、貸すに貸せないという窮地に追い込まれました。
この件以外でも、サブリースに関するトラブルがおきています。
サブリース業者が「長期契約だから安心です」など、あたかもずっと同じ賃料が受け取れるような、誤解を与える営業トークを使うことも少なくありません。しかし、契約後もずっと同じ条件で継続されるとは限りません。
こうした契約の多くが
・当初の家賃を保証する期間を2年程度に設定し、その後は協議によって見直しができる
・解約できない期間が定められていた場合でも、賃料の見直しができる
・解約不可の期間を過ぎて賃料について協議し、協議が調わない場合には解除できる。
といった条件になっています。
オーナーからだけでなく、賃借人であるサブリース業者からも解除や条件変更を申し入れることができるのです。業者から賃料の見直しを求められ、承諾しなければ契約を解除するということもあるわけです。
サブリースの活用によって空室リスクや賃料の下落リスクはオーナーからサブリース業者に転嫁されています。
しかし、業者も事業として行っているので、空室が埋まらなければ損失を出し続けることになります。事業で行う以上は利益が出なければなりません。出血が止まらない場合には、止血策として契約解除という選択肢があることは仕方がないともいえます。
オーナーとしては、見込まれる賃料収入が下がったり契約を解除されると、借入金の返済が厳しくなったり、自己負担が発生することになるでしょう。不動産投資の失敗どころか、人生をも棒に振ってしまうおそれがあります。
リスクを回避するためのチェックポイント
サブリース契約では、契約書の内容について十分に確認しておく必要があります。とはいえ、頻繁にこのような契約を経験している人は少なく、内容を詳細に精査することは難しいかもしれません。しかし、非常に重要な契約ですので、きちんと内容を理解する必要があります。
その中でも特に重要な確認点は以下のとおりです。
・想定している募集家賃は適正か
周辺の競合物件の募集賃料などと比較し、適正に設定されているかを確認します。
・保証家賃の見直しに関する項目
家賃の見直し時期についての記述内容を確認します。
・契約解除の条件(契約解除の予告期間、違約金の有無)
契約解除ができない期間の設定の有無や期間。解約する場合にはその予告期間や違約金の有無などを確認します。
投資用物件として保有し、売却しようとした時に買主からサブリースを外すことを条件とされることがあります。その際に、違約金が発生したり催告期間が長かったりすると不利になることがあります。
・保証期間の始期と免責期間(一般的に1~3カ月)
マスターリース契約締結後にサブリース業者が入居者募集を始める場合、入居者が埋まるまでに相応の期間がかかります。
そのため、サブリース業者は契約締結から一定期間の賃料を安く設定する条項を盛り込むことが少なくありません。この期間も借入金の返済はありますので、資金繰りなども含めて注意しておく必要があります。
・契約更新料の有無と金額
サブリース契約を更新する際に、契約更新料が設定されるケースがあります。契約更新料の有無や金額も確認します。
・サブリース業者の業態や信用状況
かぼちゃの馬車事件以外にも、サブリース業者が破たんしたケースはあります。ある程度規模が大きく業歴の長い業者を選択し、評判なども確認します。与信調査などできればなお良いでしょう。
サブリースは「普通賃貸借契約」で締結するのが一般的ですが、「定期建物賃貸借(定期借家)契約で締結する方法もあります。定期借家契約の場合、賃料の改定が認められません。
一方、定期借家契約では賃貸期間満了時に更新がありません。その後も継続する場合には再契約することになり、改めて条件の交渉などを行うことになります。
法改正が予定されている
不動産オーナーとサブリース業者との間でのトラブルが頻発したことから、平成30年に消費者庁と国土交通省が連携し、トラブルの防止に向けて、サブリース契約を検討している方、サブリース住宅に入居中の方に対して、主な注意点、相談事例、相談窓口を掲載した注意喚起が公表されました(※)。
また、国土交通省がサブリース業者と所有者間の賃貸借契約の適正化措置と、賃貸住宅管理業者の登録制度を設け、業務の適正な運営を確保する「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」の法案を作成し、今年3月に、閣議決定されています。
この中では、サブリース業者による不当な勧誘の防止と、重要事項説明の義務化などの措置が設けられています。早ければ今国会中(本記事は2020年5月に執筆)にも成立する見通しです。
まとめ
サブリースは「賃料は多少下がっても安定した収入を得たい」と考えるオーナー向けのものだといえます。人気があるエリアや物件であれば、サブリースを使わなくても入居者が埋まるでしょう。
新たに不動産投資を始める場合には、物件選びの際に安定的に入居者が確保できる物件を選ばなければなりません。そうした検討を十分に行って取得した投資用物件であればサブリースはいらない、ともいえます。サブリース業者も事業です。損を出し続けるわけにはいきません。
今後はサブリース業者の悪質な営業は減るとは思いますが、あくまでも投資は自己責任。業者の言いなりにならず、自分自身で検討・分析し、投資するかどうか、投資対象をどう選ぶか決めなければなりません。
(※)
金融庁・消費者庁・国土交通省「アパート等のサブリース契約を検討されている方は契約後のトラブルにご注意ください!」
消費者庁・国土交通省「サブリース住宅に入居する方はオーナーとサブリース業者の契約内容を確認しましょう!」
執筆者:西山広高
ファイナンシャル・プランナー、宅地建物取引士、西山ライフデザイン代表取締役
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