社会の関心は公的年金の「繰下げ」に? 将来のために考えておきたい3つのこと
ファイナンシャルフィールド / 2020年6月30日 9時10分
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新型コロナウイルス感染症による緊急事態宣言が全国で解除され、最初の週末を迎えました(2020年5月30・31日)。しかし、経済が活気を取り戻すのは「すぐ」なのでしょうか? それとも「時間がかかる」のでしょうか? 経済の先行きとともに、ご自身の仕事と収入の先行きに不安をお持ちの方も少なくないと思います。「公的年金を繰上げ受給しようか」と考え始めた還暦世代の方もいらっしゃるかもしれません。 今回は、公的年金の繰上げ受給のお話です。
社会の関心は公的年金の「繰下げ」に?
約1年前、「ねんきん定期便」において繰下げ受給が訴求されるようになりました。
本稿の執筆時点(2020年5月)、改正年金法案が国会にて成立し、受給開始年齢が75歳まで拡大されました。つまり、「繰下げ受給」できる年齢が現行の70歳から75歳まで延びた、ということですね。
人生100年時代、定年の延長や“生涯現役”など、働くことのできる年齢が延びつつあります。この人生100年時代を背景に、公的年金の繰下げ受給が訴求されるようになったといえるでしょう。
公的年金の「繰下げ受給」と「繰上げ受給」を簡単におさらい
公的年金は65歳から受け取りが開始になるのはご存じだと思います。受け取り開始の年齢を遅くすることを「繰下げ受給」といいます。逆に、受け取り開始の年齢を早めることを「繰上げ受給」といいます。
繰下げ受給は、現行では66歳から70歳まで可能で、繰下げ1ヶ月につき年金額が0.7%増えます。仮に70歳まで繰下げると、年金額は42%増える計算(0.7%×12ヶ月×5年間)になります。
ちなみに、増えた金額は公的年金をもらっている間、つまり本人が亡くなるまで有効です。ただし前述のとおり、65歳から70歳までの間は、年金はもらうことができません。
繰上げ受給は、60歳から64歳11ヶ月まで可能で、繰上げ1ヶ月につき年金額が0.5%減ります。仮に60歳からもらい始めると 年金額は30%減る計算(0.5%×12ヶ月×5年間)です。
ちなみに、減った金額は公的年金をもらっている間、つまり本人が亡くなるまで続きます。ただし前述のとおり、本来公的年金をもらえないはずの60歳から65歳までの間、年金を受け取ることができます。
リーマンショックの時に……
筆者がリーマンショックと聞いて記憶が重なるのが、実は公的年金の繰上げ受給です。というのも、リーマンショックの後、やはり「経済とともに仕事の先行きがどうなるか分からないので」という理由から、公的年金の繰上げ受給のご相談を受けることが多かったからです。
「収入が減ったので、その足しに年金をもらおうか(=繰上げ受給しようか)と思っている」という言葉を発したのは、収入が不安定なフリーランスの方だけではありません。従業員を抱えている社長や正社員でも歩合制で働く方、それに役職定年で減収が予想できる方などもいらっしゃいました。
また、「不況により定年後の再雇用がなくなり、再就職もできない」ということで、収入を得ることが難しく「公的年金の繰上げ受給をするしかない」とおっしゃる方もいました。
現在、新型コロナウイルス感染症の影響による自粛が解除され、街にはそこはかとなく解放感のようなものを感じますが、果たして経済先行きはいかがなのでしょうか?経済の先行きに重ねて、ご自身の仕事の先行きに一抹の不安をお感じの読者もいらっしゃると思います。
特に還暦世代の方は、今後の収入面における不安から、公的年金の繰上げ受給について考える方もいらっしゃるかもしれません。
コロナショックで公的年金を繰上げるのか?
「仕事の収入」+「公的年金の繰上げ受給」で、今後の生計を成り立たせようと考えている方を例にとります。公的年金を繰上げ受給すると、先述のとおり減額された年金が生涯続くわけですから、この例の場合、働き続けることが前提になります。
すると、気になるのは「働き続ける」という点です。筆者は3つの課題があると考えます。
1つ目の課題は、「時代の変化=働き方の変化」についていけるのかということです。テレワークや印鑑レスなど、働き方・仕事のやり方が著しく早く、そして大きく変わりつつあります。今後AI(人工知能)が進化すれば、自動運転の車を運転することになるかもしれませんし、ギグワーカーも増えることでしょう。
そうした時代の変化に対応できないと、働き続けることは難しいかもしれません。生涯働き続けるのが難しければ、65歳から公的年金をもらうことも視野に入れる必要があるかもしれません。
2つ目の課題は健康です。働き続けるのですから、健康であり続けなくてはなりませんね。
もし、公的年金の繰上げ受給を始めた後に重篤な病気にかかり、一命を取り留めたものの障害が残ったとしたら……実は、公的年金の繰上げ受給をした後では、障害年金を受給することはできないのです。その点は留意する必要があるでしょう。
課題の3つ目は在職老齢年金です。働き方が給与所得(会社員もしくは法人役員)ですと、繰上げた公的年金をもらいつつ、厚生年金保険にも加入し、厚生年金保険料が天引きされます。
そのため、「もらっている年金+給料の額(月給+賞与÷12)」しだいでは、繰上げた厚生年金の額がカットされてしまうこともあります。これを在職老齢年金といいます。
なお、在職老齢年金は厚生年金だけですので、繰上げた老齢基礎年金にカットはありません。また、働き方が個人事業主などのいわゆるフリーランスですと、厚生年金保険には加入しませんので、在職老齢年金はありません。
在職老齢年金を避けるために、勤め先と雇用契約を結ぶのではなく、業務委託契約を結んで働くという方法を選ぶ方もいらっしゃいますが、異なるのは年金だけではありません。
年金を含めた社会保障、確定申告の必要性、指揮命令の有無など、働く環境がガラリと変わります。しっかりシミュレーションを行ってから判断しましょう。
まとめに代えて
コロナショックは一時的なことなのか、ある程度の期間続くことなのか、もし続くとしたらそれはどのくらいなのか……これは誰にも予想できません。
公的年金を繰上げ受給する、というのは一生に関わることです。一度、繰上げ受給を始めたら元には戻せません。
なので、公的年金を繰上げの検討にあたっては、公的年金の受給額だけではなく、仕事の今後の見通しや家計支出の状況、ご自身を含めたご家族のライフプランとライフイベントの整理と把握、それに健康状況なども念入りにチェックしておく必要があるでしょう。
執筆者:大泉稔
株式会社fpANSWER代表取締役
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