昨年改正された、相続発生時の預金の取り扱いについて
ファイナンシャルフィールド / 2020年7月12日 10時10分
昨年から、相続発生時の預金の取り扱いについて法律が変わりました。紆余曲折ありましたが、上限額はありますが各相続人が単独で払い戻す(仮払い)ことができるようになりました。 平成28年の判例変更後、懸念されていた、故人が残してくれていたお金を、必要なときにまったく使えないという事態は避けられるようになりました。 一方で、仮払いを相続人の権利として明確化されたことで、相続人であれば、誰でもその一部を払い戻すことができるようになったことには留意が必要です。本稿では、相続時の預金の取り扱いについて説明したいと思います。
平成28年12月の最高裁判例以前
平成28年の最高裁判例がでるまで、預金については遺言がない場合には、法定相続分を相続人が受け取るものと考えられていました。そこで、必要とされる手続きをとれば、法定相続分については、各相続人が単独で引き出すことも可能でした。
この取り扱いの元になる考え方は、預金についてはあらかじめ取り決めがない場合には、相続手続きで相続人が分割方法を相談して決めなくても(簡単に分けられるから)、相続時に法定相続分で分割されるというものです(従来の判例や実務ではそのように考えられてきました)。
平成28年12月の最高裁判例以後
これについて、まったく逆の判断を示したのが平成28年の最高裁判例で、預金についても相続財産=相続人が協議して相続方法を決める対象=こととなりました。預金だけ別扱いにすると他の財産、あるいは生前贈与との関係で不公平になることに配慮されたものです。
これによって、相続人が複数いる場合には、相続人全員の同意を得るか、遺産分割協議の成立を待たなければならなくなりました。金融機関に話したら、故人の預金を凍結されて下ろせなくなったという話を聞くのは、ここから来ています。
簡単にまとめると、金融機関にとっては、従来は判例等により法定相続分までは相続人のものと推察されていたので、リスクを限定しながら対応が可能であったものが、新しいルールではその前提が崩れたため、相続人全員の意向を確認せざるを得なくなりました。
そうなると、手続きが煩雑になり、必要なときに故人の預金を使用できないケースも発生しうることとなってしまいました。
令和元年7月1日以後
昨年の相続法制に関わる民法の大規模な改正の中で、上記のような不都合を解消するために、各相続人が単独で預金払戻を請求する2つの方法が新たに設けられました。1つは家庭裁判所に仮払いを申し立てる方法と、もう1つは金融機関に直接仮払いを求める方法です。
前者については一定の手続きが必要であり、かつ家庭裁判所の判断を仰がなければなりませんが、後者については仮払いの金額についての上限の範囲内であれば、相続人の単独請求で払い戻すことができます。
なお、直接請求の場合の上限額は、各預金口座の法定相続分の1/3(ただし、1金融機関から払戻を受けられるのは150万円まで)です。
相続に関わるもう1つの改正
預金を法定相続分で分割する予定の場合には、基本的にこれで懸案の1つは解消されたのですが、遺言により1人の人が預金のすべてを(あるいは法定相続分を超えて)受け取る場合には留意が必要です。
1つは、先に記載した限度額までは各相続人が単独請求できるということ。(きちんと対応しておかないと引き出されてしまう可能性があります)
もう1つは、同じタイミングでの民法改正で、遺言により法定相続分を超えて財産を相続する場合、それを第三者に対抗するには、対抗要件を具備させることが必要になったということです。
法改正により、全額を凍結される懸念はなくなったのですから、このような場合(法定相続分を超えて相続する場合)には、相続発生時に早いタイミングで、該当の預金を取り扱う金融機関に相談されるとよいでしょう。
執筆者:堀内教夫
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