年金にも時効があるって本当? 手続きしないと権利が消滅することも
ファイナンシャルフィールド / 2020年7月12日 23時0分
時効という言葉をご存じでしょうか? 時効には消滅時効と取得時効の2種類がありますが、今回は、年金の消滅時効についてお話します。 普通の借金に返済期限が設けられているように、年金にも受け取る権利の期限が設けられています。この期限を過ぎすると権利は消滅してしまいます。年金の時効のルールは少し複雑なので、分かりづらいと感じる方もいるかもしれません。 ご自身やご家族が年金をもらい忘れないよう、この記事を参考にしてください。
のんびりしていると年金をもらう権利そのものがなくなる?!
年金をもらえる年になったら、自動的に年金が自分の口座に振り込まれるでしょうか?ちがいますね。年金の受給手続きが必要です。
例えば65歳になって老齢年金受給の資格を満たしたとしましょう。そうすると、受給年齢になる3ヶ月前に、年金受給手続きに関する書面が日本年金機構からが送付されます。
年金請求書や住民票など必要書類をそろえて、お住まいの市区町村に年金の受給手続き(裁定請求)をすると、年金の支給が開始されます。
この年金受給権を基本権といいます。基本権は、発生してから5年を経過したときは、時効によって消滅してしまいます。つまり、年金の裁定手続きを忘れて5年経過してしまうと、やむを得ない事情がある場合を除き、年金をもらう権利を失ってしまう可能性があるのです。
ただし、国など年金支払者は、時効による利益を受けるためには「時効の援用」をしなければなりません。時効の援用とは、時効の成立を主張することです。年金受給資格が満たされたら、すぐに裁定請求をしましょう。
なお、年金の基本権につき、時効が援用されるケースはないようです。しかし、次に述べる「支分権」は5年で消滅します。早めに手続きをして損はありません。
さかのぼれるのは5年だけ?
年金の基本権の消滅時効が完成したとしても、国などが時効を援用しないかぎり年金裁定をすることはできます。しかし、年金裁定請求が遅くなると、損をしてしまうかもしれません。
例えば、年金受給権が発生してから7年経過して裁定請求をしても、原則としてさかのぼれるのは5年分だけです。偶数月に年金を支給される権利は、5年を経過すると時効によって消滅するからです。
なお、具体的に確定した額の年金を支給される権利、例えば偶数月に10万円をもらえる権利を支分権といいます。基本権と支分権は異なるので注意しましょう。
支分権は自動消滅するの?
支分権は、国が時効を援用しない場合でも、消滅時効が完成した場合に自動消滅することがあるので、注意しましょう。支分権が自動消滅するかしないかは、受給権がいつ発生したかで変わります。
(1)平成19年7月6日以前に受給権が発生した年金の支分権
5年を経過して消滅時効が完成すれば、自動的に消滅します。時効の援用がなされたかどうか関係ないということです。
(2)平成19年7月7日以降に受給権が発生した年金の支分権
5年を経過しても自動的に消滅しません。国が個別に時効を援用することによって、時効消滅することとなりました。
消えた年金問題
2007年に発覚した「消えた年金問題」は覚えていらっしゃるでしょうか。年金保険料の納付記録漏れが約5000万件もあり、政治的問題にもなりました。
年金保険料の記録漏れがあるということは、支払った保険料の一部が年金額に反映されていないということです。年金の記録漏れが発覚し年金記録の訂正などにより増額された年金額は、時効消滅にかかわらず全額が支払われるとされています。
以下、少し難しいですが整理しておきます。
・上記(1)のケースで支分権が時効消滅している場合でも、年金記録の訂正がなされた上で裁定または裁定の訂正が行われていれば、年金の全額が支払われる。
・上記(2)のケースで、年金記録の訂正がなされた上で裁定または裁定の訂正が行われた場合、国は、時効の援用をしない。
年金記録などの確認
消えた年金問題により、自身の年金額が本来もらえるはずの額より低いのではないかという不安を抱く方もいらっしゃるのではないでしょうか? その場合、年金記録の確認により、早めに自身の年金納付状況などに誤りがないかどうか確認しましょう。
日本年金機構の「ねんきんネット」を利用して年金記録紹介をおこなうと、以下の内容を確認することができます。
- ✓各月の公的年金制度(国民年金、厚生年金保険、船員保険)の加入状況
- ✓各月の国民年金保険料と国民年金付加保険料の納付状況
- ✓各月の厚生年金保険または船員保険の標準報酬月額と標準賞与額
- ✓年金見込額、これまでの保険料納付額など
「ねんきんネット」に表示されている年金記録とご自身の認識に相違がある場合、最寄りの年金事務所または年金相談センターに問い合わせましょう。
まとめ
「権利の上に眠る者は保護されず」という法格言があります。年金についても時効により消滅するケースもありえます。
「行政が全て手続きしてくれるだろう」とのんびり構えていると、もらえたはずの年金が減ってしまうかもしれません。市区町村の年金担当窓口に問い合わせるなどして、年金が時効により消滅することのないようにしましょう。
[出典]
日本年金機構「年金の時効」
厚生労働省「基礎編講義 時効・不服申立てほか(1) 国民年金法の消滅時効」
港区「国民年金の老齢基礎年金の受給手続き(裁定請求)について教えてください。」
執筆者:石井美和
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