アフターコロナ、不動産価格は一体どうなる?
ファイナンシャルフィールド / 2020年9月20日 9時10分
新型コロナウイルス感染症が拡大し、経済にさまざまな影響が出ています。
感染者数は少し落ち着いてきているものの、まだ収束までは見通すことができません。
以前に、短期的な不動産価格の見通しについての記事を書きましたが、今回は特にオフィスと住宅用地の不動産価格の動向について考えてみたいと思います。
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アフターコロナの世界は何が変わる?
新型コロナウイルスの感染拡大で、2020年4月7日には緊急事態宣言が発表され、多くの企業がなるべく出勤しないで済むような対応を強いられることとなりました。
テレワークの推進などを求められましたが、同時に日本のデジタル化(デジタル・トランスフォーメーション=DX)の遅れが表面化することとなりました。
DXは単にIT化するだけでなく、それに合わせた組織やビジネスモデルの変革が求められます。日本では独特の「ハンコ」や「紙至上主義」ともいえる文化や、FACE to FACEのコミュニケーション、一堂に顔をあわせて行う会議への過度なこだわりなどがDX推進の弊害となってきました。
新型コロナウイルスが拡大し、非常事態宣言が発表され、そのこだわりを捨てざるを得なくなった結果、変革が一気に進んだことは以前から指摘があった日本の「生産性の低さ」に改善につながる可能性が高く、「不幸中の幸い」ともいえるものです。
いまだ終息が見通せないコロナ禍ではあるものの、製薬会社各社が特効薬、ワクチンの開発を進めています。しばらくはコロナと共存する「ウィズコロナ」の時期が続くでしょうが、どのような形になるかはともかく、いずれは終息し、「アフターコロナ」と呼べる時期が来るでしょう。
しかし、コロナが終息しても完全に世の中がコロナ前の状況に戻ることはないでしょう。いろいろな仕組みが変わっていくことと思います。
不動産は利用してこそ価値のある資産。そのとき、社会はどうなっているのかを考え、経済の姿と不動産の利用のされ方を考えることこそが、アフターコロナの不動産価格を予測するうえで重要な要素になります。
オフィスの動向
新型コロナウイルスの感染拡大前、オフィスは通勤や営業拠点としての観点から、交通の便の良いところに立地する必要があると考えられてきました。オフィスには1人に1席、パソコンが1台あり、島型のレイアウトで1人あたりの執務スペースは確保しつつ、なるべく効率的に多くの席を確保するように考えることが一般的でした。
少し前からフリーアドレス、すなわち個人に決められたデスクがなく、複数の社員がデスクをシェアするスタイルを導入する企業が増え始めてはいたものの、紙ベースの資料が多い執務スタイルには向かないことから、あまり広くは普及してきませんでした。
今回のコロナの影響でテレワークが浸透し、紙の書類が減り、決済などもリモートで行える環境整備が進みました。基本は在宅勤務、出社が必要なときだけ使えるデスクがあればよいスタイルが増えていくでしょう。
感染拡大を防止するため「向かい側の席と正対することを避ける」「隣席との距離をとれるようにする」といったニーズが生まれ、結果として1人あたりの執務スペースは広がる可能性があるものの、同時に規模の大小はあるもののテレワーク導入は定着すると考えられます。
同時にオフィスで働く人の数が減り、さらに景気低迷の長期化懸念もあることから、オフィスのニーズは減少すると予想されます。
すでに中小企業やスタートアップ企業など比較的小さな規模のオフィスを構えていた企業は、オフィスの解約や縮小に動き始めているようです。大きな会社も徐々にそのような状況に移行していくでしょう。
東京駅周辺では、大型オフィスを含めた大規模再開発計画などもありますが、今後見直しを迫られるケースも出るでしょう。それでも、グローバル化が進む中で東京というビジネスの中心地のステータスはある程度保たれるはずです。
東京駅周辺の地価を例にとると、2008年のリーマンショックを機に下がり始めた地価は2013年までに約30%下落しましたが、アベノミクスのスタート以降持ち直し、今年1月時点のまでで2008年度とほぼ同等まで回復していました。
今後はオフィスの空室率が上がり、賃料は下落、地価も再び下落に転じると考えられますが、5年10年という中長期的で考えればある程度持ち直すでしょう。
住宅地の動向
新型コロナの影響で、在宅で仕事をする人が増えることは、住宅の市況にも少なからず影響を与えると考えられます。まず、アフターコロナにおける自宅のあり方を考えます。
通勤の機会が減り、在宅勤務が増えることで、自宅にはオフィスまでの距離、通勤時間よりも、住環境や自宅での執務環境を考慮するケースが増えると考えられます。
もともと人口減少が進むことが明らかな日本の状況下で、すでに空き家率も上昇していることから、今後多くの住宅地の価格は下落する可能性が高いと考えられていました。
特にマンションの価格は新築、中古とも2013年以降大幅に上がり、国土交通省が出している東京の不動産価格指数は2013年比で約1.5倍になっています。一戸建て、あるいは住宅地の価格が1.1倍程度であることを考えればその乖離(かいり)は歴然です。
マンションは単に価格が上がっただけでなく、この期間中に1戸あたりも面積を小さくすることで、見かけ上の1戸あたりの価格の上昇幅は抑えられてきました。
しかし、自宅で仕事をするようになると、住戸が小さく執務スペースが確保できないことは大きな問題です。夫婦ともに在宅勤務であったり、子供がいたりすると集中して仕事をすることは困難でしょう。通勤の利便性よりも個室や面積を優先したいというニーズが高まれば、買い替えを検討する人も出てくると考えられます。
一方で、景気が低迷すれば収入が減少し、住宅ローンの返済が困難になる人も出てくるでしょう。
今後、特に価格が上がった都内のマンション価格は、すでに一般のサラリーマンなどには手が届かない価格にまで達しており、これ以上の価格上昇の余地は小さいと言わざるを得ない状況です。このため、今後は新築、中古とも下落に転じる可能性が高いと考えられます。
新築でこの5年程度のうちにマンションを購入した人は、価格下落の傾向が顕著になると、多くが物件価格よりもローンの残債のほうが多い「債務超過状態」になると考えられます。そのため、売却する場合には追加で資金を拠出し、なおかつ新しい物件の購入資金も必要になることから、事実上買い替えは困難という人も少なくないと考えられます。
こうした場合には、広めのリビングがあるような住戸では、その一角に小さな書斎を作るなどという対応も考えられ、そうした提案を行うリフォーム業者も増えてきています。
戸建住宅ではマンションほどの価格上昇はありませんでしたので、価格変動も比較的小さいと考えられます。また、マンションに比べ自由に間取り変更ができるケースが多いでしょう。ただし、住宅はマンションだけでなく一戸建てでも一度人が住めば中古。
売却する場合には、借入額よりも売却額のほうが小さくなるケースが多いはずです。パワービルダー系のような、低価格で戸建てを供給するハウスメーカーが施工した住戸では1つひとつの居室面積が小さいケースもあり、執務スペースを確保するためのリフォームの余地も少なく、マンションと同じような悩みが出てくる可能性もありそうです。
住宅の価格は、マンションは大幅に価格が下がる可能性がある一方、戸建住宅は場所によってまちまちの変化になると予想されます。長期的には人口減少の影響もあり、多くのところで価格は下落すると考えられます。
まとめ
中長期的な住宅地の不動産価格は、新型コロナの感染が拡大する前から一部の地域を除いて横ばい、あるいは下落に向かうと予測されていました。これは人口減少と都市圏への人口集中がよりいっそう進むという予測に基づくものです。また、特にマンションについては、すでに価格の高騰が顕在化しており、そろそろ頭打ちと考えられていました。
そこへ、今回の新型コロナウイルスの感染拡大で経済がダメージを受けました。一部の業種では、むしろこの変化を追い風にしているところもありますが、不動産は物流施設用地など一部を除いて厳しい状況が継続することが懸念されます。
企業業績への影響が今後顕在化することや、景気低迷の長期化も懸念され、ひいてはそこで働く従業員の所得への影響も広がりかねません。不動産価格も、想定していた以上に下落する可能性があります。
一方で、テレワーク推進などにより、これまで遅々として進まなかったDX対応が劇的に進み、働く人たちの行動にも大きな影響を与えました。
オフィスに対するニーズは今後急速に変化するでしょう。生産性の向上につながれば中長期的な景気回復に向けた礎を築く時期に入るとも考えられ、不動産価格も中長期的には徐々に回復に向かうでしょう。
(参照)国土交通省「不動産価格指数」
執筆者:西山広高
ファイナンシャル・プランナー、宅地建物取引士、西山ライフデザイン代表取締役
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