私が主役じゃないの? 「主語」を変えてみると理解しやすい用語とは
ファイナンシャルフィールド / 2021年1月18日 10時30分
コロナ禍による社会混乱は続いていますが、日経平均終値が約30年5ヶ月ぶりに2万8000円台を回復するなど経済の回復基調も見られます。とはいえ、低金利や一部マイナス金利が長期に常態化している状況です。
そんなこともあって、外貨預金などの外貨建て金融商品で資産運用をするケースも増えているようです。外貨での運用には円と外貨の交換(為替)がつきものですが、関連する用語でおやっと思ったことがありました。
円と外貨の為替レート
それは、円と外貨を交換する際の為替レートです。顧客(利用者)の視点でまとめると次のようになります。
<円を外貨に換えたいとき>
・外貨預金を始める場合など。(コロナ禍のもとでめっきり機会がなくなりましたが、海外旅行に出かける場合も同様です)
・為替レートは「TTS」と呼ばれます。
<外貨を円に換えたいとき>
・外貨預金が満期になって払い戻しする場合など。(海外旅行から戻ってきた場合も同様です)
・為替レートは「TTB」と呼ばれます。
「TTS」や「TTB」は、誰が主語なの
ところで、○×式テストで次のような設問があったらどうでしょうか。
(問題)
顧客が外貨預金の払い戻しをする際、外貨を円に替える場合に適用される為替レートは、預入金融機関が提示するTTBとTTSのうち、TTSである。
先述のまとめを見なければ、【私(顧客)が金融機関に外貨を「売る」(Sell)のだから「TTS」で、この問題は「○」だろう】と直感的に考えてしまわないでしょうか。
この2つの用語は、次のような意味です。
◇TTS(Telegraphic Transfer Selling Rate) = 対顧客電信売相場
◇TTB(Telegraphic Transfer Buying Rate)= 対顧客電信買相場
つまり、主語は「私(顧客)」ではなく「金融機関」なのです。実際には、例えば「TTS(日本円→外貨)、TTB(外貨→日本円)」や「TTS(当行の外貨売り)、TTB(当行の外貨買い)」といった具合に金融機関の店頭やサイトに表示されています。
こうした表示や説明があれば真逆に勘違いするケースはなさそうですが、誰が主語なのかで意味が逆転してしまう点は、ちょっぴり要注意かもしれません。
「借方」と「貸方」もそうです
ところで、誰が主語なのかについて、実は自分(私)ではない現象は、ほかにもあります。例えば、会社(企業)の財産状況をあらわす貸借対照表もそうでして、【図表1】のようなものです。
この表は、<その1>のほかに<その2>のような体裁になっている場合もあります。<その2>では表の上の左右に「借方」・「貸方」という表示がありますが、こちらも一見するとちょっとした違和感があるのです。
表の左側部分は資産(自分のモノやおカネ)なのに、「借」方。そして右側部分には借金やまだ支払っていないツケを意味する負債があるのに、「貸」方です。貸借対照表だけでなく、複式簿記の仕訳では必ず借方・貸方がこうした配置となります。
もともと海外で生まれた複式簿記では、左側は「debit」(デビット)、右側は「credit」(クレジット)と呼ばれていました。
買い物をすると預金残高の範囲内ですぐに預金(資産)から決済される「デビットカード」と、預金残高に関係なくとりあえずツケ(負債)で買い物ができて後日決められた日に預金から引き落として決済する「クレジットカード」。まさに、両者の違いそのものです。
これがどうして、逆のイメージもある日本語に翻訳されたのか。それは先述の外国為替レートの例と同じこと。つまり、複式簿記の仕訳や貸借対照表でも、主語は「私」ではなくて取引相手方の「彼ら」なのです。
そう考えると、次のようにスッと理解できるような気がします。
◇私は、私のモノやおカネを相手方に預けている
⇒ 相手方から見ると「借りて」いる状態
⇒ 資産項目は、「借方」
◇私は、相手方のモノやおカネを借り受けている
⇒ 相手方から見ると「貸して」いる状態
⇒ 負債項目は、「貸方」
まとめ
実は、「借方」・「貸方」の日本語に翻訳したのは福沢諭吉です。今年2021年2月3日には没後120年を迎え、2代続いた1万円札の肖像は2024年上半期をめどに渋沢栄一に交代しますが、複式簿記など会計の世界にも大きな足跡を残していることを改めて認識させられます。
違った角度から見たり発想を変えたりすると、ものごとが意外に進展したり解決したりする場合があります。
同じように、視点や主語を「私」ではなく「相手方」に変えてみると、何か得るものがあったり局面が良い方に向かったり。そんなことが期待できるかもしれませんね。
執筆者:上野慎一
AFP認定者,宅地建物取引士
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