「年金、後から払うのはもったいない…」追納しないことがもたらす、残念すぎる結果
Finasee / 2021年12月22日 11時0分
Finasee(フィナシー)
相談者のプロフィールとお金データ
【富山裕子さん(仮名)プロフィール】
・年齢:37歳
・都道府県:東京都
・家族構成:都内で一人暮らし
・職業:会社員(IT系)
【寄せられたお悩み】
「もう10年近く前のことです。勤めていた会社での無理がたたって、体を壊して退職しました。その際、“保険料免除制度 ”なるものを知り、半年の静養期間と社会復帰としてアルバイトをした1年は申請を行って全額免除でした(そして、その後社員として、就職しました)。
年金保険料納付の全額免除を受けた1年半は私の老後に影を落とすのでしょうか? 多分、全額免除された分はまだ10年経ってないので追納できそうですが、追納はしたほうがいいのか、はたまた、追納したらそこそこキャッシュが出ていくので(押し入れから出てきた通知によると30万円近く!)、追納はしないで、むしろそのお金でさらに貯蓄&投資(個別株や投信)を頑張って手元でお金を貯めるべきか、迷っています。
退職により 20代で一度貯金を使い果たし、資産額が人より低いことに、内心コンプレックスがあります」
【お悩みの論点】
①約10年前の18ヶ月分の全額免除…このまま手を打たないのはまずいのか?
②逆に追納しないで、手元の資産運用(投信や株)を頑張ったほうが得策だったりするか?
・大学時代(20歳以降の期間は27カ月)~2012年6月:年金を納めていた
・29歳頃の2012年7月~2013年12月の18カ月):申請免除により、保険料は全額免除 ※追納はしていない
↓
その後、就職し厚生年金に加入。今に続く。
金融資産額:340万円
内訳
預金:120万円
投資信託:90万円(つみたてNISAにて、S&P500インデックス投信を運用)
個別株:130万円(日本株、米国株計13銘柄ほど)
収支内訳
収支
<収入>
・毎月の手取り収入: 32万円
・手取りの年収:450万円
・毎月の支出:32万円
<支出内訳>
住居費10万円、水道光熱費1万円、食費3万円、交通費1万円、通信費1万円、趣味2万円、交際費1万円、貯金5万円、つみたてNISA3万3333円、その他(主に服飾費や化粧品など)4万円
過去、免除を受けた国民年金保険料を納めるか迷っていらっしゃる富山さん。将来の公的年金の受給への影響も気になるとのこと。今回は保険料の追納の意味、公的年金の役割、貯蓄や投資との違いについて解説できればと思います。
保険料の免除と追納制度とは何かかつて退職後に国民年金保険料の全額免除を受けていたとのこと。全額免除となった期間は、将来の老齢基礎年金の受給額について、納付した場合の2分の1が反映されます。
そのため、20歳以上60歳未満(480月)のうち、全額免除18か月を除いた462月について保険料納付(国民年金・厚生年金)があった場合、老齢基礎年金は76万6258円(78万900円×(462月+18月×1/2)/480月)になり、免除申請をせず未納だった場合の75万1616円(78万900円×462月/480月)と比べれば、受給額も多くなります(いずれも2021年度の額で計算)。18カ月分を全く払っていなくても2分の1の年金が保障されるため、その点は安心できます。しかし、満額78万900円(78万900円×480月/480月)より1万4642円少なくなるのも事実です。
国民年金保険料の免除を受けた場合、10年以内であれば保険料を追納することができ、追納すれば「保険料納付済期間」と扱われます。18カ月分追納すると受給額は残り1万4642円増え、満額で受け取ることも可能です。しかし、10年を過ぎると過去の免除期間の保険料は納められなくなります。
50代になった時、年金や退職後への不安が大きくなる可能性が現行制度上、20歳以上60歳未満の間に免除・猶予期間、未納期間があると、60歳以降にその穴埋めをすることが可能となっており、厚生年金加入中でない場合、最大65歳まで国民年金に「任意加入」して国民年金保険料を納め、老齢基礎年金を増やすことができます(厚生年金加入による増額については後述)。
リタイアが見えてくる50代になると、年金のことが本格的に気になる方も多いのですが、20代の頃の追納していない保険料は50代になってからではもう納めることができません。一方、その過去の足りない分についての任意加入による納付は60歳になるまではできず、それまでの間、足りない期間があることに対しモヤモヤし続けることになるかもしれません。また、足りない分を納める場合、60歳を迎えて以降の保険料額で納めることになります。60歳になる20数年後、保険料がいくらになっているかもわかりません(現在より上がる可能性も十分あります)。
年金は原則として保険の仕組みを採っていますが、「保険は安心を買うもの」とも言われます。追納して早めに免除期間から納付済期間にしておけば、後になってから、過去の足りない期間の存在が気にならなくなり、満額より少ないことへの不安もなくなるでしょう。そういった意味でも追納制度で保険料を納付することは保険となりえます。
安心を買うつもりで追納を!追納すれば、18カ月分・30万円弱の保険料で老齢基礎年金は1万4642円が増えます。長寿国日本で何歳まで生きるかわからない中、老後の備えとしての貯蓄や投資で増やした資産には限りがあり、企業年金等も有期年金であることが多いですが、公的年金は生涯にわたって受給できるものです。受給額の増額分は1年あたりでは1万4642円でも、90歳まで生きれば65歳から90歳までの25年間、36万円以上の年金が増額することになります。特に女性は男性より長生きします。医学の進歩もあって、さらに長生きした場合でも終身の保障として安心できるでしょう。
また、60歳までに老齢基礎年金を満額にしておけば、60歳になってから「もっと年金を増やしたい!」と思った時に増やすこともできます。60歳時点で老齢基礎年金が満額の場合や60歳以降厚生年金に加入した場合は国民年金の任意加入はできませんが、60歳以降働き続けて厚生年金に加入すると、60歳前と異なって老齢基礎年金は増やせない代わりに、老齢基礎年金に相当する経過的加算額※を増やすことができます。
※経過的加算額(2021年度)=A-B
A:1628円×厚生年金加入月数(上限480)
B:78万900円×20歳以上60歳未満の厚生年金加入月数/480
●厚生年金加入によって増える年金の種類
筆者作成60歳以降の厚生年金加入でAが増え、Bは増えないことにより、経過的加算額が増額する仕組みです。ただ、追納していなかった場合は、最初の9か月(18か月×1/2)分の経過的加算額1万4652円(1628円×9月)は足りない分の老齢基礎年金(1万4642円)の穴埋めという形になります。もちろん、これでも年金は増えてはいますが、もし18カ月分が追納済であれば、60歳時点で老齢基礎年金は既に満額で、穴埋めも終了していることになり、60歳以降の厚生年金加入で最初から穴埋め分を超えた年金を増やすことができます。
経過的加算額は厚生年金加入が合計480月に達するまで増額できます。富山さんがこのまま60歳まで会社員として勤務した場合、60歳当時の厚生年金加入期間は435月(480月から免除を受けた18月と学生期間27カ月を除いた期間)ですので、45月の厚生年金加入分まで経過的加算額を増やすことができます。
なお、厚生年金加入により報酬比例部分の老齢厚生年金も増えます(2階建ての2階部分。480月の上限はなし)。60歳以降も働く時代、厚生年金に加入する機会も増え、結果的により多く年金を増やせるでしょう。
公的年金をベースに投資は余剰資金で10年以内にできる追納ですが、後の年度に追納するほど当時の保険料と比べ納付額が多くなります。年度が変わると追納額がまた増額されることになります。負担にならなければ、18カ月分全てについて、たとえ一括でなくても、2021年度中に納付できれば理想と考えられます。
そして、株式や投資信託への投資については、運用が上手くいけばプラスになりますが、上手くいかないとマイナスになります。もし、追納せず、その資金を投資に回したとして、運用が上手くいかず元本割れすると、年金も増えず、投資による資産も増えないことになります。
そうなると、将来についてますます不安を抱えてしまうことになります。追納すると一時的に貯蓄が減るかもしれませんが、老後に備えることが目的であれば、まずは老後資金のベースとなる公的年金を増やせるだけ増やし、その上で、さらに貯蓄と投資で資産を増やすのがベストと考えられます。
なお、追納するとその保険料は社会保険料控除の対象となり、節税もできます。その年の年末調整で控除の手続きもお忘れなく!
五十嵐 義典/ファイナンシャルプランナー
よこはまライフプランニング代表取締役、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP®認定者、特定社会保険労務士、日本年金学会会員、服部年金企画講師。専門分野は公的年金で、これまで5500件を超える年金相談業務を経験。また、年金事務担当者・社労士・FP向けの教育研修や、ウェブメディア・専門誌での記事執筆を行い、新聞、雑誌への取材協力も多数ある。横浜市を中心に首都圏で活動中。※2024年7月までは井内義典(いのうち よしのり)名義で活動。
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