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“働き損”改善へ! 60代前半働いても「年金が減りにくく」計算ルールが変わる!

Finasee / 2022年3月9日 17時0分

“働き損”改善へ! 60代前半働いても「年金が減りにくく」計算ルールが変わる!

Finasee(フィナシー)

60歳以降、働きながら老齢厚生年金を受給すること、そして収入額次第で年金のカット(支給停止)があることを「在職老齢年金(制度)」と呼びます。

年金の支給開始年齢は段階的に引き上げられていますが、生年月日によっては60歳台前半で老齢厚生年金(特別支給の老齢厚生年金)を受給することができます。

この「特別支給の老齢厚生年金」を受給できる人も働いていると年金がカットされることがありますが、その支給停止の基準額が改正されることになり、今までより受給額が多くなる場合があります。

現行制度上は厳しい「28万円基準」で年金がカットされる

特別支給の老齢厚生年金を受けられる人が、働くことで引き続き厚生年金被保険者となると、給与や賞与の額によっては年金が支給停止となって、受給できなくなることがあります。「厚生年金に加入していること」が大前提ですので、厚生年金に加入していない人(例えば自営業者など)は、どれだけ収入が多くてもその対象とならず、年金は全額受け取れます。

厚生年金被保険者となった場合に、支給停止のための基準額があります。現行制度上、(1)年金の月額と(2)給与の月額(標準報酬月額)と(3)直近1年の賞与(標準賞与額)の12分の1を合計して28万円を超えた場合に、その超えた分の2分の1の年金がカットされる仕組みです。「28万円基準」で計算され、合計28万円以下であれば、年金はカットされない計算となります。

現行:60歳台前半の在職老齢年金制度(年金の支給停止月額の計算式)

年金の支給停止の前提条件:
・(1)年金の月額、(2)給与の月額(標準報酬月額)、(3)直近1年の賞与(標準賞与額)の1/12、の合計が28万円超
・(1)(2)(3)の合計が28万円を超える場合、下記のABCDのうちで該当するものの計算式を用いて支給停止月額を計算
・(1)(2)(3)の合計が28万円以下の場合は支給停止はなし(年金は全額支給)

計算式

A:(1)が28万円以下・(2)+(3)が47万円以下
年金の支給停止月額=((1)+(2)+(3)-28万円)×1/2

B:(1)が28万円超・(2)+(3)が47万円以下
年金の支給停止月額=((2)+(3))×1/2

C:(1)が28万円以下・(2)+(3)が47万円超
年金の支給停止月額=(47万円+(1)-28万円)×1/2+((2)+(3)-47万円)

D:(1)が28万円超・(2)+(3)が47万円超
年金の支給停止月額=(47万円×1/2)+((2)+(3)-47万円)


※ (1)を基本月額、(2)+(3)を総報酬月額相当額と言います。

現行のルールを理解するためにも、(1)特別支給の老齢厚生年金が月に11万円、(2)給与が41万円、(3)賞与はなしという例で実際に計算してみましょう。

この方の場合、(1)(2)(3)の合計が52万円ですので、基準額28万円を超え、支給停止の対象となります。そして、上記Aの計算式(11万円+41万円+0円-28万円)×1/2で計算することになり、停止額が12万円と計算されます。停止額12万円は年金額11万円をすでに超えていますので、この場合、全額支給停止となります。会社からの給与が年間492万円(41万円×12カ月)くらいとなる中、年金は1円も受け取れないことになります。

2022年4月から「47万円基準」に

「年金制度改正法」で、この28万円基準が緩和されます。

2022年4月より基準額が47万円に変わり、(1)(2)(3)の合計で47万円を超えた場合、その超えた部分の2分の1がカットされることになります。これは65歳以上の在職老齢年金制度の基準額と同じ基準額となります(65歳以上の基準額については改正なし)。合計が47万円を超えなければ、在職老齢年金制度による支給停止はありません。

改正後:60歳台前半の在職老齢年金制度(年金の支給停止月額の計算式)

年金の支給停止の前提条件:
・(1)年金の月額、(2)給与の月額(標準報酬月額)、(3)直近1年の賞与(標準賞与額)の1/12の合計が
47万円超
・(1)(2)(3)の合計が47万円を超える場合は下記計算式で支給停止月額を計算
・(1)(2)(3)の合計が47万円以下の場合は支給停止はなし(年金は全額支給)

計算式
年金の支給停止月額=((1)+(2)+(3)-47万円)×1/2


※ (1)を基本月額、(2)+(3)を総報酬月額相当額と言います。
※ 65歳以降の在職老齢年金制度も同様の計算方法です((1)は老齢厚生年金の報酬比例部分が対象)。

先ほどの計算例に登場した条件で再び計算してみましょう。

(1)が11万円、(2)が41万円、(3)が0円で合計52万円となれば、47万円を超えるのは5万円ですので、その2分の1の2万5000円がカットされる計算となります。28万円基準では11万円の年金全額がカットされていたのが、47万円基準では2万5000円のカットとなり、残り8万5000円は支給されることになります。改正後は給与41万円を受け取りながら、8万5000円(11万-2万5000円)の年金が支給される計算となります。年金の多くが受け取れる結果、月の合計収入で49万5000円、年収で換算すると合計594万円(49万5000円×12カ月)となります。

働く女性に朗報!改正の恩恵は女性に多い?

年金の支給開始年齢は60歳から65歳へ引き上げ途上で、女性(共済期間の年金は除く)は男性より5年遅れで引き上げが行われています。女性で1960年4月2日~1962年4月1日生まれの人は62歳から年金を受けることができますが、改正が施行される2022年4月以降に62歳を迎えるため、在職中の場合、62歳から65歳までの3年間その47万円基準の恩恵を受けることもできます。

一方、男性は支給開始年齢が63歳から64歳になろうとしつつあります。1957年4月2日~1959年4月1日生まれの場合は63歳、1959年4月2日~1961年4月1日生まれの場合は64歳となります。1959年3月生まれ・2022年3月に63歳になる人であれば、63歳から65歳になるまで2年間恩恵を受けられますが、それでも2年間にとどまり、さらに、その後の1959年4月2日生まれの人となると、支給開始年齢が64歳ですので、64歳から65歳までの1年間のみとなります。

従って、働く女性が改正によって恩恵を受けやすいと言えるでしょう。

年金を受け取るために給与を下げるのは得策?

以上のように、28万円基準から47万円基準に変わるとはいえ、在職中は給与次第で年金はカットされてしまいます。長い間厚生年金に加入し厚生年金保険料が給与や賞与から差し引かれ続けたのに、年金がカットされるとなると、それが嫌で、「年金を受けるために給与を下げよう」と考える方もいるかもしれません。

しかし、28万円基準でも47万円基準でも、カットされる年金は基準額を超えた分の2分の1です。そうなると、年金はカットされていても、それ以上に給与収入があることになり、給与+年金のトータルの年収で考えると結局カット分を差し引いても、働いた方が多くなります。もし、カットされている5万円の年金を受け取るようにするためには給与を10万円下げなければならない計算となるでしょう。

給与が高いと、在職老齢年金停止の対象となるだけでなく、その分毎月の給与から控除される厚生年金保険料も高くなりますが、その掛けた分はその後の年金額の再計算によって、受給額として反映され、増額することになります。特別支給の老齢厚生年金は65歳になると受給が終わりますが、65歳からの老齢厚生年金は、老齢基礎年金とともに生涯受給することができます。多くの場合、退職後の人生が20年30年と続くと想定しなくてはならない「人生100年時代」――働ける時に保険料を掛けて増額させておくのが安心と考える方が妥当でしょう。

今回は在職老齢年金制度基準額の改正について解説しましたが、特別支給の老齢厚生年金については、雇用保険の「高年齢雇用継続給付」の受給による調整も引き続きあります。また、47万円基準への改正に合わせ、自身に20年以上の厚生年金加入期間があって当該年金の受給権がある場合、その受給額に関わらず配偶者(65歳以上)に加算される加給年金が加算されなくなります(ただし経過措置あり)。

このように年金の調整の仕組みは複雑ですが、どういった条件に当てはまると年金がカットされてしまうか、カットされた場合の年収がいくらになるかなどを把握し、現在あるいは将来のベストな働き方と年金受給ができると良いですね。

五十嵐 義典/ファイナンシャルプランナー

よこはまライフプランニング代表取締役、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP®認定者、特定社会保険労務士、日本年金学会会員、服部年金企画講師。専門分野は公的年金で、これまで5500件を超える年金相談業務を経験。また、年金事務担当者・社労士・FP向けの教育研修や、ウェブメディア・専門誌での記事執筆を行い、新聞、雑誌への取材協力も多数ある。横浜市を中心に首都圏で活動中。※2024年7月までは井内義典(いのうち よしのり)名義で活動。

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