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おひとりさま高齢者は必要な医療が受けられない? 衝撃リスクにどう向き合う

Finasee / 2022年3月4日 11時0分

おひとりさま高齢者は必要な医療が受けられない? 衝撃リスクにどう向き合う

Finasee(フィナシー)

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おひとりさまの介護問題とは

文蔵さんの不安はもっともで、実はこのまま何もせずにいると文蔵さんはかなり困った状況に陥りかねないのです。日本総合研究所が実施した調査(※1)から、いくつかのお困りポイントを挙げます。

困りごとに気付けない

高齢になれば、それまでできたことができなくなってきます。食事の用意は買い物、調理、後片付けを含む複雑な工程ですし、ゴミ捨ても分別や収集日といったルールを守りながら所定の場所まで運搬しなければなりません。思いの外、私たちの生活は込み入った手順で成り立っているのです。心身の機能が弱ってくると、こういう込み入った手順をこなすことが難しくなることがあります。

そして、何より問題を大きくするのが、問題自体に気付けないことです。マンション住民の例でもありましたが、自分がゴミ捨てをできなくなってきていることに気付けないでいるうちにいつしか家中にゴミが溜まってしまうことがあります。困っていることに気付けば何らかの手立てが打てるのですが、それが難しいと、周りが発見できるほど問題が大きくなってからの対処になってしまいます。

必要な医療処置を受けられないリスクがある

今回文蔵さんは大きな手術にはならなかったので大丈夫でしたが、もし入院し重大な処置を受けるとなった場合は、「身元引受人」「身元保証人」を求められていたでしょう。身近に署名をしてくれる人がいない場合は、医療費が未払いになるリスク、亡くなったときに引き取り手がないリスク、その人の医療処置への意向が不明確であるリスクなどのために、入院を断られてしまうことがあります。

医療行為への同意は文蔵さん本人のみの権利で、他の人が代わりに同意することはできませんが、実際には本人以外にも説明をして後々トラブルになるリスクを減らしたいという医療機関側の事情から、同意書に本人以外のサインを求められることが多くあります。

あらゆる手続きが難しい

実は高齢期にはたくさんの手続きが必要になります。例えば介護保険を利用する際には、申請の手続きをしなければなりませんし、ケアマネジャーを選ぶことも必要になります。入院治療を終えて退院するときには、入院費の支払いはもちろん、次にかかる病院の選択と受診、家に手すりを付けたりベッドを借りたりといった、大小の手続きが発生します。しかも、万全の体調ではない中、こういったことをこなさなければならないのです。

さらに自宅での生活が難しくなった場合、転居したり介護施設への入居を検討したりすることになりますが、これもまた自分一人で行うのは難しい選択です。そして、やはり身元保証人を求められることになるでしょう。

重大なことを相談・共有できる人がいない

高齢者心理学では、高齢期のテーマは「喪失とどう向き合うか」です。元気いっぱいな状態から急に死んでしまうのでない限り、私たちは高齢期になるとそれまで持っていたものを失っていきます。

その喪失の中で、喪失(例:食事を用意する能力の喪失)を埋めるための手続き(例:配食サービスの手配)をこなしていかなければならないのです。時には自分の命に関わる選択もしなければなりません。そのような大仕事に立ち向かう強さを持つためには、直接的に手伝ってくれる人がいることも大事ですが、気持ちを支えてくれる人がいることも同じくらい大事です。

おひとりさまの介護問題への対処

おひとりさまが介護で困らないようにするにはどうしたらいいのでしょうか。既に世の中にはたくさんの書籍が出ていますが、ここでもご紹介をしておきます。

最近は「終活」が1つのブームとなっています。ただ、実際に何をしているかというと、モノを減らすことやエンディングノートの購入にとどまる方が多いようです。

これまで書いてきたような困りごとを減らすためには、次のようなことが考えられます。

あらかじめ取れる手立てを早くから検討する

法律専門職に相談して、自分の判断能力が低下した際に、財産管理や身上監護(生活、治療、療養、介護などに関する法律行為を行う)をしてくれる後見人を決めておく「任意後見契約」を締結しておくのは強力な手立てといえます。また、死後に必要になる手続きを委任する「死後事務委任契約」も近年では増えています。さらに、これらの契約を組み合わせ、生活周りのサポートをすることで家族代わりのサービスを提供する「身元保証等高齢者サポート事業」も増えています。

あくまでこれらは当事者同士の契約ですから、費用や業務の範囲を明確にしておかないと、いざというときに期待していたようなサービスが受けられなかったり、思ったよりお金がかかってしまったりすることがあり得ます。だからこそ、早い段階から検討し、自分が何をしてほしいか、いくら支払えるのかを明確にして契約をする必要があります。

情報を人に伝わる形で残しておく

おひとりさまの高齢期の大きな課題は、自分のことを自分で伝えられなくなったときに、代わりに伝えてくれる人がいないことです。遺言やエンディングノートを書いていても、それが周りに見てもらえなければ意味がありません。また、先に挙げたような契約をしていても、その契約の存在が人に伝わらなければ、実行されずに終わってしまうこともあるでしょう。

遺言については法務局が預かる制度を開始しています(※2)。また、エンディングノートには、自分で自分のことを伝えられなくなったときに周りが必要とする情報項目が多数盛り込まれていますので、できるだけ最新の状況を書き込んでおき(半年に1回見直すなど)、冷蔵庫に置き場所を貼るなどして、発見してもらえるようにしましょう。

できるだけ人付き合いを絶やさない

高齢期は心身の状態が悪くなってそれまでの活動ができなくなったり、特に男性は配偶者を亡くすと途端に地域での人付き合いが途絶えてしまったりするなど、周りの人とのつながりを失ってしまいがちです。地域包括支援センターへの相談などで専門職とのつながりを作っておくのも大切ですが、地域の集まりに日頃から顔を出してみたり、興味のある活動に参加してみたりするなど、複数の人の輪に加わっておくとちょっとした助け合いができることにもつながります。

コロナ禍で高齢者の間でもデジタルデバイスの利用が進んでいますが、そういったものを積極的に活用し、できるだけ自分から外に向かって手を伸ばしていく心掛けが必要とされています。

●前半の記事>> 文蔵さんに降りかかった災難、ご近所の「騒動」で不安が…

※1 公的介護保険サービスにおける身元保証等に関する調査研究事業
※2 自筆証書遺言書保管制度

沢村 香苗/日本総合研究所 スペシャリスト

東京大学文学部卒業。同大学院医学系研究科健康科学・看護学専攻博士課程単位取得済み退学。研究機関勤務を経て、2014年に株式会社日本総合研究所に入社。研究・専門分野は高齢者心理学、消費者行動論で、「高齢者の身元保証人、身元保証等高齢者サポート事業に関する調査研究」など実績多数。著書に『自治体・地域で出来る!シニアのデジタル化が拓く豊かな未来』(学陽書房)。

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