【パート勤務の人必見】厚生年金の適用拡大! 「106万円の壁」を超えて働くのはトク? 損?
Finasee / 2022年3月16日 11時0分
Finasee(フィナシー)
厚生年金は正社員だけでなく、一定の条件を満たしたパート・アルバイト勤務の人も加入できます。2022年10月と2024年10月の段階的な改正によって、中小企業に勤務するパート・アルバイト勤務の人も厚生年金に加入しやすくなります。
※なお、本稿では厚生年金の適用拡大を中心に解説していきますが、厚生年金とセットで加入する健康保険も同様に適用範囲が広がります。
現在、パート・アルバイトで厚生年金に加入できるのは勤め先が大企業の場合がほとんど厚生年金は正社員だけを対象としたものではありません。フルタイムの4分の3以上の勤務日数と勤務時間であれば、アルバイト、パート勤務であっても加入できます。勤務時間について言えば週40時間がフルタイムであるとして、その4分の3となる週30時間以上勤務の人が対象となります。
ただし、4分の3未満であっても、
(1)従業員数501人以上の企業に勤務していること
(2)週20時間以上勤務していること
(3)1年以上雇用されると見込まれること
(4)賃金の月額が8万8000円(年額換算で106万円)以上であること
(5)学生でないこと
この全てを満たしている場合は加入対象となります。
ちなみに(4)の106万円という数字は、よく「106万円の壁」と呼ばれる数字の根拠にもなっています(この壁を意識して働くべきかどうかについては後述します)。
つまり、一定の大企業であれば、フルタイムの半分の週20時間以上勤務でも厚生年金に加入できます。逆に、ちょうど週20時間の勤務があっても、従業員数500人以下の企業の場合は労使の合意がなければ加入することができません。
改正によって中小企業にも段階的に拡大このように現在は、原則、一定規模の大企業でないと週20時間勤務では厚生年金にほぼ加入できません。しかし、年金制度改正によって、「週20時間勤務でも厚生年金に加入できる」勤務先が中小企業にも拡大されることになります。
改正は2段階に分けて行われます。
まず、2022年10月に(1)の企業の従業員数について「501人以上」から「101人以上」へ、(3)の「1年以上雇用されることが見込まれること」という要件が「2カ月を超える雇用が見込まれること」へ、それぞれ緩和されます。
さらに、2024年10月にはまた(1)の従業員数の要件が改正され、従業員数「101人以上」から「51人以上」の企業が対象になります。
●被用者保険(厚生年金・健康保険)の適用拡大
勤務日数・勤務時間が4分の3未満の場合は(1)~(5)を全て満たした人が対象
※2 2017年4月以降は、労使合意のある500人以下の企業や、事業所の規模に関係なく国・地方公共団体の事業所も対象。
“士業”の個人事務所にも改正の波が…
また、こうした厚生年金(及び健康保険)の対象事業所も改正で増えます。現在、弁護士、税理士など士業の事務所について、法人の事務所では、上記要件を満たした従業員が加入対象となるのに対し、個人の事務所の場合では、たとえフルタイムの4分の3以上の勤務日数・勤務時間の従業員であっても原則加入対象外です。
しかし、2022年10月より、従業員数5人以上の個人の事務所(弁護士、税理士、社会保険労務士など合計10種の事務所)についても対象事業所(強制適用事業所)となり、従業員自身が勤務時間等の要件を満たせば加入できるようになります。
厚生年金に加入すると将来の年金はどの程度増えるのか?このように段階的な適用拡大によって、厚生年金に加入する機会がますます増えます。たとえ週20時間の勤務でも、厚生年金保険料の負担が生じますが、その分将来の年金も厚くなり、国民年金制度の老齢基礎年金だけでなく、厚生年金保険制度の老齢厚生年金の受給額も増えることにつながります。
国民年金第1号被保険者から厚生年金被保険者となった場合国民年金第1号被保険者(任意加入被保険者も含む)が払う国民年金保険料の場合は月額1万6590円(2022年度)と定額ですが、厚生年金被保険者の厚生年金保険料は会社からの給与や賞与の額に応じて決まり、給与からの保険料は「標準報酬月額×保険料率」、賞与からの保険料は「標準賞与額×保険料率」で計算されます。週20時間勤務で、もし、月給11万円の場合、11万円(標準報酬月額)×18.3%(保険料率)×1/2(被保険者負担分)で、月額1万65円の保険料負担となります。
しかし、国民年金保険料を納付した場合は老齢基礎年金だけが増えるのに対し、厚生年金被保険者となって厚生年金保険料を払った場合であれば、同じように老齢基礎年金(あるいはそれに相当する経過的加算額)が増えるだけでなく、老齢厚生年金(報酬比例部分)も増えることになります。5年間の国民年金保険料納付では老齢基礎年金が年額9万7000円強増えるのみであるのに対し、標準報酬月額11万円で5年間厚生年金に加入すると、老齢基礎年金と老齢厚生年金(報酬比例部分)を合計して年額13万円以上増えることになるでしょう。
国民年金第3号被保険者から厚生年金被保険者となった場合一方、国民年金第3号被保険者として扶養の範囲内で働いていた人が厚生年金に加入すると、それまでと違い、自ら年金の保険料を払うことになります。もし、5年間、第3号被保険者から標準報酬月額11万円での厚生年金被保険者に変わると、保険料は0円から月額1万65円となり、受給額の増額分も先ほどと同様に9万7000円(老齢基礎年金)から13万円(老齢基礎年金+老齢厚生年金(報酬比例部分))に変わります。
冒頭でも少し触れましたが、社会保険料負担の有無についての年収基準額を示す「106万円の壁」という言葉もあり、その壁を超えないようにパートやアルバイトを調整されている方もいると思います。確かに、厚生年金に加入すると保険料が天引きされ、月々の手取りが減ることもあります。しかし、2階建ての老齢基礎年金・老齢厚生年金は65歳から一生涯受給できます。つまり、今の手取りを優先し106万円の壁を超えないように働くよりも、長生きすることに備え、2階建てでこれら老齢年金を増やしておくと、長い目で見た安心を手に入れられるとも言えるのです。
老齢年金以外の給付も厚くなる!年金は老齢年金だけではありません。病気やケガによって障害が残った場合の障害年金もあります。そのうち、国民年金制度の障害基礎年金は障害等級1級か2級の障害を対象とし、一方、厚生年金保険制度の障害厚生年金は1級・2級より軽い3級の障害も対象としています。障害厚生年金を受給するためには厚生年金被保険者である時に、障害の原因となる病気やケガの初診日があることが条件となりますが、厚生年金に加入することで、3級の障害でも障害厚生年金を受給でき、1級・2級に該当すると、障害基礎年金と障害厚生年金の2階建てで受給できるようになります。
厚生年金への加入により、万が一死亡した場合に遺族へ遺族厚生年金が支給されることもあります。国民年金のみの加入では、遺族基礎年金制度しかないため、厚生年金加入によって死亡時の遺族への保障も厚くなるでしょう。このように厚生年金の加入によって、未加入の場合より将来、あるいはいざという時の保障が厚くなります。
また、本稿では健康保険にはあまり触れませんでしたが、厚生年金と同時に健康保険に加入できるようになることで、病気やケガをした際の傷病手当金などが受けられる可能性があり、いざという時の保障がますます厚くなります。
これから行われる2段階での適用拡大によって、より多くの人がその対象となるでしょう。目先の「壁」にとらわれず、多様な保障も理解しておくことが必要です。
五十嵐 義典/ファイナンシャルプランナー
よこはまライフプランニング代表取締役、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP®認定者、特定社会保険労務士、日本年金学会会員、服部年金企画講師。専門分野は公的年金で、これまで5500件を超える年金相談業務を経験。また、年金事務担当者・社労士・FP向けの教育研修や、ウェブメディア・専門誌での記事執筆を行い、新聞、雑誌への取材協力も多数ある。横浜市を中心に首都圏で活動中。※2024年7月までは井内義典(いのうち よしのり)名義で活動。
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