大企業・東芝の致命的ミス…買収で巨額損失、苦渋の撤退はなぜ起きた
Finasee / 2023年3月29日 12時0分
Finasee(フィナシー)
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投資の前にきちんと銘柄を調べていますか? もし調べていない場合「東芝」のように大失敗してしまうかもしれません。東芝の子会社「ウェスチングハウス」は買収した企業の価値を見誤ったために破綻し、東芝本体にも非常に大きなダメージを残しました。
3月29日はウェスチングハウスが破綻した日です。この事件は東芝に半導体事業の売却を迫るほどのインパクトを与えました。東芝に何が起こったのか確認しましょう。
およそ1兆円の最終赤字を計上ウェスチングハウスは原子力発電に関連するサービスを提供する企業で2006年10月に東芝のグループ子会社となりました。1万2000人もの従業員がいましたが、2017年3月29日に破綻しました。
直接の原因は破綻のおよそ1年前に買収したストーン・アンド・ウェブスター社です。のれん(※)は当初約105億円と見積もっていましたが、買収後に数千億円に上ることが判明しました。
※のれん:買収金額-買収企業の純資産。買収側が支払う実質的なコスト。例えば100億円で買収する場合、純資産70億円の企業ならのれんは30億円、純資産10億円なら90億円となる。
ストーン・アンド・ウェブスターは原子力発電所の建設を手掛ける企業でした。安全意識の高まりなどから原子力発電所の建設コストは上昇傾向にあり、ストーン・アンド・ウェブスターは膨らむ建設費を吸収できず純資産を大きく減らしたとみられます。ウェスチングハウスは買収前にこの事実に気付けず、巨額損失が確定的となってしまいました。
東芝はそれ以上の損失を回避するためウェスチングハウスの破綻を選びます。関連する損失は1兆2000億円を超え、東芝の2017年3月期最終損益は9656.63億円の赤字となりました。
【ウェスチングハウスを巡る経緯】
2006年10月:東芝がウェスチングハウス(以下WH社)を買収
2015年10月:WH社がストーン・アンド・ウェブスター(以下S&W社)の子会社化を決定
2015年12月:WH社がS&W社を買収
2016年4月:WH社で2600億円の減損
2016年12月:S&W社で数千億円の減損の可能性が浮上
2017年3月:WH社破産
ウェスチングハウスの破綻を受け東芝の財務は急激に悪化します。改善のため施策をいくつか打ち出しますが、そのうちの1つが半導体事業の売却でした。東芝の主要な収益源でしたが分社化し、2018年6月に一部売却しています。当初の社名は東芝メモリでしたが2019年10月に「キオクシア」に変更されました。
キオクシアは東芝時代の1987年、世界で初めてNAND型フラッシュメモリを発明しました。電源を落としても記録データが消えない特性があり、パソコンやデジタルカメラといった多くの電化製品に使用されています。
その後も2007年に3次元フラッシュメモリ、2014年に15ナノメートルフラッシュメモリといった世界初の技術を開発しました。キオクシアのフラッシュメモリシェアは高く2020年は出荷額世界2位に位置しています。
売上高は2021年3月期で1兆1785億円。これは大手半導体メーカーの「村田製作所」(同1兆6301.93億円)や「ローム」(同3598.88億円)に匹敵する数値です。キオクシアは日本有数の半導体メーカーといえるでしょう。
東芝は現在キオクシアホールディングス(キオクシアの親会社)の40.64%の株式を保有していますが将来的に現金化する見込みです。売却か上場のいずれになるか不透明ですが、利益は原則全額を株主還元に充てるとしています。
大企業を悩ませる「コングロマリット・ディスカウント」東芝は家電製品のイメージが強いかもしれません。しかし実はエネルギーやビル設備、インフラといった業種の異なる多くの企業をグループに持っています。このように複数の産業を持つ企業グループを「コングロマリット」といい、大企業でよく見られる企業形態です。
しかし2021年11月、東芝は複数の事業を「インフラサービス」「デバイス」「東芝(資産管理会社)」の3社に分け、それぞれ独立した企業として再編すると発表しました(2022年2月には2分割案に修正)。背景には「コングロマリット・ディスカウント」があると考えられています。
コングロマリット・ディスカウントとはコングロマリット企業が過小評価される現象をいいます。例えば10億円の価値がある事業を5つ抱えるコングロマリット企業は50億円の価値があると評価されるべきですが、コングロマリット・ディスカウントが起こると50億円未満の価値しか認められません。
コングロマリット・ディスカウントは企業全体の分かりにくさが原因の1つと考えられています。各事業は評価しやすいものの、それらを組み合わせた相乗効果の評価が難しくコングロマリット企業が過小評価されやすいのです。
東芝は事業ごとに分割することで分かりにくさを緩和し、コングロマリット・ディスカウントの解消を目指しているのかもしれません。
執筆/若山卓也(わかやまFPサービス)
証券会社で個人向け営業を経験し、その後ファイナンシャルプランナーとして独立。金融商品仲介業(IFA)および保険募集人に登録し、金融商品の販売も行う。2017年から金融系ライターとして活動。AFP、証券外務員一種、プライベートバンキング・コーディネーター。
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