この10年で給与は上がった? 政府・日銀が絶対に「失敗」認めぬ理由
Finasee / 2023年4月4日 12時0分
Finasee(フィナシー)
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日銀の黒田東彦(くろだ・はるひこ)総裁の任期があと4日と迫ってきました。「異次元緩和」を掲げ、2%のインフレ(物価上昇)を目指し10年にわたって行われた政策は今後も維持されていく見通しです。
そもそも日本銀行はどうしてインフレを目指すのでしょうか? 今日は「日本銀行が異次元緩和を導入した経緯」と「日本銀行がインフレを目指す理由」について確認しましょう。
中央銀行が株式を年間1兆円買う異例の対応黒田氏は2013年3月に日本銀行の総裁に就任します。翌4月4日に量的・質的金融緩和、いわゆる「異次元緩和」の導入を発表し市場の注目を集めました。
異次元緩和の目玉はETF(※)の買い入れペース拡大です。日本銀行は経済や物価にプラスの影響を与える目的で2010年12月からETFを買い入れていますが、黒田総裁は保有残高が年間1兆円増えるペースでETFを買い入れると発表します。市場は「日本銀行は株価を買い支える」というメッセージとして受け取り、日経平均はバーナンキショック(※)直前の5月22日まで26%以上上昇しました。
※ETF:上場投資信託(Exchange Traded Fund)。ETFは個別の株式などで運用されるため、日本銀行がETFを買うことで間接的に株価を買い支えることになる。
※バーナンキショック:当時のFRB(アメリカの中央銀行に相当)議長バーナンキ氏が金融緩和の縮小に言及し起こった株価の下落。日経平均は2013年5月23日に1143.28円(7.32%)下落した。
【異次元緩和発表後の日経平均(2013年4月3日~5月22日)】
日本経済新聞社 日経平均プロフィル ヒストリカルデータなぜインフレを目指す?「デフレスパイラル」を知る
黒田総裁が異次元緩和を導入した背景にはインフレ(物価上昇)目標があります。日本銀行は2013年1月に2%のインフレを目標として設定しており、黒田総裁はその早期達成を目指しそれまでにない強気の金融緩和に踏み切りました。
そもそも日本銀行はどうしてインフレを目指すのでしょうか? 理由はデフレ(物価下落)が経済にとって悪影響が大きいためです。
物価は企業にとって商品の販売価格です。つまり物価が下がるということは企業の売り上げが下がるということに他なりません。
売り上げはその企業の従業員にとって給与の源泉です。売り上げが下落している中では給与の上昇は望めないでしょう。そして給与が上がらないと消費は増えないため、さらに企業の売り上げが下落する要因となってしまいます。
企業からすると、デフレのもとでは、製品やサービスの価格を引き上げることができないため、売上や収益は伸びません。そこで、人件費や設備投資をできるだけ抑制することになります。家計においては、賃金が上がらないため、消費を抑えようとします。家計が消費を抑えると、企業は、消費を取り込むために、製品やサービスの価格を引き下げざるを得なくなります。
出所:日本銀行 なぜ「2%」の物価上昇を目指すのか──日本商工会議所における講演──
このようにデフレをきっかけに経済が連鎖的に縮小していく現象を「デフレスパイラル」と呼びます。日本は2001年3月に政府の月例経済報告においてデフレを認定し、その後も長らく物価の低迷から抜け出せていません。日本の景気が低迷している原因の1つと考えられています。
日本銀行はデフレから脱却し経済を好転させるためインフレを目指しているのです。
目標未達のまま尻すぼみの黒田バズーカしかし、異次元緩和を導入したにもかかわらず物価の上昇は思わしくありません。2012年に94.5だった「消費者物価指数(2020年基準)」は2021年に99.8まで上昇しますが、これは年率0.6%のインフレにとどまります。2021年はむしろ0.2%のマイナスになってしまいました。
【消費者物価指数(変化率)の推移】
2017年:+0.5%
2018年:+1.0%
2019年:+0.5%
2020年:±0%
2021年:▲0.2%
出所:総務省統計局 e-Stat 2020年基準消費者物価指数
2%のインフレ目標は道半ばですが、日本銀行は2021年にETFの買い入れを大きく減少させています。前年は買い入れ目標を年間12兆円にまで増額し約7兆1400億円のETFを購入しましたが、2021年は約8700億円しか買い入れていません。これは異次元緩和以前とほぼ同じ水準です。
【日本銀行によるETF買入額の推移】
出所:日本銀行 指数連動型上場投資信託受益権(ETF)および不動産投資法人投資口(J-REIT)の買入結果ならびにETFの貸付結果
ETFを通じた株価の買い支えはその影響力から「黒田バズーカ」とまで呼ばれていましたが、今やその面影はありません。
今後も株価が大きく下落する場面では日本銀行によるETF買い入れが行われるかもしれません。しかし以前ほどの規模は期待しにくいでしょう。日本株の実力が試されています。
執筆/若山卓也(わかやまFPサービス)
証券会社で個人向け営業を経験し、その後ファイナンシャルプランナーとして独立。金融商品仲介業(IFA)および保険募集人に登録し、金融商品の販売も行う。2017年から金融系ライターとして活動。AFP、証券外務員一種、プライベートバンキング・コーディネーター。
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