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孤独な「身寄りなし遺体」「無縁仏」…おひとりさまが向き合う過酷な現実

Finasee / 2022年4月5日 11時0分

孤独な「身寄りなし遺体」「無縁仏」…おひとりさまが向き合う過酷な現実

Finasee(フィナシー)

「身寄りがない遺体・遺骨」の問題

自分のお墓をどうするかは、前半に紹介した通りおひとりさまに限らず、入るお墓の決まっていない全ての人にとって課題といえます。特におひとりさまに関係するのは、お墓に入る前の段階です。

●「私のお墓は?」50歳独身女性の切実な悩み… 前半の記事を読む>>

市区町村には「身寄りのない人を火葬・埋葬する義務」があります。これがいわゆる「無縁仏」というものですが、本来は、行旅死亡人といって身元の分からない人が想定されていました。しかし近年は、身元が分かっているけれど火葬・埋葬を取り仕切ってくれる人がいないために、市区町村が無縁仏として火葬・埋葬をしなければならない例が増えています。先日もある大都市で、身寄りのない人のご遺体を長期保存し、火葬をしていなかったことが不祥事として報道されていたことをご記憶の方もいらっしゃるかもしれません。

火葬・埋葬をどのようにしたらいいか分からないことは、市区町村にとって負担であるというだけでなく、最期に「身寄りのない遺体」「無縁仏」として扱われることが、私たちの人生の望ましい形といえるかどうかという観点から考える必要があります。

それに疑問を抱いたことをきっかけに、神奈川県横須賀市は「エンディングプラン・サポート事業」として、無縁仏になるリスクの高い人(財産が一定額以下で身寄りのない高齢者)を対象に、葬儀社との生前契約を支援する独自の事業を始めました。生前契約を支援するだけでなく、個人と葬儀社が契約をしているという情報を市が把握することで、その人が亡くなったとき確実にその契約を実行することができるのが大事なポイントです。同様の事業を始める自治体も増えており、民間事業者だけでなく自治体での「終活」関連サービスも発展すると考えられます。

死後は、生前のように自分で決めたことを自分では実行できません。また、それをなんとなく決めてくれていた慣習や親族も減少する一方です。だから、自分の遺体をどうしたいのか、誰に葬送のプロセスを実行してもらいたいのかを決め、さらに、決めたことが必要なときに確実に周りに伝わるようにしておく必要があるのです。

生前契約によって「自分でできないことを他者に依頼する」

おひとりさまが増えている中、自分の死後に行わなければならないさまざまなことを、生前に依頼しておくニーズが増えています。家族の関係やライフスタイルは変化していますから、独身の人に限らず、子どもに負担をかけたくないとか、事情があって死後のことを託せないという場合も多くあるでしょう。

そのニーズに応えているのが「生前契約」と呼ばれるサービスです。元々は葬儀の事前予約のことを指していましたが、現在は各種の委任契約を組み合わせることで、「自分でできなくなることを他の人にやってもらう」段取りを自分ですることを指していると理解する方が正しいでしょう。

自分でできないこととして最も極端なのが自分の葬送ですが、生前にも、判断能力が低下して金銭管理ができなくなるとか、医療や介護の利用に関する手続きができなくなるなど、生活の質を自分で保つことが難しくなることがたくさん起こり得ます。それらについて、判断能力のあるうちに契約によって信頼のおける人に委任しておくこと全般を指して生前契約と呼ばれているようです。

そのうち、死後事務委任契約は委任できる内容がある程度決められています(①医療費の支払いに関する事務②家賃・地代・管理費等の支払いと敷金・保証金等の支払いに関する事務③老人ホーム等の施設利用料の支払いと入居一時金等の受領に関する事務④通夜、告別式、火葬、納骨、埋葬に関する事務⑤永代供養に関する事務⑥相続財産管理人の選任申し立て手続きに関する事務⑦賃借建物明け渡しに関する事務⑧行政官庁等への諸届け事務)。おひとりさまの高齢者が入院したり入居したりする際に保証人を立てるよう求められる(いなければ、入院や入居ができない)ことがあるのは、その人が亡くなった後に誰がこれらの手続きをするのかが不安視されているからです。

これまでは、高齢になってお金の支払い手続きができなくなったり、亡くなって葬送が必要になったりすれば、家族が自然にそれらを代わりに行ってきました。葬送のときは地域の人たちが慣習に従って手伝ってくれることも多かったでしょう。家族や地域に縛られずに自由に生きられるようになった反面、このように「何も言わなくても物事が進む」ことは期待できなくなりつつあります。お墓もその一例です。

遺言と死後事務委任契約のどちらが優先されるのか、死後事務委任契約の実行を誰が監視するのかなどの議論はありますが、元気なうちに、死後事務について誰に何を依頼するのかを明確に定めておくことはこれからますます重要になるでしょう。法律専門職や民間事業者はもちろん、一部の社会福祉協議会が死後事務に関するサービスを始めていますので、地域にどのような選択肢があるかをチェックしてみましょう。

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沢村 香苗/日本総合研究所 スペシャリスト

東京大学文学部卒業。同大学院医学系研究科健康科学・看護学専攻博士課程単位取得済み退学。研究機関勤務を経て、2014年に株式会社日本総合研究所に入社。研究・専門分野は高齢者心理学、消費者行動論で、「高齢者の身元保証人、身元保証等高齢者サポート事業に関する調査研究」など実績多数。著書に『自治体・地域で出来る!シニアのデジタル化が拓く豊かな未来』(学陽書房)。

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